第70話 謝れて偉い
「なるほど。それはアメリアが悪いわ」
俺とピチカはまず結界の修復とケガ人の捜索、そして治療をした後、自警団の連中に西門の横で事件の概要を聞いていた。
「あの……ありがとうございます。娘の腕を直して頂いて……」
大方の話を聞き終わった後、俺が腕を直した娘の父親が改めてお礼を言いに来た。
「いや、礼はいらない。もとはといえばウチのパーティーメンバーが起こした事だからな」
そう言って俺は背負っていたアメリアを傍らに寝かせる。
あのまま地面に放って置いたら村人に何をされるか分からなかったため、一応連れて行っていたのだが、そろそろ大丈夫だろう。
村人たちはしばらくの間、怒り冷めやらぬといった様子だったが、俺とピチカがケガ人の手当や村の復旧を手伝っている過程でだいぶ落ち着いてきたようで、今はそれぞれ自分のやるべき仕事をしているようだ。
「ああっ! アメリアさん大丈夫ですのー!」
俺がアメリアを下ろしたのを見たピチカが駆け寄って来る。
「スライムは大体取り除いておいたから、あとは瓦礫の撤去と……」
そう言いながら俺はアメリアを見下ろす。
「しかし助かりました。スライムの処理だけで何日かかるかと思っていましたが、あんなに一瞬で片づけてしまうとは」
衛兵が俺に礼を言うが、さっきも言った通りこれはアメリアが引き起こした事である。
「アメリアさんっ! じゅるり……あたしが魔力を注入をして差し上げますわっ!」
そんなものは全く必要ないのだが、いつもの事なので特に言及しないで置いた。
「とりあえずコイツが起きるのを待って、言い分を聞かないとな」
ピチカに吸い付かれているアメリアを見ながら、俺はポリポリと頭を掻いた。
「何を聞く必要があるんですか! この女が村に向かって魔法を放つところを、多くの者が見ているんですよ!?」
また白熱しそうになった衛兵を、俺はまあまあといって宥める。
「こいつはバカだが悪人じゃ無い。それに魔族と契約したり操られた痕跡はなかった」
まあ、俺はコイツの直近の記憶を断片的に見ているので、大方の事情は分かっているのだが。
「じゃあなおさらヤバいじゃないですか! 操られていないのにあんなことやったんだとしたらただのキチ〇イですよ!」
その辺をどう納得させるかが、今回の事件を収めるためのポイントだろう。
「じゅるっ……ぴちゃっ……ずぞぞぞっ」
「おいピチカ。それ以上やるとマジで窒息するからその辺にしておけ」
俺はアメリアの口にむしゃぶりついているピチカの頭を小突く。
「……んぷっ!? ぶえぇえ!!?」
ゴンッ!
そこにジャストタイミングで目を覚ましたアメリアが驚いて起き上がり、おでことおでこがごっつんこする。
「いってぇ! ……うわぁ!?」
身を起こして頭を押さえたアメリアに、ピチカが飛び掛かる。
「アメリアさんっ! 心配しましたわー! ハァクンカクンカ! クンカクンカ!」
そして泥だらけのアメリアの胸に顔をうずめて、それを吸い始めた。
「ばかやめろっ! ってどこに手ぇ入れてんだこのクレイジーサイコ聖女!!」
必死で押しのけようとするアメリアに、引きはがされまいとホールドするピチカ。
「……あの、この方は聖女様であってますよね?」
それを見て衛兵がドン引きしていた。
「ピチカ! おめーは一応イメージ商売なんだから弁えろよ!」
クレイジーピチカは置いといて、アメリアも起き抜けにこれだけ元気ならすぐに話を聞いても大丈夫だろう。
「アメリア。何があったのか聞かせてくれ。嘘をつかれるとややこしくなるから正直に言えよ?」
俺はピチカを強引に引きはがすと、俺の水筒の水で勝手にうがいをするアメリアに対して単刀直入に聞いた。
「あ゛ぁー! お前の水冷たくていいわー」
ええからはよ言えや。
――――――
「なるほど……」
まさか本当に全て俺の思った通りだとは思わなかった。
「そんなわけ無いだろう! そんなのただのバカじゃないか!」
衛兵が事のあらましを聞いてなお、憤っている。
「いや、コイツなら全然ありえる。なんたってバカだからな」
「うるせーなぁ……よってたかって人をバカバカ言いやがって……」
そう言うアメリアは少し苛立っている様に見えるが、自覚があるのかその口調は普段より大人しめである。
「話は聞かせてもらったぞ」
そう言ってこちらに歩いて来る老人が一組。
ん……誰?
「村長!」
「ヴェル!」
衛兵とアメリアが声を上げる。
「私が村長です」
そう言って村長と名乗る男性。
どうでもいいが、話は聞かせてもらったぞとか言うセリフを始めて生で聞いた。
「お怪我はもうよろしいのですか?」
そう言って彼を気遣う様子の衛兵。
「ああ、ヴェルの治療のおかげでな。そもそも大した怪我でもないのに、みんな騒ぎ過ぎだ」
重症の怪我人はほとんど俺とピチカが担当したため、彼の言っている事は本当だろう。
「ヴェル……」
アメリアがそれをもう一度口にして、聖職者の老人と見つめ合う。
彼女たちの表情は悲しみを帯びて見える。
「ごめんねアメリア……。あなたを信じてあげられなくて……」
謝罪の言葉を口にする老婆に対し、アメリアは、
「いや! あたしが悪かったんだ! それに村をこんなにしたのは事実だし何て言えばいいか……」
キェェェェェェアァァァァァァァ! アヤマッタァァァァァァァ!!
一言ゴメンとかではなく、こんなに真摯に謝罪するアメリアを見たのは初めてかもしれない。
「アメリアさんっ! ちゃんと謝れて偉いですわー!」
うんうん。
謝れて偉いね!
とはならだいだろうなぁ……。
「とにかく! お前の話が嘘か本当かは置いて置いて、ここまでの損害を出したんだから相応の賠償と量刑は覚悟しておくんだな!」
いきり立つ衛兵に、村長がまあまあと宥めるように声をかける。
「今の所、死人は出てないと聞くし、嬢ちゃんも町を守ろうとしてやった事だろう? それに、もし魔族がそのまま町に近づいていたらもっと大変な事になっていたかもしれない」
「村長はコイツの言っている事を信じるんですか!?」
穏便に済まそうとしている村長に、納得出来ない衛兵が食って掛かる。
「賠償なんだが、金銭に関しては俺がなんとかしよう。物資の損害も可能な限り取り計らえるように掛け合ってみる」
俺がそう提案すると、村長が俺の方を向いて口を開く。
「それなんじゃが……」
村長が何かを言いかけた時、俺はある気配を感じて村の奥を見た。
その俺の様子に何事かと、他の連中も同じ方を向く。
間もなく、村の建物の角から、見知った魔動車が現れる。
「おお、丁度良くいらっしゃったようじゃな」
その言葉からして、村長はあの魔動車に乗っている人物に心当たりがあるようだった。
魔動車は俺達の方へ一直線に向かって来ると、そのまま俺の前で止まった。
運転席にはバジョンが乗っているのが見える。
バジョンは無言で車から降りると、そのまま後部座席のドアに手をかけてそれを開ける。
そして、そこから感じた魔力で俺はそれに乗っている人物を特定した。
自分の顔から血の気が引くのを感じた。
そこから降りて来たのは、シックな燕尾服に身を包み、口と顎に整えられた立派な髭を蓄えた人物。
「なるほど、建物の被害は思ったほどでは無いようだな」
ボーゼンドルフ辺境伯が低い声でそう呟いた。
「こりゃ、ワシの出る幕は無いかもしれませんな」
逆の扉が開いて、これも見知った人物、フォルクの声が聞こえて来た。
「わざわざこのような辺境の村においで下さり、教悦至極に存じます」
老人は一歩踏み出すと、片膝をついてうやうやしく礼をする。
俺もそれに倣って急いで礼をした。
「村長、頭を上げてくれ。ともかくあなたが無事で安心した」
その声に対し、村長がゆっくりと頭を上げる。
どうやら、村長と辺境伯は顔見知りの様だ。
「すみません……どなたですか?」
衛兵が俺にそう耳打ちして来たので、
「ボーゼンドルフ辺境伯だ」
そう一言返すと、衛兵は慌てて膝をつく。
「さて、何があったのか聞かせてもらえるか?」
辺境伯は俺達を一瞥すると、俺の所で目を留めてそう言った。
「はい……実は……」
俺は膝をついたまま、顔だけを上げて口を開いた。




