第75話 基礎知識
・”剣士”。圧倒的前衛。冒険者としてもっとも基本的なジョブで一番人数も多い。体力さえあれば余程のバカでない限り誰でもなれるが、その分制約も多い。
・”斥候”。前衛。語源の通り、偵察や索敵を主に行う。要三級魔術士免許。剣士に次いで人数が多いが、個人の能力にバラつきが激しく、上位と下位で格差が激しい。二級魔術士免許を持っていれば後衛としても登録可能。
・”魔法使い”。後衛。二級魔術士免許が無ければなれないため、常に引っ張りだこ。スカウトとして登録する者もいるが、上位職を目指すでもない限り意味が無いため、かなり稀。
「これが基本三職と言われる冒険者のジョブで、これをパーティーに一人づつ入れておけば大体間違いないと言われている。パーティーの最低構成人数は三人だけど、基本は四人な?」
俺は魔術士ギルドの教室を借りて、アメリアに講義を行っていた。
しかし、まさかこんな基本的な事も理解していないとは思わず、それを聞いた時はその場の全員が呆れていた。
「センチネルとかいうのいなかったっけ? あれは何なん?」
アメリアがそう質問をしてくるが、これは授業を真面目に聞いているという点で、とても良い事である。
「番人は、もともと傭兵とか軍で兵士をやっていた人間が登録するジョブだな。基本は剣士と変わらないが、就くのに実績がいるから一部クエストに優遇がある」
これは”準上位職”と言われる特殊職であり、少し例外的なジョブである。
ちなみに条件次第で少しだけ攻撃魔法の行使が認められてたりもするのだが、それはあえて黙って置いた。
「じゃあ次はお前がお望みの魔法使いについての基礎知識な?」
俺は黒板にチョークを魔法で操作して高速で記述しながらそこに書いたものを解説していく。
「まずこの世界に暮らすほぼ全員が受けているであろう基礎防御魔法講習は省いて、主に以下の魔術免許がある」
・”基礎攻撃魔術講習”。正確には免許ではないが、これを受けなければ冒険者にはなれない。ここで習得する主な魔法に、エンチャント(ウェポン)がある。
・”三級魔術士免許”。仕事や家庭で使うための魔法がメインで、一般的に生活魔法と呼ばれる。攻撃に転用が出来る(M・W・A等)ため、免許制になっている。スカウトは必修。
・”二級魔術士免許”。初~中級の攻撃魔法と大半の防御魔法を含み、これが無ければ魔術士を名乗れない。もちろん冒険者ジョブである魔法使いはこれが必修である。ここまでは一般の魔術学校で取得可能。
・”一級魔術士免許”。上級魔法(所謂大魔法)が使用可能。一部術式改変が行える。また、導士号を取るのに必ず通る事になる。一般の魔法学校を出た場合、一定の実績を積んだ後に国立魔導院によって行われる試験に受かる必要がある。
・”第二種魔導士号”。一般に言われる魔導士。あれば中流階級確定。ほぼ全ての術式の改変が可能で、魔術の研究機関に所属するためにほぼ必須である。定められた学院で魔導士課程を終了する必要がある。大学で例えるなら修士。モンティーヌが持ってる。
・”第一種魔導士号”。上級魔導士。学院では教授と呼ばれる。大学の博士課程に似ているが、魔導士課程を履修後に多大な実績作りが必要なため、持っている人間は大抵お爺ちゃん。ここまでくれば準貴族として崇拝される。フォルカーが持ってる。
・”特級魔術士免許”。導士号を持っていないものが魔導士と同等の魔法を振るうのに必要。勇者は一級魔術士免許を持っていれば全員が自動的に付与される他、同様の条件でA級冒険者等の各機関の魔法職のトップ層が必要に応じて発行の申請をする事が出来る。
その他、製薬魔法検定や発破魔法検定等の民間資格があり、国が認可するものに限りその範囲内で魔法の行使が許可される。
「はい。これ全部覚えてね」
「無理」
ちなみにこれ、D級冒険者昇格試験の範囲でーす!
「てか特級魔術士とかズルじゃん! こんなんが許されるならあたしにもくれよ!」
「うーん。一級免許が必要って部分が見えないのかな~?」
やっぱり正規の手段で二級魔術士免許を取らせるのはちょっと難しそうですね。
今回、冒険者ギルドマスターと俺が話し合った結果、先日アメリアが起こした事件も含めて無免なのが外部漏れるのはマズいと言う結論に至った。
そこで関係各所を通じて全力で王国に掛け合ってもらい、政治の力で何とかアメリアに”一級魔術士免許”と”B級冒険者”を付与してくれないかと土下座をしたのだった。
冒険者昇級試験の試験官をしている俺がこんな悪事に手を染めているのを思うと、涙が出て来る。
もう面と向かって王国政治の腐敗を問う事は出来ないだろう。
しかし、仮にこれが受理されたとして、アメリアにこのままの知識で魔法を使わせるわけにはいかないため、形だけでも試験を行う事にしたのだ。
もちろんだが、アメリアには試験をするという事だけを伝えており、その他の事は合格まで黙っている手はずとなっている。
「ベイエル。魔法の属性についてテキストを簡潔に要約しなさい」
「え? 俺?」
なぜかアメリアと一緒になって着席しているベイエルに、俺は話を振った。
「えーと、現在聖王国魔術士協会では火・氷・風・土の四大属性法を採用しており、そこに付随して二つの副属性である水・雷と、陰陽属性である光・闇、そして無の合わせて九属性が存在する」
ここまでベイエルはテキストをそのまま読み上げている。
「四大属性とか言ってるのに何で九個も属性があるんだよ」
「最初に火・氷・風・土の四大属性(基本属性とも呼ばれる)に関してはそれぞれ熱・冷(吸熱)・動・静(不動)に対応しており、魔術士はこれを連続的に扱って魔法を顕現し、行使している」
ベイエルはアメリアの疑問を無視してそのままテキストを読み進める。
「また、水・雷は副属性または複合属性と呼ばれ、四大属性を一定の決められた比率と手順を踏んで扱うことで顕現する。一般的な魔術と比べて高度であり多くの場合、専用の術式を使用する」
アメリアは既に虚空を見つめており、恐らく今夜の晩飯でも考えているのではないだろうか。
そして絶望的な事に、これは三級魔術士用のテキストなのである。
「ベイエルもういいわ。アメリア、この辺は別に全部覚えろとは言わんから、なんとなくこんな感じなんだなーって思って置いてくれればいい」
俺はベイエルが読んだテキストを、今度こそ掻い摘んで説明する。
「つまり魔法の属性ってのは漠然としたもので、火なら発熱反応だし、風ならざっくりと動的な感じでで土なら防御魔法みたいな魔力を固定するような働きがある。注意してほしいのが、これはひとまず化学や物理とは分けて考えて欲しいって事」
俺はアメリアがちゃんと聞いている事を確認して先を続ける。
「例えばファイヤーボールで出る炎は一見すると”火”に見えるけど、これはそう見えているだけで実際には”火のような何か”なんだよ。そんで顕現後の魔法は物理法則に縛られているような振る舞いをするけど、本来の魔法はそれとは別の理の上で成り立ってるんだ」
あ、ダメだ。
アメリアが口を半開きにしてまた虚空を眺め始めた。
「アメリア聞けよ? 次は簡単だからな? まず光属性は知っての通り回復魔法だ。これは与える魔力と言って、相手の魔力に同調させることで自分の魔力を相手の魔力として送る事が出来る。って事は闇属性はそれとは全く逆で、奪う魔力と呼ばれてるよな? そして二つの決定的な違いは、闇属性魔法は闇属性でしか防げない。つまり適性が無ければガード不能な訳だ。ここまでは分かったな?」
「ヤマトせんせー。光魔法でも闇魔法を防げるって聞いた事がありまーす。あと光魔法は闇魔法と違って相手の魔力に直接干渉できないはずなのに、なんで相手の体を活性化したり治療したりできるんですか?」
「うーんいい質問だねベイエル君。でもそれはちょっとアメリアちゃんには難しいから一旦黙って置こうか?」
ここまで眠そうに聞いていたアメリアが、久しぶりに口を開く。
「てかそんくらいはなんとなく分かっとるわ。てか分かってなきゃ大魔法とか使えねーし」
テキストの端を折り曲げながらそんなことを言うアメリアに対し、
「流石アメリアちゃん。じゃあ無属性魔法って何を指してるか分かるかな?」
「は? 何それ知らん」
「じゃあ黙って聞いとけ」
これは先が思いやられそうだ……。




