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第92話 にゃーんてにゃ!

 バリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!


「ひぃいいいいいいぃいい!!」


 女魔族の声を合図に、魔族達が一斉に結界に攻撃を始める。


 いかに聖女の結界と言えど、全方位から強力な結界破壊魔法を掛けられて、激しく明滅しながらその形を歪ませていく。

 このままではあと数分も持たないだろう。


「あらあらあらぁ。どういたしましょうか主教様ぁ?」


 依然としてふわふわした声で、全く危機感のない聖女だが、それに反して主教は再び尻もちをついてあわあわしている。


「おお……お前ら! 何とかしろ!!」


 震える声でこちらを指差し、叫ぶ主教。


「アキ、どうする? こんなに大勢いたのでは、お前の切り札も決め手にはならないのでは無いか?」


 ショヴエルの言う通り、相手が一体であれば僕でも何とか出来た可能性が微レ存なのだが、この数は流石にどうしようもない。


「じゃあ、アキちゃんはその力でここから脱出して、助けを呼んできてくれん? ここはウチらで食い止めておくけん」


「リーベットさん、それは死亡フラグですよ。それに、それの判断をするには時期尚早だと思います」


「しぼうふらぐ?」


 そう。

 あの聖女は間違いなくまだ全力を出していない。


 そして、神聖魔法も最初の一回しか使っていないのであれば、まだ今日の回数制限には引っかかってないはずだ。


「デッサーテさん。時間がありません、あなたはここから何が出来ますか?」


 僕はぼーっとしている聖女に対して、声をかける。


 周りの神官に何か言われるかと思ったが、どうやらそんな心の余裕は無さそうである。


「うーん……普通の魔法ではぁこの魔族ぅ? を全部倒すのは難しそうですぅ。でもぉ、神聖魔法ならぁ……」


 そう言って彼女は、神官の方をちらりと見る。


「無理だ! ()()作戦でこの数は絶対に無理だぁ!!」


 その後ろで、兵士たちもブンブンと首を横に振っている。


「可能なら神聖魔法の結界を張ってください! あれなら当分は持ちこたえられるはずです!」


 もたもたしている彼らに痺れを切らした僕は、彼女にそう懇願した。


「ああおっしゃてますけどぉ、いいんですかぁ?」


「悠長なことをしていたら本当に全滅してしまいますよ!? 早くしてください!」


「ま、待て! いや、しかし……いや……あばばばばばば……」


 マジで何言ってんだこのクソジジイ。


「仕方ない、あの女魔族だけは僕が何とかしますから、後の事は頼みますよ!!」


 僕は意を決して女性魔族と向かい合う。


「何を企んで居るか知らんが、やれる物ならやって見るが良い!」


 聖女の結界が大きく歪む。


 ――割れるっ!


 パアアアアアアアアンッ!!


「頼む! 発動してくれっ!! オーバードラ――」


 ――!?


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!


「ぐあぁ!?」


「ぎゃぁあ!?」


 僕が覚悟を決めて()()をしようとした瞬間、謎の攻撃が魔族達を襲う。


「くっ!? 何事だ!?」


 女魔族が振り返り、そこにある道の先を睨みつける。


「『”大障壁(ジュゴ・シルドー)”』!」


 魔族が障壁魔法を目の前に展開する。


「『”炎の鳥(パタリィ・フォルダ)”』!」


 そして、間髪入れずに攻撃魔法をその向こうへと打ち込んでいく。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!


「な、なんだ!? 一体何が起こっている!!」


 困惑する神官と兵士。

 そして、魔族達も何に攻撃されているか分からず、そのマシンガンの様な魔法が飛んでくる先を目を細めて見つめている。


「くっ!? 何だ此の魔法は!? 一発一発がアダマンティンの様に重いぞ!!」


 女魔族もその攻撃を防ぐのに必死で、背中ががら空きになっている。


「ぐぅ……此れはたまらんっ! お前ら! 自分の身は自分で守れ!!」


 魔族がそう叫ぶと、大きな音を立てて障壁が割れる。


「がっ!?」


「ぐはぁあ!!?」


 逃げ遅れた魔族に、その魔法の乱れ打ちが容赦なく襲いかかる。


「伏せろ!! 伏せろぉお!!」


 誰ともなくそんな叫び声が聞こえ、流れ弾を食らわないように、こちらも体勢を低くしてそれをやり過ごす。


 ゴオオオオオオオオオオオオッ!!


 そんな中、今度は大量の炎の鳥が彼方から飛んできて、空を覆いつくすように羽ばたく。


「”炎の鳥(パタリィ・フォルダ)”だと!?」


 女魔族の反応的に、これは彼女の魔法とは別の物の様だ。


 上空では、そこに退避していた魔族が、必死にそれと格闘していた。


「あはぁ! すごいですぅ! 真っ赤な鳥さんがいっぱい飛んでますぅ!」


「くそっ! 何奴かは分からんが、調子に乗るなよ!!」


 まるで初雪にはしゃぐような聖女と、必死で攻撃を防ぐ魔族との対比で風邪をひきそうになる。


「此れは骸骨剣士に殺られた妹の分だ!! 『”深淵からの一撃エンスバーン・ゲフェヌシシン”!!』


 ズドーーーーン!!


 女魔族がレーザービームの様な鋭い魔法を放つ。


 それは目ではとらえられない様な勢いで飛んで行き――。


 バキャアアアアンッ!!


「ギャッ!!?」


「うおぉお!?」


 その女魔族のシールドを打ち砕き、何かが物凄い勢いで僕らの頭上を突き抜けていった。


「うぐぅ!? は、跳ね返しただと!?」


 それが掠めた肩を押さえて、魔族が驚きの声を上げる。


「一体何なんだ此れは!! 見えぬ所でコソコソして居ないで、姿を見せぬか卑怯者ぉ!!!!」


 魔族が大地に響くような大声を、その先に居ると思われる何者かに叫ぶ。


 すると、それまで横殴りの雨のように打ち付けていた魔法がピタリと止み、騒音が止んだせいで耳鳴りが聞こえて来た。


 やがて、上空の炎の鳥たちも落ち着いて、辺りは嘘のような静けさに包まれた。


 しばらくその場の全員が、貼り付けに合ったように一点を見つめていた。


 しかし、その見つめる一点には何も映る気配はなく、時間だけが刻々と過ぎていく。


「……アントシア様。どうされますか?」


 一体の魔族が、ゆっくりと女魔族の元に降りて来て、そう耳打ちしていた。


「おい其処の雌猿。貴様はあれが何なのか心当たりは無いのか?」


 魔族は僕に目くばせして尋ねて来る。


 また女だと思われてる……。


「……さあ? どうなんでしょうか?」


 時間稼ぎをしていた事はバレているので、おそらくあれが僕達の待っていたものであることは魔族側も察しているだろう。


「姿を見せろと言って居るであろう!! 貴様は何者だ!!」


 女魔族が再び大声で吠える。


 すると、目の前の空間が一瞬、歪んで見えた気がした。


 そう思った時だった。


「……なんだかんだと聞かれたら」


「……答えてあげるが世の情け」


 その何も無いはずの空間から、突然声が聞こえて来た。


「世界の破壊を防ぐため……」


「世界の平和を守るため……」


 その男女の声には聞き覚えがあった。


「力と権威で正義を貫く……」


「アクティブ・バイオレンスな救世主……」


 そして、このセリフにも覚えがある……。


「……ヤマト!!」


 その言葉と共に、まるで光学迷彩のカーテンをくぐるように長身の男性が姿を現す。


「……アメリア!!」


 更にその隣に、背の小さな少女が並ぶ。


「異世界に呼ばれし転生者の二人には!」


「ピーター・プラウド サイコなホラーが待ってるぜ!」


 その二人が、同時に僕を見る。


 ……。


「にゃ、にゃーんてにゃ!」


「え??」


「は??」


 周囲の人間と魔族が、一斉にこちらへと視線を注ぐ。


 僕は、火が出るかと思うほど、顔が熱くなるのを感じた。

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