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第76話 先生はトイレじゃありません

 今日も今日とて、クエストから帰った俺はアメリアの試験対策をしていた。


「眠い……」


 それは俺のセリフである。


 実質ニートのコイツと違い、俺は仕事をこなした上で勉強に付き合ってやっているのだ。


 そして、俺は前から気になっている事を彼女に尋ねることにした。


「アメリアお前、金はあとどんだけ残ってんだ?」


 俺は机に突っ伏しているアメリアに対して尋ねる。


「…………」


 アメリアは無言でポーチから財布を取り出し、机の上に置いた。


 俺も無言でそれを手に取ると、躊躇なく中を確認する。

 そしてそっと閉じた。


「……これで全財産?」


「うん」


 俺は大きなため息を吐く。


「お前、今月の家賃払えないんじゃないか?」


 俺はそう問うが、彼女の返事は無かった。


 さて、どうするか。


 立て替えてやってもいいが、俺も借金の返済の事を考えると出来る限り出費を減らしたい。

 そこから導き出される答えは……。


「お前、しばらくうちに来い。前はそうしてたんだから別に構わんだろ」


 これに対する答えも無言だった。


「ひゅー! 同棲ですかヤマトさん!」


 代わりに、今日も何故だかそこにいるベイエル君がそう言った。


「前はそうしてたって……マジですか?」


 そして何故か聴講者が増えている。

 レンブラントのパーティーメンバである女剣士のシッカだ。


「お前は何でいるんだよ? 郷へ帰ったんじゃなかったのか?」


「それ今更聞くの? ホントは昨日変える予定だったんだけど、例のスライムの件で物流がめちゃくちゃになってて、アタシ達みたいな緊急性の低い()は後回し何だって」


 なるほどそう言う事もあるのか。


「あとは、アタシも三級免許持ってたら便利かなって思って、どんなもんか聞きに来てみただけだよ」


「だとよアメリア。おめーもちいとは見習えよ」


 俺の代わりにそう言うベイエルだが、お前こそマジで何でいるんだよ。


「ヤマト君。勉強は進んでいるかね?」


 冒険者ギルドのマスターであるマリオが、教室のドアを開けて入って来た。


 マリオは俺の元まで来ると、俺に対して耳打ちをする。


「一応、アメリアの件は何とかなりそうだ。まだ確定ではないが、私と魔法使いギルドのマスターで話し合ってくれという事らしい」


「仕事が早いな。それで良いなら願ったり叶ったりだけど、本当にそんな簡単な事でいいのか」


 俺的には、今回の件はかなりヤバイ事をやっている自信があるのだが、ここまで対応が早いのは裏で何か良からぬ事があるのかと勘ぐってしまう。


「ボーゼンドルフ辺境伯が間に入ってくれたらしい。先日の事故は彼も関わってるから、アメリアの件が世に出れば面倒になるからだろう」


 俺はそれを聞いて頭を抱える。

 あの人には弱みを握られっぱなしだ。

 ここまで来ると、もし辺境伯に死ねと言われたなら、俺は死ななければならないレベルかもしれない。


「わざわざありがとうマリオ。迷惑をかけて悪いがそれで進めておいてもらえるか?」


 そう言うとマリオは頷いて、足早に教室から出て行った。


「なになに? 何の話してたんだ?」


 ベイエルが興味津々でそう聞いてくるが、俺はそれを無視して講義を進める。


「おいアメリア! 顔を上げろ。寝てるんじゃないだろうな?」


 俺がそう指摘すると、アメリアは顔を上げて目をこする。


「先生トイレ」


「先生はトイレじゃありません!」


「シッカちゃんは結局あの後ヤマトと寝たの?」


 あーもう!

 マジで先に進まねー!


「そういえばヤマト、あなたみたいな異世界人とアタシらってなんで子ども残せるの? 獣人とかとは無理じゃん? おんなじ種族って事でいいの?」


 シッカのこの疑問は、俺もこの世界に来た当初は気になって調べたものだ。


「子どもが残せるかどうかって言うのは、遺伝子ってものが関係しているんだが、残念ながらそれは、この世界の技術ではまだ完全には解析できない。でも、子どもが残せるって事はおそらく俺達は起源を同じにしていて、しかもその分岐がそう遠くない過去に起こったって事になるな」


 この説明で分かってくれればいいのだが、ベイエルはともかくシッカにはちょっと厳しいだろうか。


「進化論ってやつだな。異世界人が持ち込んだ理論だけど、俺はイマイチ信じられないんだよな」


 貴族であるベイエルは、多少の教養があるようだが、案の定シッカは頭に疑問符を浮かべている。


「まあ、ざっくり言うと遠い昔にこの世界と異世界はなんらかの関係があったって事だな。あとエルフとオーガは人間と子が成せる事が分かってる。あと差別用語だから使っちゃダメなんだが、所謂”獣人”達は俺らとは全くの別種だと考えられている」


 おそらく収斂(しゅうれん)進化とかと言うやつで、獣人を抱いたことがあれば分かるが、人だと思うとかなり違和感のある体のつくりをしている。

 彼等が人語の発音も苦手な所を見ると、そう考えるのが自然だろう。


「なんかそういえば、”クリエイタ”が他の星とかと同じように動いてるって説を出した人がいて死刑になったって聞いたけど、あれと似たやつのこと?」


 シッカの質問に、俺の代わりにベイエルが口を開き、


「天動説と地動説の事だな。あれはちょっと経緯が特殊で、昔から天文学者の間ではクリエイタが動いてるってのは常識だったんだよ。でも帝国がそれを頑なに認めようとしなくて、異世界人が改めて地動説を唱えて面倒になったって話だ。ちなみに言ったやつは別に死刑になってない」


 このように、この世界の技術は地球で言う中世ごろから止まっているものもあれば、魔法という存在があるが故にむしろ進んでいるものもある。

 医療などその典型例で、特に外傷に対しての治療技術は地球の物とは比べ物にならない。


「あーめっちゃ出たわー」


 そう言いながらアメリアが便所から帰って来る。


「でもあの汚くて臭いの何とかなんねーのかね? 水洗トイレが懐かしいわ」


 技術でいえば、トイレは過去の日本と同様に汲み取り式を採用している。

 そして、聖王国では江戸式のし尿処理システムが伝わったのと、都市部では下水道の設置が始まっており、比較的衛生環境は良いのだが、対して帝国では長期的な計画が必要な事業は後回しにされる傾向にある。


「よし、雑談はこの辺にして後半刻。しっかり叩き込んでいくから集中しろよ?」


 こうやって俺の睡眠時間はゴリゴリと削られていくのだ。

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