第86話 宗教
アメリア。
本名、アメリア・シャーリー・ワシントン。
アメリカからの転生者。
幼少期をアメリカで過ごし、その後色々あって日本に渡ったらしいが、これは俺の死後のためアメリアの日本在住時の情報は転生後に聞いたものになる。
どうやら俺が死んだあと、彼女の両親は幼いアメリアを残して蒸発してしまったらしく、それを不憫に思った俺の親族がアメリアを引き取ったとの事だ。
下手に有名人だったせいで、日本に居ながらも彼女の幼少期は散々な物だったようで、それは愛に飢えているのに人間不信という現在のアメリアの歪な性格を作るのに大きく貢献していると思われる。
そんな彼女は、これまた最悪な形でこの世界に召喚されることになるのだが、これについては流石の俺も同情を禁じ得ず、詳しく話を聞く気には全くなれない。
「ああ、オレも魔動車に乗りたかったなぁ。いいなぁ……」
オリー。
本名、メープル・オリヴァー・ホートン。
カナダからの転生者。
キラキラネームとも言うべき自身の名前が嫌いで、普段はミドルネームを名乗っている。
本人が言うには、学のない成金の両親に育てられ、学歴コンプレックスをこじらせた彼らに相当なスパルタ英才教育を施されたとのことで、それから逃げるために勝手に軍に志願して入隊したらしい。
自称エリートで、海外派遣にも積極的に手を上げていたらしく、その派遣先で死亡した説が濃厚なのだが、真意は不明。
ウンチクを語る癖があり、それだけならまだウザイで済まされるのだが、知ったかぶりをしたり誇張したりする事が多く、それがアメリアやピチカの問題行動の引き金になる事がある。
「ピチカこそ魔力があり余ってんだからボードに乗るべきだろ何であいつばっか優遇されんだよ」
ピチカ。
ピチッカーテ・(なんか長い名前が入ります)・ストライバル。
聖王国国王の三女で所謂王族だが、側室との子らしく他の姉妹と比べて若干雑な扱いを受けている。
しかし、そう言う割に聖王や他の兄弟から溺愛されており、彼女が聖女たるのも様々な事情があるとはいえ、ピチカを守るための物だろうと俺は思っている。
この世界の最大魔力量保持者であり、その危険性から紆余曲折あって現在は俺のパーティーに隔離されている。
名前はピッチカーテではなく”ピチッカーテ”である。
「お? なんだもうそんな口が叩けるようになったのか? あのままずっと大人しくしてれば、もうちょっと大事にしてもらえるんじゃね?」
ベイエル。
家名は知らない。
田舎貴族の末っ子で、世継ぎからは完全に外れているため、早々に家を出て冒険者になったらしい。
たまに実家の愚痴を言っているが、交流は続いているようで、仲が悪いわけでは無い模様。
数少ないA級冒険者で容姿も整っているが、遊び人風の装いと軽薄そうな性格が女性に敬遠されるらしく、彼女が欲しいが口癖である。
「あなたも大人しくしてれば、もう少しくらい女性に相手にしてもらえるんじゃないかしら?」
モンティーヌ。
聖王都の魔導院を出ており、導士号を取得している。
冒険者としては、魔法使いの上位職であるウィザードを名乗る。
フィナレス市の魔法学校で講師も務めており、他の魔法使いから一目置かれる存在なのだが、お堅い性格がキツイ印象を与えており、実際に厳しい言動が目立つため、鬼のモンティーヌと呼ばれて恐れられる。
魔導院時代に結婚していたらしいが、現在は独身の模様。
それについて様々な噂を聞くが、本人が過去をあまり語らないため、真意は不明。
「俺、あの時ちゃんと”待機”って言ってたよなモンティーヌ? なんで二人とも居ないんだよ……」
トンバオ。
モンティーヌのパーティーのリーダーで、スカウトの上位職、レンジャーである。
リーダーなのに地味なのが悩みらしいが、実際頼りない感が拭えない。
よく女性陣二人の板挟みにあっている所を目撃するが、若干ハゲかけているのは個人的にそのせいだと思っている。
今回は伝達ミスか勘違いかは分からないが、残りのメンバー二人がどっかに行ってしまったらしく、うちのパーティーと臨時を組んている。
「まあ、どうせ俺達はマリオの取り巻きとして後ろで威圧してればいいだけだろうし、こんだけいればいいだろ」
マリオ・ポーロ。
イタリアからの転生者。
元冒険者で、現在はフィナレス市冒険者ギルドのマスターをしている。
ボーゼンドルフ辺境伯とは若いころからの付き合いらしく、現在もかなり親しくしている印象がある。
最前線の町で癖の強い冒険者達を上手く取りまとめている相当なやり手で、次期グランドマスターの呼び声が高い。
俺も彼には面倒をかけっぱなしのため、いささか頭が上がらない。
今俺達は、マリオとピチカを乗せた魔導車を伴って、昨日ユラリが魔族の襲撃を受けたという現場に赴いている所だった。
いつもと違い、今回は魔物との戦闘ではなく対人であるため、俺達は基本的に後方腕組みマンをやっていればいいとの事だった。
しかし、それは何だかヤクザのやり方な気がして、俺としてはあまり乗り気ではない。
そんな俺とは違い、三人ほどノリノリなメンバーが、楽しそうに談笑していた。
「いやー、それにしても帝国正教会の聖職者かー。一体どんな奴らなんだろうなー」
オリーが何かを妄想しながら、誰に言っているのか分からないが、そんな事を言っている。
「どうせいけ好かない連中だろ。まあどんな奴だろうとあたしがぶっ飛ばしてやるがな!」
さっきの憂さ晴らしだと言わんばかりのアメリアだが、そんなことをされたら困るので、もう一度釘を刺しておく必要があるだろう。
「オレもカッコイイ服着てくればよかったなぁ。ヤマトはいいよなー、いろんな肩書持ってるから、無駄に制服持ってるよなぁ」
オリーのその発言に、普段ならファッションショーに行くんじゃないんだぞこのハゲ―と突っ込むところだが、今回の様な場面で見栄は重要な要素である。
そのため、俺は憲兵団団長の正装をしており、ボーランの館に乗り込んだ時のように、無駄に勲章なんかつけちゃったりしている。
「モンティーヌも、大人の魅力が増して色っぽいぜ☆」
「は? それって私がババアって言いたいの?」
ベイエルにキレるモンティーヌも、魔法学校の講義の時にも見せない魔導士の装いをしており、ベテランのオーラを醸し出していた。
「あたしも軍服貰っとけばよかったかなー。でもあれって言ったらくれるものなのか?」
そう言えば、バジョンがアメリアは聖王国軍の魔術士団に籍があるとか言ってたな。
あれは今どうなっているんだろうか。
てか、さっきから談笑というか各々が好き勝手言ってるだけでだれもまともに会話をする気が無いようである。
今から正教会政府と対峙するのに、こんなんで大丈夫なのだろうか。
いや、実際に会話を試みるのはマリオとワンチャン俺とモンティーヌなので、こいつ等は黙っててもらわなければいけないんだったな。
「ヤマト。あなたは帝国正教会の人間と関わった事あるの?」
ふいにモンティーヌが俺に質問をして来る。
「あると言えばあるが、正直お互いあまり関わり合いたくない様な感じなんだよな。お前はどうなんだ?」
「おい何であたしの質問には答えないのにババアの質問には答えるんだよ!」
質問って軍服の話か?
俺が知る訳ないだろうが……。
「魔導士時代にちょっとだけ一緒に仕事してたんだけど、王国出身の正教会信者は話の分かる人がほとんどなのに、帝国から出張で来てる神官なんかは総じて感じが悪かったわね。なんだか最初から見下して来てるような?」
この大陸にはいくつかの宗教があるのだが、その多くは同じ神を信仰しており、むしろ宗派に近いものである。
しかし、二大巨塔とされる帝国正教会と聖王国教会はどちらがオリジナルかで聖王国が発足以来常に睨み合いを続けいる。
一見すれば勇者含む転生者の数で勝る聖王国が優位に見えるが、前世の宗教と違って”神”というものが明確に存在するこの異世界では、宗教間の争いを明確に禁じている。
もっと言うと、勇者やそれに準ずる者の対人戦争への介入も禁止していて、その判断は神が直接下すことになっている。
これは”聖なる審判”と呼ばれ、前世の知識を用いた過度な技術提供等にも発動するため、世界の均衡を保つために不可欠なものなのだ。
歴史上で一番これを受けたとされるフォルクは、その事を”神とのチキンレース”と称していた。
「何でどの世界も宗教ってこうなのかね? 今考えるとうちの親とか相当ヤベー事言ってた気がするわ」
アメリアの両親は宗教うんぬん以前に人として終わっていたので、信徒たちも一緒にしてほしくは無いのではなかろうか。
「この世界の特に帝国は宗教イコール政府だからな。政教分離っていうのはオレ達現代人の感覚で、もともとはオレ達の世界も宗教が国を牛耳ってたんだよ」
「あなたたちの世界について私も調べた事があるけど、随分と人間同士で殺し合ってるらしいじゃない? 異世界人はいかにも自分達が文明人のように語るけど、私には到底そうは思えないわよ?」
「それを言われると耳が痛いが、しかし魔族や魔法の存在というのが――」
何か話がマズい方向に向かっているため、俺は激論を交わすオリーとモンティーヌからそっと距離を取る。
同じことを思っていたのか、俺は同様に距離を取ってきたトンバオとかち合った。
「お互い、苦労するな……」
そう耳打ちをしてきたトゥンバオに対し、
「まあ、苦労の方向性は少し違うがな」
そう返して、進む先の山のふもとに広がる森林を眺めるのだった。




