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第63話 神聖魔法

 結界の内部は割とシャレにならない感じだった。


「おっさん歩ける? そいつらと一緒に東門まで行っといて欲しいんだけど」


 スライムの重量や酸による腐食効果で倒壊した木造家屋や、ケガで動けなくなっている村人を救出しながら、俺達は西門に向かっていた。


「『”回復魔法術式(ヒール)”』ですわっ!」


 捻挫した少女に、ピチカが回復魔法を使用する。


「まだちょっと痛いと思うけど、後で薬を手配してもらえると思うから、そこでもらってやってくれ」


 俺は怪我した少女の親にそう伝えて、先を急ごうとする」


「痛いよぉ……痛み止めの魔法使ってよぉ……」


 ぐずる少女に、父親は、


「何でもかんでも魔法で直すのは良くないって教えただろ? おぶってあげるから早く門まで向かうぞ」


 そう言って俺達に一礼すると、男は少女をおんぶして門へと歩いて行く。


「魔法に理解があると話が早くて助かるな、しかし、死人が出てなければいいが」


 俺はケガ人がいないか確認しながら、西門へと走る。


「今のところ、人がお亡くなりになった様子はありませんわー!」


 ピチカもケガ人を捜索しているが、村の結界が全面展開中なので、精度の高い魔法の使用は慎重にならなければならない。


 しかし、村の中心を突っ切れば早く向こうまで行けると考えていたが、結界内にこれほどの村人が取り残されているとは、完全に想定外だった。

 幸いであったのは、ゲームで言うラストダンジョン付近の村人なだけあって、多くの住人に魔法や自衛の心得があり、今の所は致命傷を負った人間がいなかったことである。


「てか、このスライムの破片の量は何なんだ? 村全体を覆いつくすくらいあるぞ?」


 覆いつくすというのは大げさだが、そう言っても差し支えないくらい被害が出ているのは確かだった。


 重要な建物は結界が張られていて無事そうだが、それ以外の木造の建築物は軒並みスライムや何らかの被害を受けているように感じる。


 ズドンッ!!


 俺達の進行方向から、何かしらの衝撃音が聞こえて来る。


「これはマズそうだな。ピチカ、もし次ケガ人を見つけたらお前に任せるわ。俺は先にアメリアの所に行くから」


 村が俺の記憶よりも広く建造物が多いため、これ以上の足止めを食うとアメリアの怒りが爆発するまでに間に合わない気がする。

 てか、今すぐプッツンしてもおかしくない。


「わたくしが行きますから、ヤマトさんが救護をお願いしますわっ!」


「ン拒否するぅ!」


 コイツを一人修羅場に向かわせたら、事態がなおさら悪化することは目に見えている。


 願わくば、これ以上けが人がいないよに願うが、残念ながら俺の望みは敵わなかった。


 家の軒先に、うずくまる女性が見える。


「大丈夫か?」


 俺が声をかけると、若い女性は真っ赤に泣きはらした目を俺に向ける。


 その顔は、スライムの酸に焼かれてただれていた。


「……はい、大丈夫……です」


 力なく答える女性。


「治療しますわっ!」


 そう言って、女性に近寄るピチカ。


「結構です……もう治療はすんでますから……」


 女性はそう口にすると、目を背けて自分の腕に顔をうずめてしまう。


 彼女の言う通り、酸の中和や傷自体の手当は済んでいるようだが……。


「酷い顔ですよね……すぐに村の聖職者に治療してもらったおかげで骨まで溶けることは無かったのですが、瘴気の阻害とか傷の状態とか、良く分かりませんがもう元に戻ることはないそうです……」


 うずくまったまま嗚咽を漏らす女性。


 そこにピチカが明るく声をかける。


「わたくしの”奇跡”でしたらっ! お顔をキレイに直して差し上げることが出来ますわっ!」


 その声に、女性がゆっくりと顔を上げる。


「”奇跡”? ……!? まさか! 聖女様ですか!?」


 初めてその姿をしっかりと目に捉えて、女性が目を丸くして驚きの声を上げる。


「あ、ちょっとピチカ……」


 俺は何かを言いかけるが、その言いかけた言葉を寸前で飲み込んだ。


「お顔をお上げくださいっ! さあ、いきますわー!」


 ピチカはそう口にして、大聖杖を天高く掲げる。


「天にまします我らが神よ、願わくば衰えしその命に再び光を与え給え! 『”|回癒の祝福《レヴィタリス=ベネディクティオ》”!!』」


 彼女が声高に唱えると、女性に眩い光の柱が降りて来て、それを包み込み光のエフェクトが舞い散る。


 ”神聖魔法”や”奇跡”と呼ばれるその魔法は、聖職者の中でも神に選ばれたごくごく一部の物しか使えない、正にこの世の理を超越した魔法である。

 それは通常の魔法魔は勿論、一般聖職者の聖魔法を軽く凌駕する。


 光が引いて行くと、次第に彼女の顔が明らかになる。


「ほら、自分で顔を確認してみ」


 俺はそう言って、彼女の顔の前に光源反射の魔法を施す。


 ゆっくりと顔を開けた女性は、その鏡を覗き込んで驚愕の表情をすると、ペタペタと自分の頬をてで触って、感触を確認した。

 そして、泣きながらピチカの前に跪くと、彼女の手を取って「ありがとうございます、ありがとうございます」と何度もお礼を言った。


「立てるかい? 君は急いで東の門まで避難してくれ。僕達は先を急がないといけないから」


 出来るだけ角が立たない声色で俺はそう言うと、別れの挨拶もそこそこに、俺達はまた西の門を目指して駆け出す。


「ピチカ。水を差したくなかったから黙ってたけど、あれくらいなら俺の魔法でもほとんど分からないくらいまで直せる。だから、できれば神聖魔法はここぞという時まで温存しといてくれないか?」


 本当はこんなこと言いたくないのだが、神聖魔法はその強力さゆえにかなりの制限が課されており、一日に何度も使える物ではないのだ。


「ヤマトさんっ! 女性の顔は命よりも重いも――」


「分かってる! 分かってるから!」


 今朝の事もあって、俺は女性問題でナイーブになっているので、これ以上自分が女性の敵として認識されるのは耐えられない。

 しかし、今後あり得る最悪の事態を想定するなら、彼女の魔法はその時までとっておいてほしいのだ。


「見えてきましたわー!」


 ピチカの指す先、広場の向こうの門に、うずくまる何かとそれを囲むような人影が目に入る。


「よし、ギリ間に合った!」


 俺がそう口にした矢先だった。


 その小さな塊から、尋常じゃない魔力が解き放たれるのを感じた。

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