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第82話 完全にバケモノ

 ”至爵”。


 魔族の爵位の中では最も高く、それよりも上の位となると、それは魔王である。


「ゆらり」


 名乗られた剣士は、いつものアンデットの様な顔を魔族に向け、自然体で対峙している。


「何をしている? 早く名乗らぬか?」


 魔族は余裕の笑みで腕を組んでいる。

 顔の出血は止まった様だった。


「……ゆらり」


 またユラリがゆらりと呟く。


「?? ゆら? 何だ其れは?」


「…………ゆらり」


 しかし、ユラリはゆらりの姿勢を崩さない。


「ほう、成程。貴様はユラリと言うのか。其の一言で済ませようとは、中々良い身分では無いか」


 今日の魔族とのやり時を聞いていて分かったことは、魔族は勝手に自分の良いように解釈して、自分の都合のいいように話を進めるという事だ。

 つまり、シンプルに超自己中なのだろうと思う。


「ゆらり」


 ズドーーーーン!!


 ガイィン!!


 魔族の不意打ちによる砲撃が、ゆらに弾かれた音が響いた。


「またもや跳弾を使うか……然し同じ手は……あれ?」


 そこにいるはずのユラリの姿は無かった。


 どうやらこの女魔族も気づかなかったようだ。


 俺はチラリと魔族を見上げると、そこで目が合ってしまった。


 しかし、その女魔族は特にこちらに何かして来るでもなく、お互い揃って目線を前方に戻した。


 ストン。


 後に小さな物音を聞いて、反射的にそちらを向く。


 その先、少し離れた場所に、ユラリが変わらぬ自然体で立っていた。


 しかし、その手に持っているのは刀ではなく……。


「ル!? ”ルボディ”いいいいぃいいいい!!」


 俺の傍らで、魔族が絶叫する。


 ズルズル……ズルズル。


 その長い黒髪を掴み、ユラリがそれを引きずりながらこちらへゆっくりと歩いて来る。


「貴様ぁ!! 妹を離せえぇええええ!!!!」


 ズドドドドドドドドドド!!


 魔族が何かの魔法をユラリに向かって乱射する。


 その瞬間、ユラリがその手に持った魔族を前方に投げ、それがハチの巣になる。


 ズドドドドドドドドドド!!


 それを全く気にせずに、魔族は魔法を撃ち続けている。


 ぶるんっ。


 ユラリの体が有り得ない方向に曲がったかと思うと、残像になってまた違う有り得ない仰け反ったような態勢で現れる。


 俺は魔族がユラリに何かしたのかと思って少し焦ったが……、


「ゆららゆらゆらゆらりゆららゆら――……」


 ぶるんぶるん。


 ぶるんぶるん。


 どうやら少し様子が違うようである。


「ゆらららゆらりゆらゆらゆらりゆらゆら――……」


 ぶるんぶるん。


 ぶるんぶるん。


「ひっ!? 来るな!! 来るなあぁああああ!!??」


 ズドドドドドドドドドドドドドドドド!!


 取り乱して乱打される魔族の魔法を、ユラリは全て回避しながらこちらへ寄って来る。


 それも無理はない、その地面を軸に物理砲法則を無視してグネグネと動く動きはもはや人間では無く、さながら……いや完全にバケモノだこれ!!


 ぶるんぶるん。


 ぶるんぶるん。


「ぎゃあああああきめええぇえええええ!!」


「キモイキモイキモイキモイぃいい!!」


 それが迫って来ると、フリュゲーとユフォニューまでもがあまりの不気味さに絶叫する。


 そして、おそらく無意識で魔族の足に抱き着いていた。


「あっ!? コラ貴様等!! 誰の足に触って居るのだ!!」


 ぶるんぶるん。


 ぶるんぶるん。


 …………。


 ぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるん。


「「ぎゃあああああぁぁああああああああ!!!!」」


 その場の全員が同時に悲鳴を上げる。


「ゆらりゆらゆらゆゆらゆら――……」


「クソっ!! 此処は悔しいが戦略的撤退である!! 放せ貴様等!!」


 俺も含め、魔族を盾にしてその後ろに隠れていた俺達は、足蹴にされて振りほどかれる。


「逃がすかっ!! 『封魔の籠(ホーリ・カヴェア)』!!」


 隙を伺っていたのか、オヤジがうつ伏せの体勢から決死の聖魔法を放つ。


「だあああ!! 鬱陶しい!! 此の様な脆弱な結界!! 消し飛ばしてやるわ!!」


 バーンという音と共に、いとも簡単に結界は砕け散ってしまう。


 しかし――。


「ぐっ!? 『”大障壁(ジュゴ・シルドー)”!!』


 魔族の眼前に禍々しい結界が展開される。


 ビターン!!


「ひいぃいいぃいぃいいい!?」


 その結界ににアンデットの様なユラリの顔が張り付き、眼前でそれを見た魔族が情けない悲鳴を上げる。


 そして、バリバリと音を立てながら、その距離は徐々に縮まって行っている。


 俺はそれを見て、自分の顔がうわぁ……って感じの表情になったのを感じた。


「ゆらり」


「あひゃ、あひゃあああぁあああああ!!」


 びちゃびちゃびちゃびちゃ!!


「うわっ!?」


 魔族体がぶるりと震えたかと思うと、そのスカートから大量の液体が流れ落ちて来て、その飛沫を思いっきり浴びてしまう。


「うっ!? クッサ!? 何だこれ……小便か!?」


 おおよそ体液とは思えないとんでもない臭気に、俺はたまらず鼻と口を覆う。


「瘴気に侵されるから早くふき取った方がいい」


 そう言うオヤジも含め、全員が鼻をつまんでそこから退避する。


 俺は言われた通りマントでそれを拭いとる。


「ゆらり」


「あっ、あっ、あっ」


 そうやっている間に、ユラリと魔族の距離は、キスしそうな所まで迫っていた。


 ドンッ!!


「……ゆらり?」


 謎の魔力の爆発に、全員の気がそちらに逸れた。


 その爆発があった方向は、男の魔族が倒れていたあたりである。


 そして、そこに一瞬で瘴気が広がったと思うと、次の瞬間にはその中から大量の魔物がこちらへ襲い掛かってきていた。


「ワ、ワイーンめ! 最後の最後で役に立ったでは無いか!!」


 女魔族はそう口にすると、猛スピードで上空へと飛び立つ。


「ゆらり!」


 ユラリは一瞬、それを追おうか迷ったようだが、すぐに魔物の群れへと目を向けた。


 スパァーーーーーーンッ!!!!


 ユラリは横なぎに一閃、刀を振り抜く。


 しばらく時間が停止したように何も起きなかったが、飛び掛かってきた魔物がことごとく真っ二つになって、体の中身を土の上へぶちまけた。


「グギゴゴガ……グガアアアアアアァアアア!!」


 その中で生き残った一体が、うめき声を上げながら立ち上がる。


 随分と容姿が変わってしまっているが、おそらくワイーンとかいう男魔族が狂化した姿だろう。


 ヒュッ。


 もう何を見ても驚かない自信がある。


 俺が瞬きをして開く前までの間に、全てが終わっていた。


 魔族の頭があった場所から血しぶきが上がり、既にユラリの手にはその頭部が握られていた。 

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