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第7話 魔族の痕跡調査への同行

・登場人物・

ヤマト……主人公、勇者。

フォルカー……S級冒険者。魔動車の設計者。

ブラシュ……剣士。C級冒険者。リーダー。

パァス……スカウト。ムードメイカー。

パレッタ……魔法使い。学院主席。

クェント……センチネル。あまりしゃべらない。

アキ……聖職者。性別不詳。

 気を取り直して、オレは後方から改めて自分のパーティーを眺めた。


 まず、先頭を歩くのはこのパーティーの盾役(タンク)、センチネルのクェント。

 彼はこの中で一番年上で、白熱している俺たちを、いつも冷静にフォローしてくれる。


 そして、クェントの後ろを団子になってスカウトのパァスと魔法使いのパレッタ二名の女性陣。

 彼女らに並んで、ヤマトさんとフォルカーさんが居る。


 その後ろを”剣士(ソードマン)”の俺が歩き、さらに後方を……。


 オレはその人物をちらりと見る。


 小柄で黒髪の”聖職者(ホーリーオーダー)”。

 顔立ち的に、皇国か列島辺りの出身者だろうか?

 自己紹介の際に、”アキ”と名乗って以来、声を聞いていないが、顔立ちも声も中性的で、性別は判断しかねる。


 不意にその人物と目が合う。

 そりゃ当たり前だ、今後ろを振り返っているのはオレだけなのだから。


 その人はこちらを見ると、ニコリと微笑んだ。

 思わずオレは、軽く会釈をして前を向きなおす。


 ちょっと気まずかったが、怖い人では無さそうだ。


「ヤマトさんは”憲兵”ですよね? 今はもうそのお仕事はやってないんすか?」


 パァスが楽しそうにヤマトさんとおしゃべりしている。


「聖王都で学院に入学しようと思ったこともあるんですけど、色々ありまして……」


 パレッタはフォルカーさんと、何やら少し真剣な話をしている。


 そして、それに疎外感を覚えるオレ……。


 いや、疎外感だけでは無いんだが……。

 って、なんでオレはちょっと嫉妬しちゃってるんだ!?


 オレがそんなことを考えていると。


「さて、そろそろおしゃべりはおしまいにしましょう」


 急に後ろから声が聞こえて振り返る。

 他の全員も、その声を聞いて立ち止まった。


 アキさんが、手元に資料を持ってこちらに駆けよって来る。


「ようし! ここからは真剣に試験を進めようか」


 フォルカーさんが手を一泊叩いて注目を仰ぐ。


「アキ。説明」


 ヤマトさんが呼びかけると、アキと呼ばれた人物は俺たちを追い越し、先頭まで歩いて行く。


「はい、では皆さん。注目してください。試験の仔細(しさい)を説明します」


 よく通る耳心地の良い声でその人物は説明を始める。


「今回、皆様に受けて頂く試験は、C級昇格の最終試験である”魔族の痕跡調査への同行”です」


 魔族と言うワードに、オレは少し寒気を感じた。


「先ほどの繰り返しになりますが、冒険者はランクがC級以上になると、魔族に関わる任務を受けることが出来るようになります」


 そう、D級までの冒険者とC級以降の冒険者とは明確な線引きがあり、ビギナークラスであるF級を除くと、Eが初級、Dが中級。

 そして、C以降の冒険者はひとまとめに”上級冒険者”と称される。


「この試験は魔族と戦うための、いわば予行演習とも言える物です。このクエスト自体は我々に同行してもらう形となってはいますが、現場までの道中の行動はみなさんのパーティー主体でお願いします。現場付近に着いたらまた別の指示をだしますので」


 普通に冒険者をしていればD級までは誰でも上がれると言われている。

 昇格基準も明確で、一定の冒険依頼(クエスト)をこなした実績と、その基準を満たした後に行われる筆記試験をパスすれば、そのままEからDに上がれる。

 しかし、そこからC級はへの昇格は難易度が別格になっていて、まず同じように実績を積んで一定の基準を満たした後、C級以上の信頼できる冒険者からの推薦が必要なのだ。

 そこから更に詳細な仕事履歴の精査と素行の調査が行われ、それに通ってやっと試験を受ける資格がもらえる。

 ここまでにオレ達は、歴史・魔物・経理・戦術(格闘・魔法)・救護からなる地獄のような筆記をパスして、その後二度にわたる実技試験を通過してきている。


 パレッタは、「筆記試験はもっと難しくて良い」とか言っていたが、俺も含め冒険者何て学のない脳筋連中の塊なのだから無茶を言わないで欲しいと思ったものだ。


 そして三回目の実技試験、それが今受けている最終試験なのだ。


 ちなみに、実技試験の受験期間には”筆記試験の合格から一年以内”と言う期限があり、それを過ぎるとまた筆記からやり直しと言う鬼仕様である。

 更に今回の最終試験では、試験官が”C級冒険者試験資格に置いて、まだその域に達していない”と判断した場合、最悪だと冒険依頼の実績を積むところからやり直しになる事があるらしい。


 まあ、これはよっぽど酷い例だと思いたいし、そうならないように頑張ってきたつもりである。


「さて、皆さんがこの試験の事をどう聞いているかはわかりませんが、今回の試験で必ずしも魔族と遭遇するということではありません」


 アキさんが言うように、噂によると実際にこの試験で魔族と遭遇することはかなり稀で、魔族の痕跡といわれる痕跡自体も普通の魔物が残した痕跡であることが多いらしい。


「しかし、新しくC級に上がった冒険者が油断して……いえ、はっきり言うと、調子に乗って部を(わきま)えない依頼を受けて帰らぬ人となる事態が頻発しています」


 そう言えば座学講習の講師もそんな事言っていたな。


 昨今、魔族と人間の関係はかなり悪化していて、それに伴い、大陸の北側では結構な魔族の被害が出ているとか何とか。

 そして、それ関連の依頼を目当てにC級資格を取って北へ向かう冒険者が増えているらしい。


「帝国出身の皆さんはピンと来ないかもしれませんが、ここから北ではほぼ毎週のように魔族の出没情報があり、多くの冒険者や関係者がその対応に当たっています」


 帝国出身と言っても、ここ一年ほどは聖王国で冒険者をして過ごしている。

 実の所、そのまま帝都でC級試験を受けることも出来たのだが、パレッタ曰く、「帝国のC級は、聖王国ではC(マイナス)といわれて馬鹿にされている」とか、「聖王国で実績を積まなければ、北部に言っても信用が足りずに依頼がもらえない」等と説熱弁され、今回のように苦労して聖王国の試験を受ける事になってしまった。


 そしてここは、聖王都北部の入り口と言われている、”カンターテの森”である。

 ここから森を抜けて山を一つ越えた先が、ボーゼンドルフ領。

 そこが聖王国の対魔族最前線だ。


「――なので、最近の冒険者ギルドは割と普通に魔族事案の依頼を試験に当てることが多く、今回の調査も昨日、B(プラス)として依頼が出されたものになります」


「え、ちょっと待ってくれへん? B+って”B級二組以上”で当たる依頼とちゃうんですか?」


 依頼に+記号がついている場合、最低でもそのランクの冒険者が二組以上で臨む事が最低条件となっている。

 これは筆記試験で出たのでよく覚えている。


「そうね。でも、それは最低条件で、本来はそこに更に”そのランクより一つ下まで以上”、今回の場合は”C級以上のパーティーを一組以上加えての同行が望ましい”、だね」


 そう言ってパレッタが補足する。

 つまり、計三組で臨めという事である。


「それってウチらじゃ受けれへんのとちゃう?」


 パァスが戸惑った口調で言う。


 するとヤマトさんが、


「俺、フォルク。そしてキミ達。条件通りだろ?」


 ヤマトさんは何か問題でも?

 とでも言いたそうな調子だ。


 でも、この場合、普通に魔族と遭遇するかもってことだよな?


 不安そうな俺達の横で、フォルカーさんが「ガハハハ」と大声で笑った。

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