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第78話 あれ、人間なの?

 ガタガタとやかましい音を立てる馬車の荷台。

 そこで、俺とパーティーメンバーが荷物と一緒に揺られていた。


「ねえ、マジでユラリ一人に索敵を任せていいの?」


 女レンジャーの”コルネ”が、天井を見上げながらそんな質問をした。


「いいんじゃない? 本人は何も言ってこないし」


 女魔法使いの”ユフォーニュ”が、とんがり帽子の鍔を弄りながらそれに答える。


「って言っても、あの人ユラリしか言わないから良く分かんねーけどな!」


 そう言って、男バトルメイジの”フリューゲ”がゲラゲラと笑う。


「ははっ! ちげーねぇ!」


 そこにリーダーでセンチネルである俺も加わる。


 本来であれば、レンジャーのコルネも周囲を警戒しなければならないのだが、馬車の上で胡座(あぐら)をかいている彼が何も言わないのをいい事に、俺達は仲良く荷台にて談笑をしていた。

 ここはお世辞にも快適とは言えないが、外でホバーボードに乗っているよりは幾分かマシだ。


「それにしても、これ一つに対して妙に厳重だな」


 フリュゲーが広い荷台に一つだけ乗っている大きな直方体の箱を、目で指しながら言った。


 すると、ここまで一切言葉を発してこなかった御者のオヤジがこちらを振り返り、


「おい! お前ら絶対それに触るなよ? そうやってサボってるのは大目に見てやるが、それだけは守ってもらうからな!」


 半分怒鳴るようにそう言って来た。


「わかってるよ! ちょっと気になっただけじゃねーか!」


 フリュゲーはイラついたのか、同じような口調で相手に言葉を返した。


「まあそんなカリカリすんなや、せっかくの割のいい仕事なんだからな」


 今回、この荷物の最終的な行先は俺らには知らされておらず、ここから二日間ほど馬車を走らせた先にある町で、後任に引き継ぐことになっている。

 本来このような護衛任務は傭兵ギルドに優先して振られるのだが、大変な人手不足により賃金割増しで俺達冒険者に回ってきたという訳だ。


「俺ちょっと小便」


 そう言ってフリュゲーが立ち上がる。


「じゃあ俺も」


 俺もフリュゲーに続く。


 そして後ろの幌を上げると、俺達は左右に分かれてそれぞれ幌のフレームに掴まり、逆の手でズボンの紐を解いた。


「ちょっと”ツーバ”! あんたらそこからするつもり!」


 ユフォーニュが後ろから俺の名前を呼び、呆れた様に言ってくる。


「おいお前ら! 馬車を汚すんじゃねーぞ!」


「わーってるってうるせえなぁ!」


 再び御者に怒鳴られたフリュゲーが、不快そうな声を出す。


「ふぅー」


 俺はそんなやり取りを他所に、さっそく放尿を始める。


「全く……いいわね男は用を足すのが楽で」


 コルネがちょっと不機嫌な感じでボヤく。


「あんたもやってみれば? 意外とできるかもよ?」


「はぁ?」


 そんな女子の会話を背に受けながら、フリュゲーがチラリと俺の顔に目線を向ける。


「見ろ、俺の方が飛んでるぞ」


 フリュゲーがニヤリと笑う。


「バカ言え、俺の方がデカいんだから本気を出せばもっと飛ぶぞ、ほれっ!」


「……サイテー」


 ギャハハハと笑う俺達に、冷たい目を向ける女達。


 そうこうしている内に、俺達は用を足し終える。


「これぞ男の特権だな。お、そうだ。一発シコっとくからコルネ、お前ちょっと脱いでくんない?」


「アホなこと言ってないでとっとと閉めてくんない? 薄着だからちょっと肌寒いんだけど」


 下品な話で盛り上がりを見せる中、俺はふと視界の奥に何かを捉える。


「ん? おい上の方、何か馬車を追ってきてね?」


 俺はその目線の先を指差しながらそう言うと、パーティーメンバーも続々とその指の先へと目を細める。


「何だ? 俺達の小便に反応したか?」


 フリューゲが馬車から身を乗り出す。


「ちょっとスキャンしてみようか?」


 そう言ってコルネが右手を先へと伸ばす。


 その瞬間――。


 ボッ!


 その何かが急降下して、俺達にはっきり見えるまで一瞬で距離を詰めて来た。


「うわっ!! マジか”翼竜”じゃん!」


 俺はおもわず声を上げる。

 蛇の様な長い頭を持った大きな竜が、グングンとこちらに近づいて来る。


「ヤバっ! あれ”ケツァルコアトル”よ!」


 ユフォーニュの声を聞き、俺達は慌てて戦闘態勢に入る。


「ゆらり」


 何か声が聞こえたかと思うと、馬車と目前まで迫った翼竜の間に、音もなく一人の人影が降り立つ。


 しかし、俺はその光景を確かに目でとらえているが、まるで一滴の水が落ちて来ただけの様な静けさに、脳がそれを現実と捉えていないような妙な錯覚に陥る。


 そして次の瞬間には、その巨大な翼竜が、頭から真っ二つになっていた。


 彼と竜を置き去りにして走っていく馬車。


 俺はようやく我に返り、パーティーメンバーと目を見合わせる。


「見た?」


 コルネが最初に口を開く。


「……見た」


 ただ一人の男が翼竜を切っただけだ。

 しかし、その光景が別次元で行われたかのように、目の前で行われた実感が全くわかなかった。


 初めての体験に、脳がエラーを起こしてしまっている。


「あれ、てかユラリを置いて行っていいの?」


 コルネがそう言ったが、まだ頭が付いて来ておらず、その言葉を理解するのに数秒かかってしまった。


「あ、マズイっ! おっさん! すぐに馬車を止め――」


 シュタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ!!


「ひっ!?」


「うおぉっ!?」


 声を上げた二人の目線の先には、先ほどのケツァルコアトルよりもはるかに速い速度で疾走するユラリの姿が映っていた。


 ユラリは速攻で馬車に追いつくと飛び上がって、直ぐに幌の上の定位置に音もなく収まってしまった。


「……あれ、人間なの?」


 ユフォニーが俺を見てそう漏らしたが、


「……分からん」


 俺はそう答えるしかなかった。

・連絡・

明日の更新より、投稿時間を20時ごろに変更します。

宜しくお願いします。

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