入口
アニロビ王国で暮らし始めて数週間が過ぎた。
こちらに到着して二日は、旅の疲れをとるためにアレンと出かけたり、部屋でごろごろしていた。
今はまた、アレンに鍛錬のメニューを言い渡され行っている状態だ。
筋トレは三日に一回のペース、あとは魔法の鍛錬。
「『ウォーター』」
ホースから水を出すように地面に魔法を発動する。。
「・・・だめだ! むず過ぎる!」
私は石を破壊する魔力操作ときのように行き詰っていた。
水をただ出す魔法『ウォーター』自体は超初歩的であり、発動させるのは簡単だ。
ただ魔法全般に言えることだが、発動するときかすかに体全体から魔力が漏れてしまう。
この漏れを完全に出さないようにするのが今の鍛錬だ。
アレンの口ぶりから、感情的な時に魔力が溢れないようにすることも改善すべき課題だと思われる。
・・・集中しろ
焦燥感が私を襲う。
魔力を練ろうとするが集中できない。
日に日に私は不安や心配が大きくなっていた。
なぜなら―――学園の試験がもう明日に迫っているからだ。
試験の内容は筆記と魔法の実技であり、合計で5割をとる必要がある。
筆記の内容は計算問題、文章問題、歴史。
このなかで私は歴史を諦めた。
決して覚えられなかったからというわけではない。
これは戦略的撤退なのだ。
勇気ある選択である。
うん、まじで。
だから魔法で得点を稼ぎたいのだが・・・。
「まずいよアレン!
このままじゃ試験落ちちゃうよ・・・!」
「はは、大丈夫だよ」
アレンに助言を仰ぐが、帰ってくるのはいつもこの言葉。
ほんとかよ・・・!
アレン曰く、私は魔法の才能がとてもあるらしいのだが・・・。
アレンのことは信じてるけど、私に甘い気がするからなぁ。
・・・まあ、私のことが好き過ぎるから仕方ないけど!
そんなことを考えていると、アレンがこちらをじっと見つめてくる。
「ハル、ニヤニヤしてないで集中しなさい」
「してないわ!!」
そんなこんなで、集中できない一日を終えた。
「大丈夫だ、頑張れハル」
「・・・うん」
私の頭に手を置き、励ますアレン。
朝はまだ肌寒い春の季節である。
私は目を閉じ、その手の暖かさを感じていた。
アレンが手を離し、私の背後に回る。そしてそっと背中を押した。
覚悟を決めるしかない!
もうどうやったって結果は変わらないんだ。
それに落ちたら落ちたでアレンとずっと一緒に暮らせるしね!
自分を鼓舞して歩きだし、門をくぐる。
すぐに一瞬立ち止まってしまった。
目を見開き、辺りを見渡す。
満面に広がる淡いピンク。
そんな色の花をつけた木々が、私たち生徒の行く道を示すように規則正しく並木になっていた。
「・・・きれい」
辺りを見渡しながらゆっくりと歩く。
少しして、周りの生徒の視線が自分に集まっていることに気づいた。
また視線が私に集まってる・・・!?
キョロキョロしてて田舎者っぽかった?
すぐに真っすぐに視線を向ける。
恥ずかしさから、速足でその場を逃げようとしたとき、私に近づいて来る人の姿が見えた。
「随分とあたりを見渡していましたね」
「ぁ、は、はい!」
視線を向けるとそこには、ニコニコと微笑む女子の姿。
ピンク色の目と髪、白を基調とした真っ白な服に真っ白な肌。
たれ目であり、なんでも包み込んでくれそうなやわらかい雰囲気が漂う。
そんな美少女が私に話しかけてきたのだ。
「ふふ、元気があってかわいらしいですね。
わたくしの名前はクラリスと申します」
そう言いじっとこちらを眺めてくる美少女。
「あ、あ、ハルです!
よ、よよろしくお願いします・・・!」
鼓動が速くなり、全身が熱くなる。
ちかいちかいちかい・・・!!
かわいいいいにおいかわいいかわいい・・・。
じっと見つめて顔を近づけるクラリスさん。
私はその場で固まることしかできなかった。
「そんなに緊張なさらないで。
試験ならきっと受かりますよ」
そう言い、私の右隣りにぴったりとくっつき、左腕で私の腰をそっと触る。
んん゛!?!?
なんだこのエッチな手!?
「それではまた」
驚き声を出す隙もあたえず笑顔で去っていく美少女。
私は数秒立ち惚けをし、意識を取り戻す。
なんか試験受かるって励ましてもたったな・・・。
・・・優しい。
えっちだ・・・。
建物の中に吸い込まれるように入る後ろ姿を眺め終え、私も再び歩き始めた。
入口で受付を済ませると、教員らしき人物から教室に案内された。
等間隔で並べられた長椅子と長机。
一番前には教壇と思わしき机が一つある。
指定された席に座り数十分。
その間、私と同じくらいの背丈の子たちが続々と中に入って来ていた。
そして、最後に封筒をもった大人が中に入り、扉を閉める。
私たちの前に立ち、少し大きめな声でゆっくりとしゃべりだした。
「これより筆記試験を始めます」
その言葉とともに緊張が走る。
だが、私は今それ以上にやる気にあふれていた。
あのえっちな女の子と一緒に過ごすんだ・・・!
私は指先に力を入れ、勢いよくペンを走らせた。




