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第64話 この世も捨てたもんじゃないな

 ――ヤマト達が町を出たのと同時刻。




「あーやっとここまで帰ってきたー」


 プラソディー町の診療所から逃げ出すように飛び出してたあたしはようやくフィナレス市まであと村二つというところまで来ていた。

 本調子ではないせいでかなりの時間がかかってしまったがここまで来れればこっちのものだろう。


 もう昼か。

 昨日はロクな食事をとれなかったため今朝は朝食を急いで掻き込んできたのだけど貧血で気持ち悪くなって全部街道にぶちまけてしまった。


 完全に吐き癖がついてしまっている。

 しかし何か食べないと倒れてしまいそうなのでとりあえずこの村でスープかなんかを飲もうと思う。


 あたしはレンタルボード屋にホバーボードを預けると村の入口付近を見て回る。


 正直期待していなかったのだがここは村というより町に近いようで意外と飲食店や屋台のレパートリーがあった。


「スライムが多すぎて馬車が通れねぇ! 冒険者に依頼を出してくれよ!」


 小太りの男が自警団らしき衛兵に大声で頼んでいる。


 そう言えば来た道にも妙にスライムが多かったな。

 しかしスライムは森で頭にでも降ってこられるとやっかいだが平地ではただのザコなので適当にスコップで道の端にでもどけとけばいいじゃないか。


 不意にいい匂いが鼻をつく。

 見ると屋台で牛肉の様な肉を焼いているのが目に入った。


 思わず口の中をよだれが満たす。


 しかしそこには行列が出来ておりそのお値段もかなり()()ものだった。

 それに今の状態であれを食べたら絶対にまた道の肥やしになってしまうだろう。


 あたしは食べたい気持ちをぐっとこらえてとなりの空いている屋台に並ぶ。

 そこは”コッコ鶏のチャウダー”的な物を提供している店だった。


 順番が回ってきてあたしは屋台のおっさんに銅貨を手渡す。


「んん? 嬢ちゃん一人かい? 最近魔族が出て物騒だから、街中でも一人で歩かない方がいいぞ?」


 おっさんはあたしが渡した器にスープを注ぎながらそう言った。


「なああたしって何歳くらいに見える?」


 いつもならこんな事聞かないのだが今日はなんとなく気になったのでそんなことを口にする。


「うーん……十か十一くらいかな?」


 マジか……。


「んで? 実際はいくつなんだ?」


 器を渡しながら微笑むおっさん。


「十七だよ」


 あたしがそういうとおっさんに「冗談だろ?」と笑い飛ばされてしまった。


 前世で最後に測った時のあたしの身長はたしか147cmだったはずだ。

 これは成人女性としてかなり低い部類に入ることは理解しているがとび抜けて低くは無いと思う。


 いつもはヤマトやオリーみたいなデカブツに囲まれているので分からんでもないのだが単体でもそうみられているというのはそれなりにショックである。


 あたしはスープに口を付ける。

 薄い……。


 しかし今の私にはこれくらいがちょうどいいかもしれない。


 二口目をすすろうと目線を落とすと自分の胸の谷間が目に入る。


 毎度毎度貧乳扱いされるが日本にいた時のブラサイズはCカップだったのであたしのいつも言っている「お前らが思っているよりある」は正しいはずだ。


 何となくあたしは自分の胸を服の上から触ってみる。


 とたんにゾワゾワと嫌な感じがしてスープをこぼしそうになってしまう。


 一昨日のあれは本当にヤバかった……。


 体を重ねて来る事こそ無かったがアイツらは何かと理由をつけて体を触ってきてサイナリアとかまた派手に布団を濡らしたせいで最終的にナースにつまみ出されていた。


 そんなことを思い出しながらあたしはスープを飲み干すと自分のお腹をさすってみる。


 まずい思ったより重いかも知れない。


 あたしはできるだけお腹に衝撃を伝えないように歩くと人気の少ない路地付近の木箱の上に腰を下ろす。


 やば……出そう……。


 流石にここで店開きしたくないのであたしはトランクを傍らに置くと頭を抱えて目をつむり吐き気を紛らわそうと何か楽しいことを考えようとする。


 あの病院で出された味のしない病人食は正解だったんだな。


 食事と言えば”東海国”にいた時はアクアパッツァみたいな料理がおいしかった。

 海産物が豊富で日本食に似た料理もけっこうあったな。


 しかしこの王国北部の食は味気ない物ばかりで唯一あたしが好きなのはチリコンカンの出来損ないっぽい豆料理だけだ。


 ああ失敗した食べ物の事を考えていると余計気分が悪くなってきた。


「お嬢さん? 気分が悪いのかい?」


 あたしに問いかける女性の声が耳に入って来る。


「……今話しかけないでくれマジで吐きそうだから」


 そう言ってその女性を追い払おうとするがその人はゆっくりとあたしの横にこしかけると肩に手を置いて来た。


「力を抜いて」


 昨日の事もあったため何をするのかと訝し気に思っているとスッと吐き気が和らいでいくのを感じた。


 あたしはそっと目を開けて彼女の方を見た。


 そこには聖職者の服をまとった老婆がこちらをみて微笑んでいた。


「少しは楽になったかい? 貧血をおこしたのかしら」


 そう言う老婆に対しあたしは、


「……ありがとう」


 一言だけお礼の言葉を返した。


「わたしはこの村の教会で司祭(プリースト)をやっている”ヴェル”と言うの。もししんどいようだったら、教会まで来るといいわ」


 彼女は自己紹介を終えるとそっと立ち上がった。


「あたしはアメリア。お気遣いありがとうだいぶ楽になったから大丈夫だよ」


 あたしはそう言って老婆にぎこちなく微笑むと彼女も微笑んでこちらに手を振ってから歩いて人波に紛れて行った。


 この世も捨てたもんじゃないな。


 しばらくそうやって人混みを眺める。


 昼食を終えた商人が次々と旅立っていき混み合っていた通りが嘘のように静かになりそのころにはあたしの気分も全開していた。


 あたしは水筒から水を一口飲むと立ち上がって背伸びをする。


 今から出れば日の高いうちにプラソディ市まで戻れるだろう。


 そう考えた次の瞬間。

 村の奥から男の叫ぶ声が聞こえて来た。


「魔族だーー!!」

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