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第68話 オーバードライブ

「まずは杖をおいてもらおうか」


 そう言った衛兵の声は少し震えている。


 前方に四人の衛兵がおり門の外には傭兵や冒険者とみられる服装の人間が大勢こちらを見ていた。


「今これを置くと魔力が暴走するかもしれないから無理だ」


 魔法使いが使う杖は特定の魔法をを使いやすくするほかに魔力の安定器の役割を担っている。


「暴走? 今まさに暴走している様にしか見えないが?」


 同じ衛兵があたしに対してそう言って来る。


「これは”オーバードライブ”状態なだけで決して暴走している訳じゃないんだ」


 これは少し苦しい言い分だった。

 あたしは”オーバードライブ”というものをちゃんと理解しておらず今の自分の状態がどうなっているのかも良く分かっていない。


「嘘を吐くな! それは魔族と同じ”狂化”ってやつじゃないのか? 選ばれし者だけが使える”オーバードライブ”がそんな禍々しいオーラを放っていてたまるか!」


 声を荒げる衛兵。


「あたしはまだ制御が上手くできないんだよ! それにあんただってオーバードライブとか狂化を見た事あるわけじゃないんだろ!?」


 自然とあたしの語気も強くなる。

 そして自分で自分の拙さを口にするのは本当に情けないことだ。


「アメリア!!」


 不意に結界の外から声が聞こえる。

 衛兵も驚いて思わずそっちの方へと振り向く。


「まさかとは思ったがマジでアメリアじゃんか! 何やってんだお前!」


 そこにいたのは見た事ある顔だった。

 名前は忘れたがギルドで何度か話した事のある冒険者の男だった。


「ほらっ! あたしを知ってる奴がいるぞ! ほら!」


 あたしはようやく希望が見えたことに興奮して語彙力を失ってしまう。

 こんなことでも魔力が少し乱れるのを感じて心を落ち着ける。


「お前、こいつを知ってるのか?」


 衛兵が疑問をその冒険者に向ける。


「ああ、あいつはプラソディ市を拠点にしてる冒険者で、勇者ヤマトのパーティーメンバーのアメリアだ」


 そう答える冒険者の声を聞いた衛兵がゆっくりとあたしに向き直る。


「たしかに、さっき戻って来た仲間が伝えて来た内容と同じだな」


 そう呟いたのを好機と見たあたしは、


「そうだ! あたしはヤマトのパーティーのアメリアだ! 魔族とも幾度となく戦っている!」


 そう早口でまくし立てる。


「……だとして、じゃあお前は何でこんなことをしたんだ?」


 相手はようやく話を聞いてくれる体勢になったようだ。


「えっと。あたしは魔族が現れたって言うからすぐに魔族の所にいったんだ! そんでそこで魔族に会ってそれは二体いて話を聞いたらペットのスライムを散歩させてるって訳のわからないことを言って来たんだ」


 黙ってあたしの話を聞く衛兵たち。


「そんでそいつらがこの村がその散歩に邪魔だって言い始めてなんかえっと転送魔法で飛び越えるとか言い出してポータルを開いたんだよ! そんでなんかミスったとか言い始めて村の結界の上に広げちゃってその前にスライムを集めて大きいスライムにしてたんだけどそれを結界の上に転送したんだ!」


 あたしは一息でこれを捲し立てて息を切らす。

 そのせいで眩暈を起こして次の言葉が続けられなかった。


 衛兵はあたしがそこまで言い終わると顔を見合わせて渋い顔をしていた。


「つまり何だ? 魔族が散歩と称してこのスライムを結界の上に落としたって事でいいのか?」


「そ……そうだ!」


 あたしの言いたいことをうまくまとめてくれた憲兵に対してあたしは返事をする。


「たしかに魔族が拡声魔法で言っていた事と辻褄はあっているようだが、しかしその後の事はどう説明する?」


 そう問うてくる衛兵。

 ここがあたしの正念場だろう。


「それは魔族があたしにそうするように仕向けたんだ! わざとあたしを挑発するようなことを……」


 ここまで言いかけてあたしはハッとして言葉を切ってしまう。


「ん、どうした? 挑発されてどうなった?」


 衛兵の眉間のしわがどんどんと濃くなっていく。


「ちょ……ちょっと待ってくれ……ちょっと整理する時間をくれないか?」


 そう言って必死でどういえばいいのか考えるが完全に焦ってしまい考えがまとまるどころか同じ言葉がぐるぐると頭の中を回り続ける。


「俺は見たぞ!!」


 また門の外から別の男の叫び声が聞こえる。


「俺はそのガキが丘の上から魔法を放つのを見た! それでこの村の結界が壊れるのも確かにこの目で見届けたぞ!」


 コイツ!!

 なんて余計な事を言うんだ!!


 しかし言っていることは間違っていないのがたちが悪いのであたしはなんとか誤解を解こうと頭をフル回転させる。


「違うっ! あたしは――」


「これを見ろ!!」


 あたしが咄嗟に出した言葉をかき消すその男の声。


「うちの娘は来月結婚する予定だったんだ! なのにお前のせいでこんなになっちまった!」


 そういって引っ張ったのは女性の手だった。

 傭兵と男の間に現れたその手は酷くただれており――。


 ドクンッ!


 心臓が高鳴るをの感じた時にはひと際大きくオーラが乱れていた。


 バリバリバリ!!


「ひぃっ!」


「きゃあっ!!」


 雷の様な音を出したそれに門の中からだけで無く外からも悲鳴が聞こえた。


「う、うちの(せがれ)がまだ門の中にいるんだ!!」


「俺も膝にスライムを受けて! 歩けなくなったらどうしてくれる!!」


「アタシの家もスライムが落ちてきた衝撃で――」


 堰を切ったように結界まで押し寄せて来た村人が次々と恨み言をまくしたてる。


「コラっ! 危ないから結界に近づくな!!」


 外の傭兵がそれを必死で抑えていた。


「知るか!! 衛兵は何やってんだ!! あんな奴とっとと殺しちまえ!!」


 そうだそうだと血気だつ村人達。


「だ……だから違うんだって! 誤解なんだってっ!!」


 あたしは必死に叫ぶがそれは彼らの耳には届いていないようである。


 先ほどの冒険者も村人を抑えるのに必死でこちらを見る余裕は無さそうだ。


 いろんなことが混沌と頭の中を駆け巡ってもうなにも考えられない。


「おいお前! アメリアと言ったな! とりあえずこれだけは答えろ! これをやったのはお前か? ”はい”か”いいえ”で答えるんだ!!」


 衛兵が罵詈雑言の嵐にかき消されないように今一番声を張り上げる。


「…………いやっ!! 待ってくれ先にちゃんとあたしの話を――」


 ピキィーーン!!


 あたしが言いかけると今度は光の檻が周囲に展開される。

 それはあたしの受けた本日二度目の聖魔法だった。


「ごめんねアメリア……でも今は大人しくしておいてちょうだい」


 そう言って門横の建物から出て来たのはあたしを治療してくれた老婆のヴェルだった。

 頭には包帯が巻かれており手には聖杖を携えている。


「ヴェル! お願いっ! あたしの話を聞いて!!」


 あたしは思わず結界に手をかけそうになるがバチッと弾かれて指先に痛みが走った。


「ほら見ろ!! 聖職者の神聖な結界に反応しているぞ!! やっぱりそいつは魔女だ!!」


 騒がしさを増す門外の村人たち。

 そんな中ヴェルは私の方にゆっくり歩いて来る。


「アメリア。今、自警団の人が隣町まで憲兵を呼びに行っているわ。それまでの辛抱だから、少し我慢できないかしら?」


 優しい声をかけてくれるがそれが出来ない理由があるのだ。


「ヴェル! 聞いて! あたしはまだこの力をちゃんとコントロール出来ないんだ! だから魔力が一定以上減っちゃうと暴走しちゃうんだよ!」


 声を荒げるあたしにヴェルは優しく微笑みかける。


「”オーバードライブ”ね。いいわ、今から私が神様にお願いして、その力を抑えてもらうわ」


 そう言って聖杖をこちらに向けるヴェル。


「ダメだっ! あんたの魔力じゃあたしを抑えられない!!」


 あたしは必死に叫ぶが老婆は目をつむると呪文を唱え始める。


「大丈夫よアメリア。神様の魔法はとても強力なの。ちょっと怖いかもしれないけど必ず助けてあげるから」


「待って! ヴェ――」


 目の前が真っ暗になった。


 完全に五感を失われて自分が立っているのか座っているのかも分からない。


 がむしゃらに動いてみるがそれが本当に動いているのかも分からなかった。


 呼吸の音も聞こえない。


 しかしなぜだか心臓の音だけがどんどん大きくなっていく。


 徐々に恐怖が侵食して来て嫌な事が頭の中に溢れてくる。


 嫌だ嫌だ嫌だ!!


 暗い暗い暗い!!


 心音が誰かの足音のようにあたしに近づいて来る。


 怖い怖い怖い!!


 嫌だ嫌だ嫌だ!!


 幻聴だろうか誰の声が聞こえたような気がした。


 ざわざわと耳にまとわりつくような声。


 何を言っているのか分からないが心音に紛れてその声がどんどん頭の芯に近づいて来る。


 ドクン ドクン ドクン


 あたしはその声を知っている。


 ドクン ドクン ドクン


 それはかつてあたしが好きだった声。


 ドクン ドクン ドクン


 そして、その声の主は。


 あたしの事を……。






「ずっと一緒だよ。アメリア」

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