第10話:妹と愛を確かめ合ったらスキルが発動しました
腰の長剣を抜いて左手で持って構えるがもともとは右利きなのでいつものようにはいかない。
ミーナが魔獣の群れに右手をかざした。
「いきます! 獄炎柱、三連撃!」
ミーナは一声叫んで右腕を下から上に振るう。
三匹のサーベルベアーの足元に赤の魔方陣が現れて地面から炎が吹き上がって空に向かっていく。
三匹は炎の柱の中に捕らえられ、炎が十字架に変わった。
「火球連撃!」
横に振るった右手の前にいくつもの魔方陣を出してシルバーウルフの群れに火球を連続して叩き込んでいく。
ドーン! ドーン! と爆煙が上がり魔獣の体が宙を舞った。
すごい!
ミーナは討魔軍黒魔道士の数人分の火力だ。
先制攻撃で二割ぐらいの魔獣を倒して包囲が開いたところにミーナの手を引いて走るが、残りの魔獣が一斉に向かってくる。
近づく魔獣にミーナが火球を撃ち込んでいくが、少しずつ距離を詰められる。
まずい、来る!
ついに一匹のシルバーウルフが火球をよけてミーナに飛びかかった。
させるか!
ミーナに飛びかかったシルバーウルフの首筋に剣を叩き込んだ。
斬り落とせなかったが致命傷となり、地面に倒した。
「おにいちゃん、すごい!」
「だてに十五歳から十三年も討魔軍で戦ってないからな!」
と言っても、その他大勢のモブ兵士、さらに最後の三年は後方支援、ついにはリストラされたぐらいだけど。
おにいちゃんも少しは格好をつけたいんだよ。
ミーナが放つ火球と火球の時間が長くなっていく。
近寄ってくる魔獣もそれにつれて増えてきた。
ハアハア……とミーナの息が上がり始めた。
マズい、ミーナは魔力をもうじき使い切る。
魔獣はまだ三分の一は残ってる。
女神様、ミーナを救うのが僕の転生の使命じゃないんですか?
こういうピンチでは転生した人間がチートスキルでヒロインを救うのがテンプレですよね!
昨日、やっと獲得したスキルの「増幅」とかも使い方の説明がなかったんでぜんぜん使えないんですけど!
……くそ、せめて、この魔道具が無ければ一人は逃げられるかもしれないのに。
「おにいちゃん、あそこに火球を打ち続けて道を作るので走り抜けて下さい。たぶん魔獣はミーナを狙ってます。だから、おにいちゃんを追わないはずです」
「だけど、どうやって……」
「短い間でしたけど、おにいちゃんのお嫁さんになれてうれしかったです」
もうあきらめたのか?
妹にはなったけどお嫁さんにはなってないよ……ってなにをするんだ⁉
ミーナが僕の腰から短剣を引き抜いて振りかぶる。
「ありがとう、おにいちゃん! ミーナは幸せでした!」
自分の手首めがけて思いっきり短剣を振りおろした。
ミーナも同じことを考えてたのか!
短剣がミーナの手首に当たる寸前でミーナの手首を握って押しのけた。
短剣の刃は僕の腕に振りおろされる。
ガシッと骨に食い込んだ強い衝撃が伝わり、傷から血がブシューと吹き上がった。
「……人の骨って意外に硬いから、ミーナの力じゃ切り落とせないよ。それにこういう装飾用の短剣は切れ味が悪いんだ」
痛すぎて感覚がなくなっていく。骨の半分はいったか。
いっそ、斬り落としてくれれば良かった。
「……ミ、ミーナの一族は手を斬り落としたら生えてくるとか、あとでつなげるとかできるのかな?」
「さすがに、それは無理です」
「だよね。オレが血をまき散らして魔獣を引きつけるから、ニーナは火球ぶっ放しながら、走り抜けろ」
つながれた右の手首を切り落とそうと剣を振り上げる。
「おにいちゃんは妹を守らないとな!」
「ダメー!」
ミーナは正面から僕に抱きついて剣の動きを止めた。
そのまま、背後に迫ったシルバーウルフ二匹を見据えて火球を撃ち込んで吹き飛ばす。
「ミーナ、まだ戦えます。二人で戦いましょう、最後まで……」
「ミーナ……」
僕はギューとミーナを左腕で抱きしめた。
もし時間があるなら、僕はこの子をきっと愛したはずだ。
こんなことなら”シンコンショヤ”のお願いを聞いてあげれば良かった。
つながれた血まみれの手の指と指を絡めてミーナが強く握ってきた。
右手は全く動かせないが左腕はまだ無傷、剣を構え直す。
「戦おう、最後まで!」
「はい、おにいちゃん!」
そのとき、あの機械音声が聞こえてきた。
対象者トノ同期率90%突破
スキル『増幅』発動条件達成
増幅ヲ開始シマス
スキルを獲得したときのような表示板が現れた。
スキル: 増幅 Lv 1
対象 : 魔道士 Lv 23
魔力 1150
再び機械音声のような音が聞こえる。
増幅率、100パーセント、150パーセント、200パーセント。
表示板の矢印の右側の数字がどんどん大きくなり、そして止まった。
対象 : 魔道士 Lv23 → Lv38
魔力 1150 → 2300
ミーナの目がカッと見開かれた。
「魔力がすごく増えていきます!」
ミーナの体を黒い禍々しい霧のようなものが包み始め、頭の両脇に丸まったヒツジのツノのような物が生え始めた。
えっ……これ、なに?
次回、『第11話:妹に「そんな人間いませんよ」と笑われました』に続きます。
更新の励みになりますので、ぜひ、★評価、ブックマークよろしくお願いいたします。