第84話 私が強いんじゃなくて、この子が弱いだけ
ズドーーン!!
「全弾命中ぅ!!」
フィナレス市の共用訓練場。
そこに、魔法使いアメリアの声が響く。
「ああもう、こうやってなんとなくで魔法が使えちゃうから面倒なんだよな……」
俺は苦い顔をしながら、アメリアが的に向かって”ファイヤーボール”を放つのを眺めていた。
「あたしは天才肌だからな!」
腰に手を当てて威張るアメリア。
そこに、信じられないと言った目を向ける女性がいた。
「噓でしょ……何であんな適当な発動プロセスで、こんなに正確な速射が出来るの?」
魔導士のモンティーヌが、アメリアの魔法を見て驚きの声を上げた。
それに対して、一層鼻を伸ばすアメリアだが、
「いや、あれは多分褒めてるわけじゃないからな?」
俺はため息交じりにそう告げる。
「魔法何て使えれば何でもいいだろ? 現にあたしは全ての的に対して正確に命中させてるんだ。文句ねぇだろ?」
こいつのこの雑な感じは、本当に”東の勇者”のジジイにそっくりだ。
ただまあ、これは単純にこいつの性格の性なんだろうが。
「よしアメリア。今から俺に向かって”炎の鳥”の魔法を撃て」
俺はそう言って的側へ飛んでいき、彼女と距離を取って対面した。
「えっ? いいの!?」
アメリアの表情がぱぁっと明るくなる。
「ヤマトあなた、本気で言ってるの?」
モンティーヌが訝しげな表情で俺にそう言った。
「大丈夫。モンティーヌはちょっと離れて、横から見ておいて」
俺は結界で自分とアメリア、そしてモンティーヌを囲み、アメリアに開始の合図を出す。
「お辞儀をするのだヤマト!」
「ええからはよやれ」
杖をこちらに向けながふざけるアメリアをそう言って急かすと、
「『”ファイヤーバーズ”』!!」
すぐにアメリアは魔法を発動させ、炎の鳥たちが俺に襲い掛かって来る。
「うぁ!?」
モンティーヌが声を出して、魔法の熱気に顔をしかめる。
ドドドドドドドドドドド!!
容赦なく撃ち込まれたそれを、俺は全て吸収していく。
「……すご」
彼女の見守る中、俺はアメリアの魔法を全て防ぎ切った。
訓練場にいる人々が、何事かとこちらを気にしている。
「…………」
モンティーヌは驚きつつも、何か言いたそうな眼をチラリとアメリアに向ける。
「まあ待てモンティーヌ。まだ何も言うな」
俺は手で彼女を制止しながら話を続ける。
「アメリア杖を置け。そしたらもう一回、同じことをやってみろ」
俺の言葉を聞いて、素直につえを置くアメリア。
そして、彼女は右手をこちらに突き出して叫ぶ。
「『”ファイヤーバーズ”』!!」
先ほどの再放送のように、炎の鳥たちがこちらに飛び立ってくる。
ドドドドドドドドドドド!!
俺も同じように、その全てを難なく吸収していく。
「…………」
ただ、モンティーヌは先ほどとは違い、半ば呆れたような目をしてその様子を眺めていた。
そして、全ての魔法を撃ち終えたアメリアは、ふぅと言って額の汗をぬぐった。
「じゃあモンティーヌ先生。おっしゃりたいことがあるならどうぞ」
俺はそちらに歩きながら、彼女に手を差し出してそう促した。
「……ええと、言いたいことは山ほどあるんだけど、アメリア? あなた術式を全く構築してないわね?」
「は? してるし」
せっかくあれほど講義をしたのに、アメリアの頭には全く入っていないようである。
「じゃあアメリア。あなた、その杖は何のために持っているの?」
モンティーヌが地面に置かれたアメリアの杖を指してそう言う。
「?? 安定器だけど?」
そのアメリアの答えに、モンティーヌは目線を俺へと向ける。
「一応、安定器としては機能してるみたいだな。ホント一応な?」
モンティーヌはそれを聞いて、
「ヤマト。あなたもう一度向こうへ行ってくれない?」
そう言う彼女の言葉に俺は再度、彼女たちと距離を取る。
「アメリア。あなたはそこで見ておいて」
モンティーヌはそう言うと、俺の方に自身の杖を向けて口を開く。
「我が内なる炎よ。鳥を成して空を駆け、この地を炎の海に沈めたまえ! 『”ファイヤーバーズ”』!!」
彼女の持つ杖の先に火球が出現し、そこから火の粉のように炎の破片が散ると、それが次々と鳥の形になってこちらへ突っ込んで来る。
俺は飛んでくるそれを、一つ一つ術式を解除しながら吸収していく。
その様子を今度はアメリアが口を開けてポカーンと眺めていた。
俺は最後の一匹を吸収し終えると、結界を解いてアメリアの元に歩いて行く。
「アメリアさん。何か感想は?」
俺は口を半開きで突っ立っているアメリアに声をかける。
「あー。確かにこんな感じだったわ」
あっけらかんとそう答えるアメリア。
「あなたの”ファイヤーバーズ”と全然違うでしょ? これが本来の”ファイヤーバーズ”の魔法よ?」
モンティーヌにそう言われたアメリアは、叱られたと思ったのか、少し不機嫌な表情をする。
「でもさ。魔法としての効果は一緒じゃん? 最終的に同じことが出来てれば問題ないだろ?」
「違うのよアメリア? その証拠にあなたの魔法はロスが多すぎて関係ない人まで巻き込んでいるのよ。私が魔法を使ってる間、近くにいたあなたは全然平気だったでしょ? でもあなたのは近づけないくらい周囲が高温になってたわ。そして、私はあなたの半分以下の魔力で魔法を使ったけど、最終的な目標への攻撃力は私の方が上。あなたも魔法使いを自称してるなら見て分かるでしょ?」
アメリアの返答に対して、待ってましたとばかりにまくし立てるモンティーヌ。
「いやでも……」
「でもじゃないわ? あなたのそれは見よう見まねでそれっぽい魔法を使っているだけ。魔法って言うのは意味があってそう言う形をしてるの。そして術式はそれを最適な形で顕現させると同時にそれによって様々なプロテクトが構築されているのよ。さっきのも、あなたの単純な火属性の魔力はいとも簡単に吸収されちゃってたけど、あたしの魔法は一旦術式を解除するって手間を挟まなければならないの。そこの所ちゃんと理解してる?」
俺くらいになれば、この程度の魔法であれば強引に吸収してしまう事も可能なのだが、モンティーヌの意図するところを慮って、今回はセオリー通りの対応をしたわけだ。
しかしモンティーヌ。
そのくらいにしておかないとまた……。
「あなた多分その辺のC級冒険者の魔法使い以下よ? 無駄に魔力だけ高いから勘違いしてるみたいだけど、分かってれば簡単に対応が――」
「うるせー黙れ!!」
ズドーン!!
アメリアが叫ぶと同時に、モンティーヌに対して魔法が炸裂した。
俺は魔力が漏れないように周囲を再び結界で囲った。
「アメリア。お前、ここで問題を起こしたら今度こそ魔法が使えなくなるぞ?」
ズドドドドドドドドド!!
俺は一応言ってみたが、彼女には全く届いていないようだった。
「『”リフレクション”』!」
モンティーヌに向けて飛んで行った魔法が、全て反射されてアメリアに帰って行く。
「うおぉ!?」
驚いたアメリアが、攻撃を中断して防御魔法を展開する。
「『”ディストーション”』!」
続けてモンティーヌが魔法を唱えると、アメリアの結界がバリバリと音を立てて震える。
流石魔導士のモンティーヌ。
無属性魔法まで使えるのか。
「やばっ!」
「『”シールドブレイカー”』!」
その間に距離を詰めたモンティーヌが、結界破りの魔法を唱える。
彼女の杖先がアメリアの結界に触れると同時に、いとも簡単にその防御魔法を破壊してしまう。
「『ショックバース――……』」
「『パラライズ』」
モンティーヌがそのままの勢いでアメリアの胸へ杖を押し当て、アメリアが何かを使う前にモンティーヌの魔法が発動する。
「うびびぃ!?」
アメリアの体がビクンと飛び跳ね、そのまま地面に仰向けで倒れる。
自分と魔族以外が闇魔法を行使するのを、久しぶりに見た気がする。
「勝負ありね」
アメリアの喉元に、モンティーヌが杖を突き付けて言った。
「…………」
言われたアメリアは、目を見開いて一瞬固まったのち、
「……うえぇええええええぇえーーん」
声を上げて泣き始めた。
「お前、そんなに強かったんだな……」
モンティーヌが強いと言う噂は聞いていたが、直接パーティーを組んだ事は無かったので、その手際の良さを見て思わず感心してしまった。
「私が強いんじゃなくて、この子が弱いだけよ」
謙遜なのか本心なのか分からないが、一応勇者パーティーの魔法使いをいとも簡単に倒しておいて、そんなことを言うモンティーヌ。
しかし、彼女がカウンターで”パラライズ”を使ったのにはヒヤリとした。
二人の様子を見るに問題なさそうだが、あれはやり方によっては相手の魔動回路を破壊できる魔法だ。
「ちょっと何やってるんですか!!」
管理小屋から二人の職員がこちらに走って来るのが見える。
どうやら、結界を展開する前に売ったアメリアの一撃が、町の大結界に感知されてしまった模様だ。
「すまない。うちの魔法使いに稽古をつけてて、一瞬だけ出力がオーバーしただけだ」
俺はいつもの決まり文句を彼らに言った。
「またあなたですか……昨日も剣を教えるとか言ってたのに何か変なことしてたでしょ?」
ちなみに、昨日暴走したのはレンブラントである。
「勘弁してくださいよ……毎回報告書を書くこっちの身にもなって下さい」
報告書の面倒さは俺も身をもって知っているため、それを言われると本当に申し訳ない気分になる。
「うえぇええんひっく……うえええぇええ」
もうコイツどうしようかな……。
俺は地面に転がって泣きじゃくるそれを見て、一筋縄でいかない事を改めて感じたのだった。




