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第94話 薄汚い泥棒猫

「だ、誰だお前は!!」


 失禁した主教の代わりに、他の聖職者がマリオを指差しながら叫んだ。


「私はフィナレス市冒険者ギルドのギルドマスターをしております、マリオと申します」


 マリオはそう自己紹介して、被っているハンチング帽を浮かせる。


「ぎ、ギルドマスターだと!?」


 その聖職者はそう口にすると、そこに現れた人間を、順になぞる様に目を向ける。


 そして、ある一人の所で目を留め、驚愕の表情を作る。


「出たわねぇ! ピチカぁ!」


 聖女デッサーテがヤマトから飛び降りると、ピチカと向かい合って対峙する。


「お久しぶりですわデッサちゃんっ!」


 ピチカはいつもの笑顔を彼女に向け、その名前を呼ぶ。


「お兄ぃ様をたぶらかす魔女っ! ここで会ったが百年目! 今日ぉはその憎たらしい顔をぉ、苦痛にゆがめて差し上げますぅ!!」


 先ほどまでのふわふわした感じからは想像できないくらいの語気で、デッサーテがピチカに聖杖を突きつける。


「あらあら、怖いですわー!」


 ああ、もうまためんどくさいのが増えたよ……。


「覚悟下さいましぃ! ホーリ・レ――」


「おいバカやめんか」


 そう言ってヤマトが帝国の聖女の頭を小突いて、杖を持った腕を押さえつけて二人の間に割って入る。


「お兄ぃ様退いて下さいっ! そいつ殺せないですぅ!」


 ポカポカとヤマトの胸を叩くデッサーテ。


「ヤマト。あなた妹がいたの?」


 トンバオのパーティーの魔法使い、モンティーヌがジト目を彼に向けながら尋ねる。


「確かに妹はいるが、こいつは別に妹じゃない」


 ヤマトがそう言うと、デッサーテはぷっくーと頬を膨らましてそれに抗議するような目を向ける。


「なんつうか、見た目と言い挙動と言い、どっかの誰かにそっくりじゃん」


 A級冒険者のベイエルが、その様子をジロジロ見ながらそう言った。


「デッサは確か、ピチカの従妹じゃなかったっけか? 帝国に嫁いだ、聖王の妹の娘だったはずだ」


 なるほど、それは似ていて当然だ。


「デッサちゃん、大きくなりましたわー! もうオネショは治ったんですのー?」


「黙るんですぅ! そんなものぉ二年前に克服しましたぁ! それにぃ、たった一つしか違わないのにぃお姉ぇさん面しないで下さぃ!」


 顔を真っ赤にして腕をブンブン振り回すデッサーテ。


「さてさて。で、そのデッサちゃんはどうやって俺を殺そうとしていたのかな?」


 そう言いながらヤマトは、デッサを抱き上げて、自らの肩に乗せる。


 その様子に、引き続き怪訝そうな目を向けるモンティーヌ。


「ええとぉ、まずはヤマトお兄ぃ様に架空の討伐依頼を出してぇ、同行したわたくし達が魔族と共謀してぇ――」


「わーー! わーわーわーわあああああーーーー!!!!」


 主教以外の聖職者二人が猛スピードでこちらに駆けて来て、大声を上げる。


「ちょっ!?」


 それに伴い、主教や兵隊を守る結界が消失して、焦り始める。


「待て! 違うんだっ! そうれは逆に魔族を罠に嵌めるための作戦であって……」


「何ぃ?」


 聖職者のその言葉を聞いて、女魔族が彼を睨みつける。


「ひいぃいっ!?」


「今更そんな言い訳しても、さっきの主教の態度で答えは出てるだろ……」


 ヤマトが呆れながらそう口にすると、


「い、いやその……それも作戦というかっ、ああ魔族様違うんです、そうじゃなくて――」


「浅墓な……。そもそもそんな杜撰な作戦で、勇者ヤマトをどうこうできるわけがあるまいに……」


 しどろもどろな聖職者に、ショヴエルもそう言ってため息をつく。


「で、どうするマスター? 十字軍の連中はどうでもいいとして、聖職者の連中はちょっと厄介だぜ?」


 ベイエルにそう尋ねられたマスターは、うーんと唸って空を見つめて、


「聖職者の不逮捕特権か……まあどちらにせよ、一度フィナレス市まで連れていくほかあるまい。対応はその後考えよう」


 そう言ってまた髭を弄り始めた。


「もうさここで魔族に襲われたことにして全員殺しちゃえば? 実際こいつらもいるし」


「ひぃいい!?」


 アメリアが魔族を見回しながら、再び物騒なことを言う。


「あんたそれだとやってる事が帝国と同じじゃない……」


 モンティーヌがアメリアを嗜めるが、いつものように怒鳴らないあたり、彼女も同じことを考えていたのだろうか。


「まあ、とりあえず彼らは全員捕まえるとして、魔族の方はどうするんですか?」


 僕はヤマトを見上げてそう問いかける。


「そりゃもう皆殺しだ」


 ゴアッ!!


 一瞬、ヤマトが何かやったのかと思った。


 しかし、すぐにそれは違うのだと気づく。


「っ魔族!?」


 またもや全く気配も無しに、一体の魔族がヤマトに対して腕を振り下ろしていた。


 当のヤマトは、当然のようにそれを躱すと、空ぶったその魔族の後頭部を雑に掴む。


「ぎゃぴぃぃ!?」


 ヤマトに何かをされた魔族は、悲鳴を上げて顔面から地面に突っ込んだ。


 ドッ!!!!


 その一部始終に気を取られていた時、猛烈な魔力がすぐそばから放出される。


「ギギギギギギギギ!! ガガガガガガガガ!!」


「っ!? 狂化か!?」


 ショヴエルがそう叫ぶとほぼ同時に、僕は反射的に結界を張り直す。


「デカシタゾ! オマエニハ アトデ ワレノチョウアイヲ サズケヨウ! イキテ カエレタラダガナ!」


 狂化した魔族が、高らかに吠える。


「うわああぁあああ!! ああぁああああ!!」


「ひいいぃいいい!? お助けえぇえええ!!」


 帝国側も一応結界は張り直したようだが、一部の人間が瘴気に当てられてしまったようで、パニックを起こしている。


「いい気味ですぅ。ヤマトお兄ぃ様を殺そうとしたぁ報いですぅ」


 ヤマトの肩の上で、クスクスと笑うデッサーテ。


「おいヤマト流石にまずいんじゃないんか? こいつ至爵とか言うとったぞ?」


 ダンパが少し心配そうにヤマトを見るが。


「いや、想定内だ。全く問題ない。でも多分、強力な隠匿能力か何かを持ってる上位魔族がどっかに隠れてるから、結界は絶対に切らすなよ?」


 ヤマトはいつもの調子でそう言うと、


「デッサ。ちょっと下りといてくれるか?」


 自分で乗せた癖に、そう言って帝国の聖女を肩から地面に降ろす。


「さて、久々の至爵だ。どう料理してやるか――」


「天にまします我らが神よ! 願わくばこの悪しき者に桎梏(しっこく)を成すのですわー! 『”|咎人の鎖”《ヴィンクラ=カプティヴォルム》!』


「あっ!」


 ピチカが聖杖を掲げると、魔族の真上から聖光と呼ぶべき眩い光が降りて来る。


「ナッ!? ナンダ コレハ!!??」


 それは狂化した魔族でも反応できなかったようで、その魔族はみるみる内に光に包まれ、真っ白になっていく。


「何でいつも勝手に神聖魔法を使うのかね……」


 ピチカといいデッサーテと言い、彼女たちは神聖魔法を何だと思って居るのだろうか。


 そして、その光が晴れた後には、光の鎖で拘束された魔族が現れたのだった。


「グウウゥ!? カラダガッ!? カラダガ ウゴカヌ!!」


 魔族はバランスを崩し、体を伸ばしたまま地面に倒れる。


「すご……神聖魔法って、上位魔族じゃろうがお構い無しなんね……」


 何とかそれを振りほどこうとするも全く身動きが取れない女魔族を見て、リーベットが驚きの声を上げる。


「まあいいか。神聖魔法の上から”魔王の加護”に干渉できるかも気になってたし」


 ヤマトが倒れている魔族に近づこうと、足を一歩踏み出す。


 がしっ!


「……何だいピチカ? やっと俺の気持ちに気づいてくれたのかい?」


 ピチカに抱き着かれたヤマトが、フッっと笑って決め顔を作る。


「違うんですのー! あれは私の獲物ですのー!」


 そう言ってピチカは、倒れている魔族の元へトテトテと駆け出していく。


「いや、至爵なんて滅多に会えないんだからさぁ……」


 ピチカはヤマトの言葉を無視して、魔族の横に立つ。


「キサマ!! コノワレニ ナニヲ スルキダッ!!」


 魔族はもがいているが、体を曲げる事すらも出来ない様子だった。


「わたくしのサンドバッグになってもらいますわー!」


 ピチカは嬉しそうな声を上げて、さっそく聖杖を掲げる。


「グヌヌ!? コンドハ ドンナマホウヲ ツカウ ツモリダ!?」


「ウンコが我慢できなくなる魔法とかどうだ?」


 ベイエルがまた下品な事を言って、モンティーヌに睨まれる。


 まあ、そんな事を言っているが、おそらく彼女がやろうとしている事は、皆なんとなく察しているだろう。


「クッ……コロセッ!! ソノヨウナ ハズカシメヲ ウケルクライナラ シンダホウガ マシダッ!!」


 そんなセリフを吐くと、今からピチカがエロ同人みたいなことをするっぽくなるじゃないか……。


 ……いや、まさかね。


「天にまします我等が神よぉ! 願わくわぁ我等を悪より救いたまえ! 『”|神々の集いし家《アエデス=カテドラリス》”』


 ん?


 パアアアアア。


 再び聖光が差し、今度は先ほどよりも広範囲がその光にのまれる。


「……何やってるんですか?」


 僕はそれを唱えた声の主、帝国の聖女デッサーテにそう尋ねる。


 彼女は聖杖を掲げ、自身に満ち溢れた表情でそこに立っている。


「きゃははははははっ!! これでぇ薄汚い泥棒猫が始末できますぅ!!」


 デッサーテが甲高い笑い声を上げると同時に、ピチカが魔族に施した魔法の鎖が音を立てて弾け飛んだ。

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