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第93話 プレミ

「き、貴様等……一体どうやってここまで近づいて来た……」


 女魔族が、思わず一歩後ずさりながらそう口にする。


「ねえ、アキちゃん今のどういう意味? どういう意味?」


 そしてリーベットは僕の横で、しつこく今し方の口上の意味を聞いて来ている。


「くっ……まさかこの我が此処までの接近に気づかぬとは、貴様等只者では無いな! それに……」


 肩を震わしながらそう言って、魔族は正面の二人を交互に眺めた。


「……か、カッコイイではないかっ!」


「えぇ……」


 本当に悔しそうな表情をしながら、魔族がグッと右手で握りこぶしを作る。


「アキちゃん今の何なの? ねえ、アキちゃん何なのって聞いてるの!」


 魔族のセンスは本当に良く分からない。


「しかし助かったな。ヤマトが来たならこの場はもう大丈――」


「ヤマトお兄ぃ様ぁーー!!」


 言いかけたショヴエルの横を、聖女がそう叫びながら駆け抜けていく。


 ガシッ!


 そして、その勢いのまま勇者ヤマトに()()()()()ホールドで抱き着いた。


「やっぱりデッサだったか……」


 少し呆れたように言いながらも、ヤマトはその聖女のほっぺたをプニプニとつついている。


「お兄ぃ様! お会いしたかったですぅ! わたくしぃ、聖女になりましたのぉ!」


 どうやら彼らは知り合いの様だった。


「誰よその女!」


 そしてアメリアもお決まりの言葉を口にする。


「で、デッサーテ様何をなさってるのですか! あなた様は聖女なのですよ! そんな汚らわしい男に、何て……はしたないお姿を!」


 聖職者の一人が慌てて止めようとするが、その傍にいる魔族を見て足を止める。


「貴様等! 我を差し置いて良い度胸じゃ……待て、今其の雄猿の事を何と呼んだ?」


 ハッとした表情で、振り上げた手をゆっくり下ろす女魔族。


「いや、ちゃんと最初に名乗っただろ。俺はトマトだ」


「アメリアちゃんだぞ!」


 魔族の疑問に、いつものボケを繰り出すヤマト。


「主教様! あの制服は聖王国の憲兵団長の者です! あれは勇者ヤマトです!」


「何いい!!??」


 その聖職者の言葉に、主教では無く代わりに魔族がおののく。


「あ、あれが勇者ヤマト……」


「清らかな聖女様に、なんと破廉恥な! うらやましい……」


 兵士たちも、次々に驚きの声を上げる。


「デッサーテ様! すぐにそこをお離れ下さい! その者は件の勇者ヤマトですぞ!」


 主教が声を荒げるが、また何やら気になる言い回しをしている。


「実は少し前からちょっと観察してたんだが、お前ら一体何やってんの? 件のって言ってるけど、今回の件は俺、関係ないだろ?」


 ヤマトが聖女に抱き着かれたままそんな事を言っているが、僕は何時から見ていたかの方が気になった。


「そうなんですのヤマトお兄様ぁ。皆様酷いんですのぉ。何でもぉ、お兄様を”人魔協定違反”の罪で処刑するとか何とかぁ……」


「はぁ?」


 わざわざこんな場所に帝国の主教と聖女がいるという事は、ただ魔族に会いに来ただけでは無いとは思っていたが、まさかの告白に周囲がざわつく。


「ちょ!? 聖女様何を言ってるんですか! ()()するなんて言ってないでしょう!」


 今までで一番焦った様子で、帝国の面々がオロオロとお互いを見回している。


「わたくし知ってますのぉ。あの作戦はぁ、どう考えてもお兄様を捕らえるためではありませんのぉ」


「聖女さまぁああああ!!??」


「デッサ、その話詳しく」


 ああ……言いたくないんだけど、帝国ってやっぱり……。


「帝国はバカなんかのう? 出来の悪い詩曲でももっと練って作られとるがのう」


 言いにくい事を、バッサリと言ってしまうダンパ。


「どうやら我等は関係ない様で有るな! では先刻伝えた通り、我等はこの辺で去るとするか……」


「神よ! 悪しきを捕らえたまえ! 『封魔の籠(ホーリ・カヴェア)!』」


 ピキィーーーン!!


「……え?」


 逃亡を図ろうとした魔族を、聖なる檻が囲った。


「ふふふふふ……逃がしませんぞ魔族様……」


 遂にとち狂ったか。


 主教が聖杖を振り上げ、その魔族に向けてそう言った。


「おい。あたしも入ってんだが?」


 そして、その檻の中にはヤマトとアメリア、そして聖女も含まれている。


「まさかここまで聖女が使えぬとはな! 少々予定は狂ったが、予定通り勇者ヤマトには消えてもらおう。聖女も一緒にな!」


「しゅしゅしゅ主教様!? 流石にそれは!?」


 遂に本性を現した主教が、邪悪な笑みを称える。


「いやだからあたしは関係ねーだろ!」


「おい、見てないで儂を守らぬかバカタレ!」


 主教にそう言われた聖職者が、慌てて結界を周囲に施す。


「ほら魔族よ! 早く”狂化”してそ奴らを殺さぬか! そうしなければ殺られるのは自分だぞ!」


 ここぞとばかりに言葉をぶつける主教だが、


「おいアキ。私の認識だと、あの聖魔法は……」


 そう言ってショヴエルが戸惑った目を僕に向ける。


 その中、ヤマトが半笑いで口を開き、


「いやこれ……普通に出れるんだけど……」


 そう言ってスタスタと檻の外へ出て行く。


「あ。そういえばそうか」


 アメリアも同じように檻から出て来る。


「んんんん? あれぇ……?」


 間抜けな声を出して首を傾げる主教。


 そりゃそうだ。

 あの魔法は、闇の魔力に反応してそれを通さないようにする物だ。


 完全に魔力を消してやれば、結界に引っかかることは無い。


「カードの効果はちゃんと読んでから使いましょう!」


 高らかにプレミを指摘するアメリア。


 主教の顔がみるみる青くなる。


「し、しかし主教様! あの魔貴族は結界の中に捕らわれたままです。今のうちになんとか――」


「此の()が何だって?」


 パリーンッ!!


 魔族がそれに触れた瞬間、あっけなく結界は砕け散ってしまう。


「あひゃああぁああああああああ!!」


 主教が悲鳴を上げて、また尻もちをつく。


 ジョロロロロロロロ……。


 そして、主教は湿やかに失禁した。


「あわあわあわ……聖女様!! 結界を!! 早く結界を!!」


 もうてんやわんやの帝国正教会の面々だが、魔族に四方を囲まれてしまって、身動きを取れずにいる。


「なあもうまたあたしのファイヤーバーズで全部燃やしちゃっていいかな?」


 アメリアが頬を掻きながら物騒な事を言い始める。


「あのファイヤーバーズはあなたのものじゃないでしょう、アメリア」


 僕がどうするべきか考えていると、また別の女性の声がどこからか聞こえて来る。


「もういいぞピチカ君。結界を解いてくれたまえ」


 今度は男性の声が聞こえる。


 その瞬間、何も無いと思われた空間に一瞬ノイズが走ったかと思うと、そこに数人の人影と魔動車が現れた。


「うおわぁああ!?」


 驚いて咄嗟に彼らから距離を取る女魔族。


「話は聞かせていただきましたぞ主教殿。大変な事をしでかしてしまいましたな」


 ギルドマスターのマリオが、髭を撫でながら一歩踏み出した。

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