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第69話 カーネイジ

 それは猛烈な魔力だった。


 俺はそのれを感じた瞬間、反射的に強烈な結界魔法でその魔力の発生源を囲った。

 その中で弾けた強力な魔力が真上に抜けて村の大結界を粉々に破壊する。


 しかし、急ごしらえの結界魔法がその威力に耐えきれず、砕け散る。


「『”バリア”』ですわー!」


 すぐにピチカが結界を張り直し、その衝撃から周囲の人を守る。


「ナイスピチカ!」


 俺はそう言うと躊躇なく飛行魔法でそこへと飛び込んでいく。


 一瞬で距離を詰めた俺は、尻もちをつく衛兵たちを尻目にピチカの張った結界に手を伸ばした。


 バリバリバリバリッ!!!!


 魔力が具現化して空気を割く音が響く。


 俺の目はその音の発生源である、アメリアの姿を捉える。


 真っ赤な燃え盛るようなオーラを放つそれは、結界の中で浮遊しており、さながら某国民的マンガの界〇拳のように見えた。


『全てを消し飛ばせ! ”カーネイジ”!!』


 頭の中にアメリアの声が直接響いた。

 灼熱のオーラが勢いを増して俺に襲い掛かる。


 俺は周囲で放心している人間を念力で乱暴に吹き飛ばすと、ピチカに向けて大声で叫ぶ。


「ピチカ!! 神聖魔法で俺の周囲を囲え!!」


 その声にピチカが嬉しそうな声で、


「まだクールタイム中ですわー!」


 と返して来た。


 だからさっき使うなと言ったのに!


 仕方ないので力技でアメリアを抑えにかかる。


 俺は伸ばした手で彼女の魔力を吸引しながら、ゆっくりと更に先へと手を伸ばす。


 この”オーバードライブ”というやつは、魂にかけられているリミッターを解除して本来以上の魔力を行使できるようにするという、いわば火事場のバカ力的なものである。

 もちろんこれはそんな簡単に使っていいものでは無く、魂や精神、肉体などにとんでもない負担をかける、いわば魔族が使う”狂化”の人間バージョンなのだが、魔族の”角”のような魔導器官を持たない人間では誰もかれもが使えるという訳ではない。


 そしてアメリアはオーバードライブを発動こそできても、それを制御出来ないのである。


『”ヘルファイア”』


 普段の数倍の威力になった魔法が俺を襲う。


 俺はそれを抑制して周りに被害を出さないように努めるが、いかに俺が強いと言ってもアメリア本人も含めて全てを守りながらこれ行うのはかなり苦しい。


 オーバードライブ中はその人間が一回に扱える瞬間最大魔力も増えるため、人によっては普段の倍以上の火力を叩き出す。

 しかもアメリアの”カーネイジ”という、ゲームでいう所の”ユニークスキル”は、その威力を際限なく上げることができるのだ。


 そのため、その気になれば彼女の持つ魔力を全開放してマダ〇テのような超威力の攻撃を行う事も可能なのだが、そんなことをやって彼女も無事に済むわけが無い。


『”ヘルファイア”』


 再び俺はアメリアの炎に巻かれる。


 今のアメリアは完全に意識を失っているようだ。


 とりあえず、”炎の鳥(フレイムバーズ)”のような範囲魔法を使われる前に蹴りをつけたい。


 俺は防御魔法と”ドレイン”を並列で使いながら、強引にその業火を掻い潜る。

 そして、いつも魔族にやっているようにアメリアの首根っこをガッチリ掴んだ。


 アメリアの魔力はそれを全力で拒絶してくるが、俺はドレインで強引にそれを吸収すると、闇と光の魔力でアメリアの”魔導回路”を掌握にかかる。

 こちらに流れ込んで来る魔力量は下手したら魔族の”至貴族”級だが、アメリア自身の持つ全体の魔力量はそこまで大したことは無い。

 このままだと、彼女の魔力が先に枯渇して、魂や回路が壊れてしまう。


「ピチカ!! アメリアに魔力を送ってくれ!!」


 俺がそう言うと、ピチカがトコトコとこちらに走って来る。


「はいなっ!」


 軽いノリでアメリアの肩に手を置くと、大量の魔力を彼女に送り始める。


 アメリアとピチカの魔力が同調した物が、一気に俺に流れ込んで来る。


 …………。


 なんだこれ!

 この魔力、究極の美味である!!


 その放心するほど良質な魔力に、思わず俺は射精しそうなほど興奮してしまう。


 しかしすぐに我に返り、アメリアの精神へ介入を完了させる。


 このまま脳内物質を弄って鎮める方法もあるが、その後の反動が危ないので、ここは一旦アメリアの記憶にアクセスして暴走を止めることにした。


 ”霊力”でアメリアに同調すると、すぐに彼女の記憶が断片的に流れ込んで来る。

 相手の記憶を覗くことは違法なのだが、今の所これで罪に問われた事は無い。


 そして、一番熱い部分を特定し、そこへピンポイントにアクセスすると、アメリアのストレスをゆっくり緩和していく。

 逆に俺の方に嫌な気持ちが流れ込んで来るが、こればかりは耐えるほかない。


 ある程度ストレスを解消した所で、アメリアの魔力の流れが穏やかになる。

 それを感じたところで、俺は一気に彼女の余剰魔力を吸い取ってすぐに蓋をした。


「ピチカ。もういいぞ」


 俺の言葉を聞いたピチカが、アメリアの肩からゆっくりと手を離す。

 それを確認して、俺はアメリアをゆっくりと地面に横たえた。


 ドッと倦怠感が襲って来る。


「誰も俺に近づくなよ?」


 まあ誰も近づいてこないとは思うが、念のため俺はそう言うと、天高く右手を掲げた。


「くっ!? 静まれ俺の右腕!!」


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!


 吸い取った魔力で俺の中に溜めきれない過剰魔力を、魔法にして上空に発射した。


 大地が揺れ、雲が割れる。

 吠えるような轟音が周囲に響き渡る。


 そして、それを全て放出し終えると、しばらく周囲にこだまして、間もなく嘘のような静寂が訪れた。


 しばらく呆然として誰も口を開かなかったが、ピチカが俺の正面に立って俺を見上げて来た。


「大丈夫ですのー?」


 その引き込まれそうなサファイヤブルーの瞳に見つめられた俺は、


「きもちよかったですねぇ。ほぼイキかけました」


 彼女を見つめ返してそう言った。


「あっはー! 意味が分かりませんわっ!」


 さて、しかしここからがまた大変なのである。


 俺は周囲の様子を見渡しながら、もうこれ絶対ヤバイやつじゃんと思いました。

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