第72話 エピローグ(四章)
「ああああああああああああああああ!!!!」
「ちょっ!? ビックリしたぁ! どうしたのよカチューシャ?」
いきなり叫び声を上げたアタイに、向かいに座る魔法使いの女の子が驚いている。
あああああああああああああああ!!
何でアタイはあんな事言っちゃんだんだ!!
「あなた、やぱり今日はちょっとおかしいよ? 大丈夫?」
アタイはあの後、自分のアパートに帰って布団に入ったはいいものの、全く寝付くことが出来ず、ルームメイトの”パスティル”の誘いで市内に繰り出したのだった。
すっかり日が落ちて暗くなったころ、アタイ達は適当な飲み屋に入って食事と酒を嗜んでいたのだが、少しほろ酔いになった所で今朝の光景がフラッシュバックしてきたのだ。
「うううう……あああ……」
様子のおかしいアタイを他のテーブルの連中も怪訝そうに見てくるが、そんなことは全く気にならなかった。
「やっぱりヤマトさんと何かあったんでしょ? ウチらの仲でしょ? 話聞くよ?」
そう言って真剣な目をアタイに向けて来るパスティル。
「……しちゃった」
アタイはボソボソと顔をテーブルに伏せながら呟く。
「え? 何だって?」
パスティルはそう聞き返してから顔を近づけて来る。
「告白しちゃった……」
「はぁ!?」
今度は逆にパスティルが大きな声を上げる。
「告白って、そう言う告白よね?」
パスティルはキョロキョロと周りを確認した後に、そう聞き直して来た。
「うん。アンタの傍に置いてくれって言っちゃった……」
この事は、このまま墓場まで持って行くつもりだったのだが、やはり誰かに聞いてもらわないとアタイの精神が持たない。
口にてしまった後だが、酔いのせいか頭がほわほわして、あまりその実感が無かった。
「マジかぁ……」
ああ、やっぱりそう言う反応になるよな……。
「で、相手は何て?」
軽く息を吐きながら、パスティルがアタイに質問する。
「なんとかするって言ってくれたけど、アタイ怖くなって、冗談だって言って逃げだしちゃった……」
告白した後の、ヤマトのマジかよって顔が頭を過り、顔が更に熱を持つのを感じる。
「へー、ヤマトさんってちゃんと責任取るタイプなんだ。でもまあ、それはそうか……」
感心している様子のパスティル。
「ヤマトは真面目だよ……新人の面倒を率先して見てるし、よく誰かの相談に乗ってるし、ダメなものはダメってちゃんと叱ってくれるし。それに女癖は悪いけど、ちゃんと遊んでも大丈夫そうな女を選んでるし……」
「いや、最後のはどうなのよ……てか本当にめっちゃ好きじゃん」
あたしはこの気持ちを恋ではなくただの好意だと自分に言い聞かせて来た。
しかし、何の気の迷いか、今朝はその本音をヤマトにぶつけてしまったのだ。
「でも分かるわ。ウチ、ヤマトさんって最初めっちゃ怖い人だと思ってたけど、話してみたらすごい気さくだし、何なら怖いどころかめっちゃひょうきんでギャップがすごいと言うか、あれは確かにモテるわ」
そうなのだ。
彼はアタイだけに優しいのではなく、男女関係なく誰にでもあんな感じなのだ。
絶大な力と権力を持っておきながら、それを振りかざすでもなく誰にも分け隔てなく接してくれる。
ただ一つ、自分に敵意を向けてくる者には容赦ないが、それはそれで彼のカッコいい部分である。
「パスティル。アンタはヤマトとヤっ《・》た《・》ことあんの?」
何気なく口をついて出てしまったが、アタイは親友に何てことを聞いているのだろうか。
「まさか! ウチは別にエッチが好きなわけじゃないし、ヤマトさんとそんなに話したこと自体がないよ! それに知ってるでしょ? ウチはアキちゃん一筋なの!」
まあ、パスティルはああいう性にだらしない男は好きじゃないだろうな。
しかしアキか……。
あの女男はファンクラブが有るほど人気があるが、アタイは何がいいのか分からない。
まあ、男女のアタイが言えたことでもないが。
「おおヤマト! 神託があったんだろ? どうだった?」
一人の客がそう言うのが耳に入り、あたしは驚いて店の入り口に目をやる。
「あー、全くホントに話が広がるのが早いな……」
そう言って頭を掻きながら入って来る長身の男が一人。
「うわぁ。何てタイミング……」
パスティルが言う通り、何というタイミングだろうか。
「酒ですわー! 酒とたんぱく質ですわー!」
「おめーはまだガキだろうがっ!」
しかもガキを二人連れての登場である。
「あーもう、やっと空いてる店が見つかったわ……今日は何かイベントでもあんのか?」
そう言いながら空いている奥の席に座ろうと人を避けながら進むヤマト達。
当然、そこまで広くない店内でアタイと出くわさないわけが無く……。
「おうカチューシャ! 今朝ぶりだな!」
そう言って手を上げて挨拶をしてくる。
「お、おう……」
今朝、自分から気にしないでと言って置いてこれである。
小心者の自分が嫌になる。
「わたくしは十六になりましたから、もうお酒の飲める年ですわー!」
そう言ってはしゃぐピチカと、不意に目が合った。
するとピチカはトコトコとこっちへ寄ってきて、
「すんすんすん。すんすんすん……あっはあ! これはメスの香りですわー!」
その思っても見ない発言にアタイの心臓の鼓動が跳ね上がる。
何てことを言うんだこのガキは!
「ガハハハハ!! 言われてみればカチューシャ、最近ちょっと奇麗になったか? もしかして、ついに男が出来たか!?」
酔っぱらった冒険者のおっさんがそんなことを言っているが、あいつは今度シメておこう。
アタイはグイっとジョッキの中身を飲み干すと、空になったジョッキを掲げる。
「おーい! こっちエールのお替りだ!」
店員に向かってそう叫んだ。
そうやって運ばれて来たエールを、アタシはまた一気に飲み干した。
――――――
「ゲーーーーーーーーー!!」
空き地に向かって飲んだ酒を噴射する。
「あーもう、またこういう役目かよ……」
「す、スマン……。 !! ゲーーーーーー!!」
支えてくれているヤマトにかからないように、あたしは柵から身を乗り出して嘔吐する。
一体、アタイは何をやってるんだ……。
「汚ったね―! 体もデカけりゃ吐く量もやべーな」
「あっはー! どの口が言ってるんですのー!」
クソ……いっそのこと記憶が飛んでしまえばいいのに、こんな時に限って頭だけははっきりしている。
「ごめんねヤマトさん。ウチじゃカチューシャを支えてあげられなくて」
パスティルがそう言いながらアタイの背中をさすってくれる。
「いやいいよ。誰かさんのせいで、こういうの慣れてるから」
ふう、おかげさまでやっと落ち着いて来た。
酒を飲んで吐いたの何て、何年ぶりだろうか。
「あたしも酒飲みたかったなー。それにしてもピチカ、お前めっちゃ飲んでたけど大丈夫なの?」
「大丈夫ですわー! キャハハハハハハ!!」
それにしても本当に騒がしい連中だな、ヤマトはよくこんなやつらと四六時中一緒にいれたものだ。
「おいピチカ! こんなところでそれはマズいって!」
「あっはー! めっちゃ出ますわー!」
後ろから石畳に打ち付けられるせせらぎが聞こえて来る。
「あのバカ! やっぱ酔ってんじゃないか! パスティル、ちょっとカチューシャを見てて」
そう言ってヤマトはガキどもの方へ駆けていく。
つくづく面倒見がいい男だな。
「ピチカー! おしっこしてる所見せてーー!」
いや、最低の理由だった……。
「カチューシャ。酔っぱらって気持ちは落ち着いたの?」
二人きりになって、パスティルがそう聞いてくる。
「はあ……どうだろうな。でも向こうはババアの嘔吐するところなんか見せられて、こんなんじゃ百年の恋も冷めるだろ」
月明かりに照らされた眼前のそれを眺めて、あたしはため息を吐く。
「ワインを飲んだ聖女のおしっこは聖水ですわー!」
「ヤマト! お前は止めろよ! 街中で野ションする聖女とか……あっ! そこのお前ら見るな! 見せもんじゃねーぞ! あーまったく男どもは何で……」
珍しくアメリアが止める側に回っている。
「いっつも賑やかよね、ヤマトさんのパーティーは」
それは本当に同意だ。
「よく考えたら、ヤマトと一緒になるって事はあいつ等とも付き合っていくって事なのか……」
ピチカはまだ良いとして、色々な意味でアメリアとオリーに関しては本当に上手く付き合える気がしない。
別に悪い奴らとは思わないが、今以上に関わるとなるとストレスで胃に穴が開いてしまうだろう。
……あれ? そう言えば、あと一人くらいパーティーメンバーがいなかったっけ?
「どう? あの輪の中に入れそう?」
パスティルがそう言って悪戯っぽい笑顔を向けて来る。
「まあ、確かにあれはアタイには無理かもな……」
ぎゃーぎゃー騒ぐ三人を見て、不覚にも気持ちが少し楽になった気がした。
まあ、傍から見ている分には面白い連中だと思う。
「お前の聖水どんだけ出んだよ! 他人の家の前を海にしやがって怒られても知らないからな! てか酒くっさっ! お前の聖水酒くっさ!!」
「キャハハハハハハ!! 王族の膀胱を甘く見ないで下さいですわー!」
「ピチカちゃん。終わったら俺が拭いてあげるね?」
まあ、見ている分ならな……。
これにて第四章が完結です。
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・あとがき(四章)・
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