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第62話 スライム

 街道を猛スピードで疾走する人影が二つ。


 俺とピチカはそれぞれ一枚づつホバーボードをレンタルすると、ミュゼトの村に向かって出発した。


 ピチカは俺がおんぶしていくという申し出を断固拒否し、自らホバーボードに乗って俺の前を走っているのだが、何度見ても聖女がそれを操る姿はシュールでいけない。


「げんだいしゃかいはサバイバル~ おれはさかなをさばいてる~」


 ご機嫌なラップが風に乗って流れて来る。

 こういう所は本当にアメリアによく似ている。


 今日も王国北部は晴天で、青空に疎らに浮かぶ羊雲が夏を感じさせていた。


「見て見てピチカー! ”3600°”!!」


 俺はグルグルと回転しながら宙を舞う。

 しかしそれは当然のように無視されてしまう。


「ですわー!!」


 と思っいきや、ピチカも華麗にムーンサルトを決める。

 クンカクンカしたことにブチギレてるかと思ったが、この様子なら大丈夫そうだ。


「ピチカ。いつかスケボーがオリンピック種目になる日が来たら、一緒に聖王国代表で出ような?」


「あっはー! その()()()()()()って言うのは美味しいんですのー?」


 まあ、スケボーがオリンピック種目になる日なんて絶対に来ないとは思うが。


 フィナレス市を出てから一刻が過ぎようとしている。

 この速度ならそろそろミュゼト村が見えてきてもいいはずだ。

 しかしそれにしても……。


「なんかスライム多くね?」


 先ほどからちらほらと目に入るのは、緑色をしたプルプル。

 その名も”グリーンスライム”だった。


 俺のその呟きは風切り音にかき消されたようで、ピチカらの返答は無かった。


 グリーンスライムはその色の割に毒性も低く、平野部で出会うのにはそこまで脅威ではないのだが、大量発生されるとその処理が面倒なため、冒険者からは忌み嫌われる存在である。

 スライムは主に湖沼のような水場付近に生息するのだが、続く日照りにより住処を失って出張して来ているのだろうか。


「見えてきましたわー!」


 ピチカが道の先を指差して明るい声を出す。


 しかし、俺の索敵魔法には先ほどから嫌な物が引っかかり続けている。


「うわ、村の大結界が緊急展開してる」


 これはもう、ドロドロが降り注いで渦に飲まれた後かもしれんな。


「そのドロドロに触れるな! 触れると皮膚が侵されるぞ!」


 村に来るなり、そんな叫び声が聞こえて来る。


 俺達が村の門の前に猛スピードで滑り込むと、そこにいた数人がその勢いに驚いて飛びのいた。


「うわっ!? 何だお前ら!!」


 武装した衛兵が俺達を見て声を上げる。


「フィナレス市から神託を受けて来たんだが、何があったんだ?」


 俺がそう言うと、衛兵の男は目を細めながら、


「神託?? ……!!??」


 しかし、ピチカを見た瞬間、そいつの目の色が変わる。


「まさか”ピチッカーテ”様!?」


 驚いた拍子に、男は後ろのドロドロを踏みそうになり、大きくバランスを崩す。


「おっとっと、とりあえず何があったか簡潔に教えてくれ。なんかヤバそうだし」


 俺はコケそうになった衛兵を支えると、話を急かした。


「魔族です! 魔族が出たんです!」


 よかった、どうやら俺の心配は杞憂に終わりそうだった。


 いや、全然良くないが!


「ん? ちょっと待て、だったらこのスライムの残骸はなんだ? 魔族がこれをけしかけて来たのか?」


 俺はその辺に大量に散らばっているドロドロを見ながらそう言った。


「い、いや……確かにそれはそうなんですが、何て説明していいのか……」


 判然としない回答に、俺は首を傾げながら、


「とりあえず村の中に入ろう。魔族が出たんなら、とりあえず退治しないと」


 そう言って結界の中に入ろうとする。


「いや……魔族はもう大した問題じゃないんですよ、でも……」


 ????


「どういうことですのー?」


 ホントに何を言っているんですのー?


「えっとですね、魔法使いを名乗るガキを、この結界で村の中に閉じ込めているんです」


 俺は思わずピチカと顔を見合わせる。


「なあ、もしかしてその魔法使いって、ボサボサの赤髪で東海国の魔法使い帽をかぶってなかったか?」


 俺は恐る恐るそう尋ね、相手の回答を待つ。


「帽子の事は分かりませんが、確かに赤髪でしたね。ちなみに女です」


 俺は「ああー」と言いながら天を仰ぐ。


「あっはー! アメリアさんですわー!」


 隣でピチカが嬉しそうに飛び跳ねる。

 なんでコイツはいっつもこんなに楽しそうなんだ?


「え? もしかしてあの”魔女”と知合いですか?」


 男のこの発言で、彼女が良くない事を起こした事が確定してしまった。


「あー、その魔女は何をやったんだ?」


 本当は聞きたくないが、聞かないと話が進まない。


「それがこれです」


 そう言って彼は、紫色をしたスライムの破片を指差す。


「”ポイズンスライム”?」


 それは”パープルスライム”の残骸で、通称がポイズンスライムである。

 先ほど見かけたグリーンスライムに比べて圧倒的に毒性が強く、更に瘴気までまき散らす害悪モンスターである。


「その魔女が、子どもを装ってこのポイズンスライムの雨をこの村に降らしたんですよ!」


 んん?

 どういう事??


「そう言えばー! 去年の夏にもスライムが町に降った事件がありましたわー!」


 あー、あったあった。

 何かあの事件も魔族が関連してるんじゃないかとか言われてたな。


 でも結局あれってスライムじゃ結界が破れなくて、郊外がちょっと汚染されただけで特に大きな被害は出なかったんじゃなかったっけ?


「壁外からでも使える非常用の通信施設が運悪くやられてしまったので、隣の村まで通信を借りに行っているんですよ。村民の殆どは西門の方へ避難してもらっています」


 なるほど、だからこっち側には数人の衛兵と、足止めされた商人しか見えなかったのか。


「しかし助かりました。聖女様と、あなたはヤマト様ですよね? 恐縮ですが、応援が来るまで結界の維持を手伝って頂けませんか? なにぶん本来の使い方ではないので、魔力のある者総出で当たっておりまして、人手が足りていないんですよ」


 だから魔力だけは有り余ってる俺らがその維持を担当してくれって事だろう。


「今その魔女は何してるか分かるか?」


 俺はその衛兵の問いには答えず、別の質問を返した。


「先ほどは西門の辺りにいると言う情報がありましたが、今はどうですかね……」


 そう答える男に対し、俺はもう一つ質問をする。


「閉じ込めてからどれくらい時間が経ってる?」


「えーと、おそらく半刻ほどでしょうか」


 衛兵は顎に手を当てながら首を傾げる。


「こりゃそろそろ、村が火の渦に飲まれるころだな……」


 俺はそう言ってため息を吐く。

 衛兵はその言葉の意味を考えているのか、先ほどとは逆の方向に首を傾げた。


「それではゴーですわっ! 村を突っ切ってアメリアさんに会いに行きましょう!」


 そう言って結界に触れようとするピチカ。


「待て待て! お前は絶対に結界には触れるな!」


 俺が慌ててピチカを止めると。


「現在は誰も出入りできないようになっているので、面倒かもしれませんが外周を回っていきましょう」


 衛兵もそう話すが、俺が言っているのはそう言う事ではない。


「俺がやる。お前ら衛兵は引き続きここを守っといてくれ」


 ピチカを抱き上げながら、俺は背中で結界に触れようとする。


「いやですいやですぅ! わたくしがやりますのぉおーー!!」


 首をぶんぶんと左右に振って、ピチカが全力で駄々をこねる。


「お二人ともおやめください! イレギュラーな使い方をしているせいで結界はとても不安定になっています。事故が起きるかもしれません!」


 衛兵が狼狽えているが、ピチカは眉を吊り上げ、ほっぺたを膨らまして抗議する。

 そんな怒った顔も可愛いなぁ。


「はぁ……仕方ないな。だがピチカ、俺達二人が通れるようにするだけだからな? それ以外は絶対に何もするなよ?」


 俺がピチカから手を離すと、彼女はいつもの満面の笑みを浮かべながら、結界に正対する。


「えぇ……」


 衛兵が言葉を失っているが、理解が追い付いていないのか、それ以上彼女を止めようとするそぶりは見せなかった。


「でわー! いっきますわぁー!!」


 ピチカは目を輝かせながら、結界へタッチした。


「そーれっ!」


 彼女がそう言うと、結界の触れた部分の周囲がキラキラと明滅すると、丁度人が一人分入れるくらいが切り抜かれて、その縁が某ネズミ系ランドのアトラクションの入り口のごとくデコレーションされていく。


 過剰なほど装飾されたそれを、傭兵が口をあんぐりと開けて眺めている。


「出来ましたわー! さあ、参りましょう!」


 ピチカは緊張感のない声で、今しがた出来たそれを指差した。

・連絡・

土日は二話分投稿をしておりましたが、明日・明後日は各一話分を投稿する予定です。(平日と同様です)

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