第77話 屠竜の剣聖
バカーンッ!
冒険者ギルドの丸椅子が蹴り上げられた音がホールに響く。
「てめぇもう一回言ってみろ!!」
そこに追加で男の声がこだまする。
「ええ……もう今度は何だよこんな朝っぱらから……」
俺が欠伸をしながらギルドの門を潜ると、二人の男がつかみ合いの喧嘩をしているのが目に入った。
その一人は……レンブラントだぁ……。
「何度でも言ってやるよ! オメェ等みてえなD級と組むパーティー何てここには居ねえよ!」
この一言で、何となく何があったのか察することが出来る。
「もうレンブラント! そのちょっと何か言われただけですぐカッとなるのをやめなさい!」
魔法使いのペトリーがレンブラントの肩を抑えて止めようとしている。
そしてその男二人の間に、ヌルリと割って入った影があった。
「……ゆらり」
その彼の異様な風貌に、言い合いを止めて後ずさる二人の男。
「な、なんだよ……」
レンブラントが引きつった顔でそう口にした。
「ちっ。相変わらず不気味な野郎だな」
相手の男もそう言って、さらに一歩下がる。
「ほら、そんなザコに構ってないでとっとと行くわよ? 早く出ないと間に合わなくなるわ」
魔法使いの女性が男を急かす。
「ハッ! 命拾いしたな!」
そう捨て台詞を吐いて出口に向かって行く男。
「こっちのセリフだKlootzak!」
レンブラントもそれに言い返しながらダンダンと右足で床を蹴っている。
こう見ると正しくガキという感じの挙動だなと思った。
そして、出口に向かって行くパーティーの後を追うユラリとすれ違う。
そこで俺とユラリの目が合うが、一言も交わさぬまま彼は背中を向けて行ってしまった。
「ユラリさん今日は”ツーバ”の所とか、当てにしてたんだけどな……誰か他に空いてるパーティーいない?」
「あの人ちょっと不気味だけど、技量は文句なしだからな。どんなクエストも文句ひとつ言わず付いて来てくれるし」
俺は薄々感じていた。
「お、ヤマトー。今度ユラリに俺らとも組むように言っといてくれよ。俺から言っても通じてるかどうか分かんなくてイマイチ不安だからさ」
あいつ、俺等といない方がいいんじゃね?
そう思うと、なんだか急に寂しくなって、俺はトボトボと定位置に向かって歩いて行く。
今日はまた事務作業を終えた後は適当なクエストをこなして、そんで夕方からアメリアのお守りか……。
…………。
俺、何やってるんだろうな……。
「ヤマト今暇?」
昨日も聞いた明るい女性の声が耳に入る。
「どうしたんだシッカ?」
全く暇ではないのだが、とりあえず用件だけは聞いてみることにする。
「もしよければ、アタシに剣を教えてくんない?」
昨日も思ったが、この子は本当に物おじしないな。
普通、勇者ヤマトと聞いたら最初はビビるものなのだが、シッカは初対面の時からこんな感じだった。
「ちょっと本気で言ってるのかシッカ!」
彼女と同パーティーのスカウト、確か名前はテレピムだったかが駆け寄りながらそう言った。
「そうよ、あたなヤマトさんを誰だと思ってるの?」
そう口にするのは魔法使いのペトリーだった。
「いや、忙しいなら全然いいんだけどさ、こんな機会いつあるか分からないから」
あっけらかんとしているシッカ。
「いいぞ。まあそんなに長くは付き合えんが、最近あんまり剣を振ってなかったしちょうどいいわ」
こっちに来てから魔法に頼りっぱなしのせいで、剣を握る機会がめっきり減ってしまった。
了承したのはそう思ったのもあるが、ケチなクエスト一つこなすよりも、こういう所であまり触れ合う機会のないやつらと交流を深めた方が今後プラスになるだろうと考えたからだ。
「ヤマトって、前の世界では”剣聖”って呼ばれてたんでしょ? めちゃくちゃすごかったってレンブラントが言ってたよ」
俺はレンブラントの方を見るが、目が合った瞬間ぷいっとそっぽを向かれてしまう。
「昔の話だ。それにこの世界の剣聖は”ユラリ”だ。今の俺より剣の腕ならあいつの方が上だよ。多分」
前世での剣聖はあだ名だが、こちらの世界の剣聖はちゃんとした剣術大会のタイトルである。
「ユラリってさっきの骨みたいな人!? へー、あの人があの”屠竜の剣聖”なんだー」
シッカは言いながら入口の方を振り返るが、そこにはもう誰もいない。
そして、ちょうどそちら側に立っていた大男と、俺は目が合った。
「……ヤマト・フジ、ミカ・コッカネン、アメリア・ワシントン。まさかこの三人が三人ともこっちに転生して来てるとはな」
レンブラントがニヤニヤ笑いながら俺達の名前を口にする。
「アメリアって、昨日講義を受けてた女の子だよね? あの子も有名人だったの?」
シッカの無邪気な言葉を聞いたレンブラントは、更に口角を上げて、
「有名……そりゃあとんでもない有名人だ。いろんな意味でな……」
そう言って俺の方に目線を剥ける。
「一応言っとくが、その先を言うんじゃないぞ?」
流石に大丈夫だとは思うが、一応俺は釘を刺しておく。
「あたりまえだ。それぐらい分かっているさ。俺は大人だからな」
もうそう言っている時点で子どもなのだが、まあ子どもなおかげでこんな生意気な口を利かれても許せるのである。
「剣を教えて欲しいんだろ? 時間がもったいないからとっとと外へ行くぞ。レンブラント、お前も鍛えてやるから付いて来い」
そう言って俺は立ち上がると、ギルドの入口へと向かって歩いて行く。
剣聖か……。
あのまま俺が殺されなかったら、俺は今頃どうしていただろう。
そして、アメリアがあんな目に合う事もなかったのだろうか。




