第85話 密告者
「流石にアメリアが可愛そうじゃないか?」
モンティーヌのパーティーのリーダー、レンジャーのトンバオが俺達の話を聞いてアメリアに憐みの目を向ける。
当のアメリアは、俺達に背を向けて机に突っ伏している。
冒険者ギルドの昼下がり。
俺は例のごとく、いつものカウンター前に陣取って、先ほどの決闘(笑)の感想を話し合っていた。
「可哀そうって、あの子そもそも魔法使いですらないんだけど」
モンティーヌが腕を組んで、トンバオに言葉を返す。
「え!? どういう事!?」
驚くトンバオに対し、モンティーヌが簡単に事情を説明する。
すると彼は、到底信じられないと言った顔をして、再びアメリアに目線を向けた。
「一応言っておくが、他言無用で頼むぞ……」
と言っても、おしゃべりのベイエルが既にこの事実を知ってしまっているため、遠くないうちにこの噂は広がってしまうだろう。
「あークソ……ひどい目に合った……」
そう俺達にわざわざ聞こえる声で言いながら、そのベイエルがギルドの裏へ続く扉から出て来た。
面倒なので俺達は無視していたが、ベイエルが明らかに俺達を見ながらこちらに歩いて来るのが目に入ったので、俺は観念して彼に声をかけた。
「何? どうしたんだよ?」
全く、なんで毎回噂する度に出て来るのかねコイツは……。
「だってもヘチマもねーよ。なんか憲兵とギルドマスターが、俺が密告者なんじゃねーかって疑いをかけて来たんだよ」
「密告者? 密告者って最近噂になってる、魔族に情報を漏らしてる奴がいるって話か?」
俺がそう問い返すと、ベイエルは頷いて、
「そうそれ! そんな事して俺に何のメリットがあるってんだよ! 絶対ギルド職員の誰かだろ」
しかしそう言われれば、いっつもギルドでぶらぶらしてて、それなりに魔族と関わっている奴という事であれば、ベイエルは普通に怪しいんじゃないだろうか。
「魔族と親しくしてメリットがある人間と言えば、力が欲しいやつか魔族信仰者だろう? この町にそんな奴いるか?」
トンバオがそう言うと、
「あと”帝国正教会政府”の人間ね。私はここが最有力だと思ってるわ」
そんな話をしていると、再びカウンター奥の扉が開き、そこからギルドマスターのマリオが姿を現す。
「オホン。ベイエル君の事だからさっきのは既に話し終えた後かな?」
そう言いながら、マリオもこちらへと近づいて来る。
「そりゃもちろん。だって口止めされなかったからな!」
「君は口止めしても言ってしまうだろう?」
マリオは髭を撫でながら、ベイエルに諦めた様な顔を向ける。
「んでマスター。何か言い忘れた事でもあるのか?」
けん制するような言い方で、ベイエルが彼に尋ねる。
「君の事だから、どうせ過大な話し方をしたんだろうが、言った通りさっきのは君を容疑者から外すために呼んだだけだよ」
マスターの言葉を聞いて、とぼけたようにそっぽを向くベイエル。
「それで本題だが、昨日の昼頃、ユラリ君達が魔族に襲われたと報告を受けた」
昨日と言えば、レンブラント達と揉めてた所か。
たしかあそこはツーバのパーティーで、奴らはここではそれなりの実力者だったはずだ。
「その魔族なんだが、ついに”至爵”が出たらしい」
そのワードが出て、俺達は一斉に顔を上げてマリオを仰ぐ。
「幸いなことに死者は出なかったようだが、その至爵の魔族は逃がしてしまったらしい。しかし、三体の魔貴族の首を確保したようだ」
「って事は、合計四体の魔貴族を相手にしたって事!?」
モンティーヌが驚きの声を上げる。
ユラリの事だから心配はしていないが、その状況でよく死人が出なかったな。
やっぱり、俺よりアイツの方がワンチャン強いんじゃないか?
「んで、その事が俺達に何の関係があるんだ?」
最高ランクの魔族が出たのだから、俺達に関係が無いという事は無いだろうが、わざわざマリオが伝えに来たという事は何か理由があるのだろう。
「では本題に入るが、その事後処理に隣町のギルドの職員と冒険者が当たってるんだが、どうも帝国正教会と揉めてるみたいでな」
出た!
といったような表情をするモンティーヌ。
「それで悪いんだが、ヤマト君とトンバオ君のパーティーにその仲介をお願いしたい。君達のパーティーには聖女と修道僧もいるし適任だろう。それには私も同行させてもらう」
「それで昨日、急に明日の予定を開けておいてくれって言ってたんですか? それならもっと早く行ってくれても良かったのに」
トンバオがマリオにそう尋ねると、
「それは申し訳なかった。しかし、あの段階では事態がどう転ぶか分からなかったものでね」
どうやら、事態は思ったより複雑なようだ。
「なあ、俺はどうなるんだ?」
一人はぶられてしまったベイエルが、不服そうにそう口にする。
「どうせ付いてくるのだろう? ただ、あまり事を荒立てたくないので、いざという時以外は大人しくしておいて欲しい。特に……」
そう言ってマリオが視線を向けた先には……。
アメリアが横目でこちらの様子を伺っていたが、目が向けられたことに気づくと、すぐにまた先ほどのテーブルとにらめっこに戻った。
「……ほんとは置いて行きたいんだが、少しでも彼女の実績を作りたいので、連れて行かざるを得ないんだ」
マリオが小声で俺に耳打ちしてくる。
「もう昼を回ってるわ、早く出た方がいいんでしょ? 私グラーベとサルッサを読んで来るわ」
モンティーヌの言葉が合図になったように、俺達は急いで冒険の準備を進めるのだった。




