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第67話 あたしの話を聞いてくれ

 バチバチと静電気が弾けるように全身に魔力が駆け巡る感覚があった。


 頭の中は不自然なほど冴えているがそれに反して顔は燃えるように熱い。


「う……ああ……」


 一人の衛兵が呻きながら立ち上がる。


「ぐ…………う……あ……」


 壁に打ち付けられて頭から血を流した衛兵がそのまま崩れ落ちる。


「ひっ!?」


 あたしと目の合った衛兵が尻もちをついた体制のままずりずりと後ずさる。


「狂化だ! 魔女が狂化したぞぉっ!!」


 ふらつきながら起き上がった衛兵が頭を押さえながら叫ぶ。


「ヴェルさん! 大丈夫か!?」


 仰向けに倒れる老婆に傍らの衛兵が声をかける。


「大丈夫……大丈夫だから……」


 ゆっくり助け起こされるヴェル。

 被っていた聖帽は後ろの方に転がっており代わりに額からつうっと一筋の血が流れた。


「あ……」


 あたしは無意識に一歩だけ足を踏み出す。


「うわああああああああああ!!!!」


 すると尻もちをついていた衛兵が叫び声を上げながら狂ったように”ファイアーボール”を乱打して来た。


「やめろ無駄だ! 立てる奴はけが人を連れてすぐに逃げろ!!」


 そう叫んだ衛兵も崩れ落ちていた衛兵をおぶってよろよろと歩いて行く。


「さあヴェルさんも!」


 助け起こされた老婆とあたしの目が合う。


「……アメリア。あなたは魔女なの?」


 ヴェルから戸惑う目を向けられてあたしは、


「ち……違う……あたしはっ!」


「何が違うんだ! その禍々しい魔力がその証拠だろう!!」


 傍らの衛兵が声を荒げる。


「だから違うってっ!!」


 バリバリッ!!


「うわぁ!?」


 感情が高ぶった瞬間に具現化した魔力が周囲の瓦礫を吹き飛ばす。


「こ……殺される……」


 尻もちをついている衛兵の股間にみるみる染みが広がっていく。


「アメリア……」


 ヴェルがあたしの名を呼ぶ。


 しかし次の瞬間には彼女はあたしを真剣な眼差しでまっすぐ見据えるとこちらに聖な杖を向けた。


「神よ! 悪しきを捕らえたまえ! 『封魔の籠(ホーリ・カヴェア)!』」


 彼女が唱えるとあたしの周囲に光の檻が展開される。


「ごめんねアメリア。あなたがそんなのじゃないなんて分かってるわ。でも……」


「ヴェルさん早く行くぞ! お前も小便垂れてる暇があったら這ってでも逃げろ!」


 そう言って衛兵は老婆を背負うと一目散に駆けていく。

 そんな中でヴェルは見えなくなるまであたしの方をずっと見ていてくれた。


 でも結局この魔法を使ったという事はあたしのことを信じていないって事だ。

 そして今の状態の私はこの檻を抜けることが出来ないだろう。


 あたしが結界に近づくとそれと共鳴するようにバリバリと音を立てる。

 これはあたしから漏れ出している闇属性の魔力のせいである。


 どちらにせよこんな膨大な魔力をまき散らしていたらこの籠を抜けることは難しいだろうけど。


「……あんははいつまでそこに座ってる気だ?」


 あたしは依然としてそこにへたり込んでいる衛兵に声をかける。


 声をかけたソイツは一瞬引きつった顔になるがあたしはその後その男の目線がおかしい事に気づく。


 あたしはその先が自分の下半身に向いている事に気づき反射的に目線を下げる。


 感情が高ぶったことで魔力が暴走して結界が激しく音を立てて波立つ。


「ひいぃいいっ!」


 男はようやくズボンの裾から小便を垂らしながらダバダバと駆けて行った。


「……毛深くて悪かったな」


 あたしはパンツとズボンをずり上げると乱れた服を整える。


 見事に泥だらけだ。


 そういえばトランクを路地の近くに置いて来てしまったが無事だろうか。

 まあゲロ染みのついた服くらいしか入っていないんだが。


 そんなどうでもいい事を考えている間に結界が消えたためあたしは杖を拾って歩き出す。


 とりあえず門の方へ行ってみるか。


 あたしはゆっくりと道を歩き始めた。


 村には意外と人が残っていたがあたしを見るなり驚いて建物の陰に隠れてしまった。


 道はこっちであっているのか。


 索敵魔法が使えないため建物の立ち方を見ながら歩いていたがすぐに目的の物が見えて来た。

 そこには明らかにあたしを待ち構えているであろう多数の人影があった。


「来たぞー!! 魔女だあぁーー!!」


 あたしが相手を見つけたのと同時に向こうもあたしを見て大声を出す。

 その声に合わせてその人影が武器をこちらに向けるのが分かる。


 あたしは杖を胸に抱えながら出来るだけ相手を刺激しないつもりでゆっくりと歩いて行く。


「そこで止まれーー!!」


 また向こうから叫び声が聞こえる。


「待ってくれーー!! あたしは魔女じゃない!! あたしの話を聞いてくれーー!!」


 あたしも負けじと相手に対して叫ぶ。


「止まれえぇーー!! いいから止まれぇーー!!」


 先ほど対峙した衛兵よりもだいぶ頼りない声に聞こえる。

 しかしこのやりとりにはデジャブを感じざるをえない。


「だから違うんだってっ!! ホントに誤解なんだって!!」


 もう何を言っていいか分からないけど何か言い続けるしかないのであたしは必死に同じことを叫ぶ。


「今回のスライムは魔族の作戦だ!! あたしはその罠にはめられただけなんだ!!」


 そう言った後にあたしは嘘をついてしまった事に気づいた。

 スライムこそ魔族の仕業だがこの惨事の引き金を引いたのはまごうことなきあたしだ。

 いままで出来る限り考えないようにしていたが今回の件でどの程度の被害がでているのだろうか。

 まさか死人が……。


 そう思った瞬間あたしの魔力が乱れてバチバチと音を立てる。


「うわぁあっ!?」


 背後から声が聞こえてあたしは慌てて振り返る。

 いつの間にそこにいたのか二人の衛兵が恐怖で歪んだ表情をしていた。


 そのせいでまたあたしの精神が乱されて纏ったオーラがバチバチと音を出した。


「きょっ! 距離を取れぇえ!!」


 門の方から声が聞こえると二人の衛兵が飛びのく様に後ずさった。


「待って! 話を聞いてっ!」


 あたしがその二人の方に手を出すと短く悲鳴を上げながら衛兵達は更に距離を取る。


 らちが明かないと思いあたしは門の方を向き直すと大きく息を吸い込み、


「そこっ!! その石畳がある手前まで行くから!! とりあえずそこで話を聞いてくれ!!」


 そう叫んでまた門に向けて歩き出す。


 また何か言われるかと思ったがそのことに対しての追及は無かった。


 はやる気持ちを抑えてゆっくりと道を進むあたし。

 大したことない距離のはずだがやたらと長く感じてしまう。


 そしてあたしはその場所にたどり着くと宣言通り歩みを止めた。


「あたしの話を聞いてくれ」


 あたしは目の前の衛兵達に真剣な目を向けながら改めてそう口にした。

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