第83話 エピローグ(五章)
ひと段落したらドッと疲れが襲って来た。
俺はいつの間にか魔法で寝かされていた馬を起こして、帰路に着く準備をしていた。
「ありが……とう……」
その声の主であるコルネが、回復魔法を使うユラリに対してお礼を言っていた。
「あんた、回復魔法も使えたんだね。って、何でみんなそんな微妙な顔してるの?」
コルネの言う通り、俺達は口を半開きにしてそれを見ていた。
「お前は寝ててあれを見てないからそうなるだろうな」
あの後、あれを見て一番ドン引きしていたフリュゲーがそう口にした。
「まあ、あれは衝撃だったけど、それでウチらは助かったんだから、こんな事思っちゃいけないんだろうけど……」
そう言いながら引きつった笑いを浮かべるユフォーニュ。
「いや、それは周りを見れば分かるよ。だってこんな量の魔物の死体見た事ないもん。しかも魔族が四体も出たんでしょ? よく生きてたよあーし達」
「違うそうじゃない。ユラリさんがヤバかったんだって! でも、あれをどう口で表現すればいいか分からねーんだ! あれは魔族より魔族って言うか……!」
思わず「さん」づけになっているフリュゲーが恩人に対して悪口に近い事を言っている。
しかしあれは魔族だとかバケモノだとかそんなちゃちな物じゃない。
もっと恐ろしい物の鱗片を、俺達は味わったのだ。
「それにしたって、ツーバはちょっと大人しすぎじゃない? いつもだったらいの一番にヤバイヤバイ言って騒いでるのに」
コルネに言われて、俺はここ最近で一番テンションが駄々下がっている事に気づく。
それは疲れているのもあるが、おそらく主な要因はもっと他にある。
俺は今まで自分がB級冒険者の中でもそれなりの実力だと豪語していた。
それは何の根拠もなく思っていたわけでは無く、北部に来てそれなりに長いし、その中で魔族と対峙した経験だってあったからだ。
しかし、初めて見た最上級の魔族に対し、俺は何もできないどころか石ころ以下の存在だった。
そして本物の猛者であるユラリと自分との埋めようのない実力を目の当たりにしたのだ。
改めて自分の力が大したことなかったことを自覚した俺は、今朝のD級冒険者たちとのやり取りを思い出し、穴があったら入りたい衝動に駆られる。
「……俺、このまま冒険者やっていけるのかな?」
ポツリと漏らしたその言葉に、他のパーティーメンバーが驚きの表情をする。
「どうしたのツーバ!? 魔族に襲われたことがそんなに怖かったの!?」
コルネがそう言う通り、俺はあれに勝てるビジョンが全く湧かなかった。
「いや、ツーバの言っている事は分かる。今回組んだのがユラリさんでは無くて他のパーティーだったなら、俺達は今こうやって会話なんかできなかっただろう」
フリュゲーがそう言うと、ユフォーニュも苦い顔をしながらうつ向いた。
「え……どうしたのみんな? 何でそんなお葬式みないな顔してるの?」
ヴォーロスにすらビビってた女がよく平気でいられるものだ。
多くの冒険者が帰らぬものになったのを、俺はすぐそばで見て来が、その全てをどこか他人事のように感じていた。
しかし、今まで俺達が普通に冒険してこれたのは、強い魔物に出会わなかっただけで、単に運が良かっただけだ。
そう感じてしまう位には、今回の魔族とユラリの戦闘は、俺達に強烈な印象を残したのだ。
「お前ら、俺がこんなこと言うのもなんだが、そう悲観的になるな」
魔物を片付けていた御者もとい聖職者のオヤジが、俺達に声をかけて来た。
「もう事後だから伝えておくが、冒険者ギルドは素行に問題があるって認定したパーティーを、たまに更生目的で危険な依頼に投入するってのをやってるんだ。そんで今回お前らはそれに該当してたんだわ」
突然そんなことを言い出したオヤジに、俺達は戸惑いの表情を浮かべる。
確かに、彼の言う通り多少のやんちゃはしたかもしれないが、ギルドに危険視されるほどの事をやった覚えはない。
しかし、思い返してみれば何度か口頭で注意のようなものを受けたような気がするが、特に深刻には考えていなかった。
「だけどまさかここまでの大物が釣れるとは思わなかった。正直お前らには可哀そうな事をしたな」
魔族と相対した恐怖ではっきりと覚えているわけでは無いが、オヤジが魔族に対してそんな事を言っていたのを思い出す。
「あの荷物の中身は先日勇者ヤマトが捉えた最上級魔族だ。今回の魔族はあれを取り返すために現れたんだよ」
つまり、荷物を餌に魔族を釣ったという事だろう。
しかも、話の内容的に俺達は……。
「じゃあなんだ? 俺達は最初からいなくても良かったって事か?」
俺の問いに、オヤジは頷きながら、
「そう言う事になるな」
一言そう答えて、御者台に座った。
「残りの魔物の死体の処理は他の冒険者に任せよう。こっちを運ぶのが優先だ」
オヤジはそう言って、急かすような目を俺達に向ける。
「おいおい、このまま先に進むつもりなのかよ?」
フリュゲーが手を広げながらオヤジに問いかける。
「もとよりそのつもりだったからな。ちょっと時間を食ってしまったが、想定内だ」
オヤジはことも無さげにそう言うが、俺達としては色々納得できない点が多くて、心のモヤモヤがすごい。
そんなところへ、大きな木箱を抱えたユラリが馬車へと近づいて来た。
……いや、そんな木箱どこから持って来たんだ?
「おお、そんなことまで出来るのか。流石だな」
「ゆらり」
ユラリは小さくそう呟いて、その木箱を浮かせて馬車へと積み込む。
「ねえ、あの木箱の中身って……」
ユフォーニュが俺に耳打ちしてくる。
「ああ、多分魔族の頭だろうな」
討伐した魔族の頭は確認の為に持ち帰ることになっている。
そして魔族の角はかなり高価なレア素材でもあるのだ。
「まさかあの木箱、この場で加工したのか?」
そう言えばユラリはさっき、木を数本切り倒していた。
てっきり魔物の死体を焼却するためかと思ったが、生木を使うのは効率が悪いので不思議に思っていたのだった。
「だとしたら、とんでもない器用さね……」
魔法は精密作業に向かない。
それはこの世界では常識である。
あれをこの短時間で魔法を使って加工したのだとしたら、やはりとんでもない技術の持ち主だ。
この中で魔法のコントロールが一番上手いコルネが言うのだから、間違いないだろう。
「ユラリ。このまま町まで直行するが、問題無いか?」
「ゆらり」
「おい誰か! この中で馬車のアシストコアが制御出来る奴いるか? 悪いが俺は残り魔力が心もとない」
「ゆらり」
「いや、あんたは索敵に集中してほしいんだ。じゃあ、とりあえずレンジャーか魔法使いのどっちかに制御の方法を教えてやってくれ」
「ゆらり」
俺達を置いてきぼりで二人が会話を進めているが、果たしてそれは会話が成立しているのだろうか。
「おいお前ら! ぼさっとしてないで早く馬車に乗り込め! すぐ出るぞ!」
俺達は言われるがままに馬車に乗り込む。
全員が乗ったことを確認すると、すぐに馬車は動き出す。
そして、俺達は初めて間近でユラリと対峙したのだった。
改めて見ると、かなり小柄で本当に骨のようにガリガリだ。
ボロボロで色落ちした東洋風の着物が、その異様さをさらに助長している。
「ゆらり」
彼はそう呟いて、俺以外の三人を見回す。
おそらく、その中の誰が馬車に魔力を供給するか聞いているのだろう。
「あの、あーし昔教えてもらった事あるからやるよ? でもほとんど忘れちゃったし、タイプが違うかもだから……えーと……」
コルネがどうしようと言った感じで、ユラリを見る。
続いて、全員の視線がゆらりへと注ぐ。
ユラリとコルネが、顔を見合わせて固まっている。
「――あ、じゃあ、ちょっとこっちに、来てもらえますか、ハイ」
!?!?!?!?!?!?
「「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!!」」
普通にしゃべり始めたユラリに、パーティー全員が驚いて尻もちをつく。
「あ、スミマセン。突然しゃべると、驚きますよね。スミマセン、ハイ」
「おい! 馬車が壊れたらどうするんだ! 大人しくしてろ!」
怒鳴るオヤジなどどうでもよく、俺は驚愕の表情でユラリを見上げていた」
「あ、自分、コミュ障なもんで、あと、声がキモイって、言われるので、出来るだけ、自分からは、しゃべらないように、しているんですよ、ハイ」
それはコミュ障とか言う問題なのだろうか。
むしろ、俺としてはゆらりとしか喋らない方が不気味な気がするんだが……。
「あ、じゃあ、自分なんかが僭越ですが、コアへの、魔力供給と調整の仕方を、教えるので、こちらに来て、貰えますか? スミマセン、ハイ」
その言葉に従い、四つん這いでそちらに行くコルネ。
その後、馬車は問題なく次の町に着くと、次の日にはリタイアした俺達と代わり、臨時の傭兵を乗せて次の町を目指していた。
俺は今回の事がトラウマになり、完全復帰まで一カ月の時間を要したのだった。
これにて第五章が完結です。
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・あとがき・
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