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第66話 さては馬鹿だな?

 思考が追い付かない。

 そんなあたしを見る魔族二人。


 どれだけそうしていたかわからないが先に口を開いたのは主人の方の魔族だった。


「貴様、さては馬鹿だな?」


 その言葉はあたしの左耳から右耳に抜けていく。

 あたしはただただ茫然と村に降り注ぐスライムを見ていた。


「無知な貴様に教えてやるが、スライムの内部は殆どが水分である。そして多少の粘性を持っておるわけだが、其処を部分的に熱すると突沸と言う現象が起こる訳だ。然も一部臓器に生物由来の可燃性ガスを含んで居るため一度引火すればあのような爆発を引き起こすのである」


 魔族はほくそ笑みながら聞いてもいないことをあたしに向けて言ってくる。


「其して飛散した体液が空気に触れてあの様なゼリー状に成り、物体に張り付くと言う訳だ。大型のスライムには火気厳禁なのだよ?」


 親切な解説をしてくれているようだがその言葉は右から左に抜けて行った。


『うわーー!! アメリアよ何をやって居るーー!!』


 耳をつんざくような拡声魔法の声にあたしはようやく我に返る。


 見るとその主人の方の魔族が町に向かって叫んでいるところだった。


『力が欲しいと言うから”契約”してやったら!! まさか其んな事に使うためだったとはーー!!』


 一体何を言っているんだ?


『我々は只、人間と対話しに参っただけなのにーー!! 此の儘では我々が疑われてしまうーー!!』


「おい待て! 何を言ってるんだお前等!!」


 あたしは急いで杖を魔族へ向ける。


『うわーー!! アメリアは何故此方に杖を向けるんだーー!! 力を与えたら我等は用済みとでも言うのかーー!!』


「おい黙れクソ野郎!!」


 あたしは魔族に向かって『”ヘルファイア”』の魔法を放つ。


『うわーー!! 本当に撃って来たーー!! 我々も応戦したいが人間に手を出す訳にはいかないーー!! 此処は撤退するしかないぞーー!!』


 小学生のような事を言いながら魔族は防御魔法を全面展開して踵を返した。


 あたしは魔法を連打しようと力を込める――。


 その瞬間眩暈がしてあたしは草の上に片膝をつく。


 何かされたのかと思って警戒するがこれは多分貧血だ。

 さっきまで平気だったのに何てタイミングだ!


 あたしが顔を上げた時には魔族は既に視界から消えた後だった。


 幸いちょっと立ち眩みがしただけで意識はハッキリしている。


 今やるべきことは何だ?

 そうだ、村をなんとかしないと!


 すぐに私は村の方に向き直ると飛行魔法を使って一直線に町への向かう。


 結界はまだ回復していないようだ。

 そのまま中に飛び込もう。


 そう思った瞬間町から何か飛んでくるのが目に入る。


 !?


 それは私にぶつかって爆発する。

 間一髪で防御魔法が間に合ったがどうやらあたしは魔法の集中砲火を受けているようで次々と攻撃魔法がこちらに着弾する。


 しまったそういうことか!

 魔族の別動隊が町に侵入してあたしを攻撃しているんだ!


 あいつらあんなこと言って置いて村を攻撃する気満々だったんじゃないか!


 あたしは大きく旋回しながら攻撃魔法を回避すると弓なりの軌道を描いたままの上空を飛行する。


 そしてその攻撃魔法が飛んできた場所の一つに狙いを定めて突っ込――。


 !?


 バキバキバキ!!


 魔法を打ってきた相手を咄嗟にかわしてあたしは隣の家に突っ込んだ。


 幸いそこには人はいなかったようだがあたしは慌ててその大穴を開けてしまった家の室内から外に飛び出す。


「ここにいるぞーー!!」


 あたしが家を出るなりそんな声が聞こえる。


「待ってくれ! あたしは敵じゃない!」


 その声の聞こえた方向にあたしもそう叫ぶ。


「動くな!」


 次の瞬間にはあたしは武器を持った大勢の人間に囲まれてしまう。


 四人の男衛兵に四人の傭兵風の男たちの計八人だ。


「防御魔法を解いて武器を置け! そして後ろを向いてそのまま這いつくばるんだ!」


 動くなと叫んだのと同じ衛兵があたしに槍を突き付けながら矢継ぎ早に言う。


「だから待ってくれって! あたしは魔族を抑えてただけなんだ!」


「いいから武器を置け! おいお前、聖職者を呼んで来い!」


 衛兵が槍をあたしにむけたまま応援を仲間に依頼した。


 これは完全に誤解されてしまっている。


「あたしは勇者ヤマトのパーティーの魔法使いのアメリアだ! 誰か一人くらい名前を知ってるだろ!?」


「『”バインド”』!!」


 あたしに向かって憲兵の一人が束縛魔法を唱える。


 全く聞く耳を持ってくれない。


 その魔法に呼応するように周囲も”バインド”の魔法をあたしに向けて使う。

 あたしはその全てを防御魔法の出力を上げて無理やり引きちぎる。


「クソダメだ! ここは俺ら自警団で抑えるから、お前ら傭兵は西門まで下がって、そこの保安を頼む! 何があってもこいつを絶対に外に出すな!」


 ゲームであれば完全な死亡フラグだがこれは現実だ。

 傭兵たちはそれを聞いてさっさと撤退していく。


 そしてあたしはしばらくその衛兵達と睨み合う。


「話を聞いてくれ! 魔族の言っていたことを信じているならあれは大嘘だ!」


「だったらなおさら武器を置いて這いつくばれ! さあ早く!」


 あたしは仕方なく杖を目の前に放り投げるとゆっくりと膝をつく。


「そうだ! そのまま手を上げてうつ伏せになるんだ!」


 後ろ側から傭兵がじりじり詰めてくるのを感じながらあたしは冷たい地面の上に這いつくばる。

 すると一斉に衛兵があたしへととびかかって押さえつけて来た。


「痛ってえっ!!」


 暴れるあたしを大の大人四人がかりで抑えにかかっている。


「おいコラ暴れるな! お前ら防御魔法で上から無理やり抑え込め!」


 急激に体に重量がかかる感覚がありあたしは地面に押し付けられる。


「ぐっ! かは……はっ! い……息がぁ!」


 あたしは何とか呼吸しようと身体操作と身体強化で体を持ち上げようとする。


「動くなっつってんだろっ!!」


 衛兵のエンチャントされた拳で思い切り頭を殴られる。


 そして顔だろうがケツだろうが遠慮なく鷲掴みにしてくる。


 「どこ……触ってんだ……ハゲェっ!!」


 痛いッ!

 苦しいッ!!


 腰のポーチがはぎ取られてローブも脱がされる。

 そして男たちの手があたしの体の隅々を弄り始めた。


 引いていた吐き気がじわじわとぶり返して来る。


「ちょっと貴方達! やめなさい!」


 聞いた事が有る声が聞こえる。


「ヴェルさん! こちらです!」


 その衛兵の声の後こちらに近づいて来る数人の足音がある。


「お前はそのポーチの中を調べろ。他はこの女の服を剥ぐのを手伝え」


 そう言って男たちがあたしのシャツに手をかけて無理やりそれを脱がそうとする。


 ゾワゾワと一斉に全身に鳥肌が立つ。


「やめなさい! 女性に対してなんてことをするの!」


「ヴェルさんこの女は”魔女”の疑いがあります! それ以上近づかないでください」


「だからってそんなっ! 私がやるからあなたたちは下がっていてちょうだい!」


「駄目です! ヴェルさんはこいつの魔紋を確認してください! そしてもし、この女が魔女だった場合は全力でこの女を浄化してください!」


「では先に聖魔法で拘束を施しますから! あなた方は離れていてください!」


 すでにあたしにはこの会話はほとんど耳に入っていなかった。


 ただ、衛兵があたしの下着をずり下げた瞬間、頭の中で何かが弾ける音がした。

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