第58話 狂化
・登場人物・
ヤマト……主人公。勇者のはずだが、禄でもない二つ名を沢山持っている。
ベイエル……A級冒険者。チャラ男っぽい雰囲気だが、かなりの実力者。
オリー……転生者の黒人男。自分が認められないのは世間が悪いと思っている。
レンブラント……転生者。D級パーティーのリーダー。乱暴者。
テレピム……D級パーティーの男スカウト。若干の三下感を感じる。
ペトリー……D級パーティーの女魔法使い。グラマラスなIカップ。
シッカ……D級パーティーの女剣士。細マッチョなEカップ。
トンバオ……B級パーティーの男レンジャー。リーダーだが地味なのが悩み。既婚。
グラーベ……B級パーティーの男修道僧。治癒魔法のスペシャリスト。
モンティーヌ……B級バーティーの女魔導士。術士教官も務める。×イチ。
サルッサ……B級パーティーの女センチネル。元王国軍の兵士。既婚。
アキ……男聖職者で転生者。男喰いとか言われるが、本人にその気はない。
「ギガガガガガガガガ!! グゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!」
魔族の大きな唸り声が周囲に響く。
その声は先ほどの女性的な物ではなく、猛獣の様な咆哮に変わっていた。
”狂化”しようとしている。
「やってくれたなハゲ。あと二層は行きたかったのに」
思いのほか冷静なヤマトの声が聞こえる。
俺は数歩後退すると、すぐさまヤマトと自分達を区切るように『”大防壁術式魔法”』を展開する。
「『神よ! 我等と悪を隔てたまえ! ”守護方陣”!!』」
アキも急いで後ろへ下がると、そこで聖魔法を展開する。
「レンブラント! オリー! すぐにアキの元まで下がれ。今度のはふざけても助けてやんねーぞ!」
俺が二人に向かってそう叫ぶと、オリーが慌てて起き上がるとアキの結界へと滑り込む。
流石のレンブラントも、これはただ事ではないと感じ取ったのか、渋い顔をしつつも素直にそちらへ駆けて行った。
「グギガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
そして間もなく、ひと際大きな奇声と共に、魔族が閃光に包まれる。
ドッ!!!!
物凄い衝撃に、俺の防壁魔法が激しく波打った。
光が落ち着くと、そこに二人の人影が現れる。
一人はヤマト、そしてもう一人は……。
「ハァ……ハァ……ハァ……キサマ! コウナッタカラニハ ゼッタイニ イカシテハオカンゾ!!」
野太い叫び声を上げる魔族。
現れたその姿は先ほどまでとは大きく変貌しており来ていた服は全てはじけ飛んでしまったようだ。
紫色だった肌は真っ黒に変色し、皮膚は所々裂けてそこから不気味な紫の光を放っている。
目も同様に赤紫に輝き、伸びた爪と角が異形の姿を演出していた。
「「なかなかエッチじゃん?」」
とんでもないセリフが被ってしまい、思わず俺とヤマトは顔を見合わせる。
ドゴォッ!!!!
その瞬間、魔族の右腕の一振りにより、大地が大きくえぐれた。
「カルクチヲ タタイテイラレルノモ イマノウチダ!!」
カッ!
ドゴオオオオオオオオオンッ!!!!
魔族がヤマトに向けて、何の予備動作もなく”全てを消し飛ばす砲撃”を放つ」
その進行方向上にあるすべての物が消し飛ばされる。
ドドドドドドドドドドドド!!!!
その砲撃が消えぬうちに、その閃光の中から激しい炸裂音が響く。
「バカノヒトツオボエノヨウニ オナジワザヲ ツカイオッテ!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
これはヤマトが鉛の指弾に炸裂の魔法を乗せたものを連射しているもので、彼の得意技であり必殺技である。
凄まじく魔力のパフォーマンスが良く、速射出来て金銭的にも比較的低コスト。
しかも大抵の防御魔法はこれで破れるほどのピンポイント火力が出るため、ヤマトは殆どの戦闘をこれだけでこなしている。
他の上級冒険者の間でも、絶賛流行中だ。
ドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
「…………」
ドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
「…………クッ!!」
魔族が押されている。
ヤマトは指弾を上手く散らばらせ、時に一点に集中し、魔族をその対応に釘づけにしている。
魔族に範囲防御と点の防御の制御を常に強いることで、魔力と精神の両面から削り続けるのだ。
「『”全てを消し飛ばす砲撃”』!!」
再び魔族の大砲がヤマトに向かって炸裂する。
しかしヤマトはそれを当然のようにかわすと、待ってましたとばかりに指弾を叩き込む。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
「クッ!? コレハ タマラン!!」
魔族はふわりと宙に浮くと、大きく旋回してこちらに背を向ける。
それにより、魔族越しにヤマトの射線が俺達に向くこととなる。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
ガキンッ!! ガガンッ!! ガガガインッ!!
ちょっとヤマトさん?!
魔族はハエのように空中を素早く舞い、流れ弾がこちらに向かって容赦なく飛んでくる。
しかしヤマトはそれを止めようとはしない。
キンッ!! ガキンッ!! ガインッ!!
あっ。
これヤバイ!
受けてみて初めて分かるその凄まじい衝撃。
ある程度着弾地点を予測してそこに魔力を集中しなければ、素の防御壁だけでは全く強度が足りない。
かなり頑張っているつもりだが、みるみる魔力が削らて行くのを感じる。
しかし、ここで弱音を上げると速攻で魔族の標的となるため、俺はいたって涼しい顔を装いながらそれを必死で防ぎ続ける。
「ナンダト!? マサカ サルゴトキガ イマノワレト タメハルホドノ マリョクヲ モッテイルトデモ イウノカ!?」
それは俺とヤマトのどっちに対して言っているのか。
とにかく俺も魔族も、必死でそれに耐えるほかない状況だ。
後ろの様子も気がかりだが、今ここで目を離す余裕は一切ない。
ドドドドドッ!!
……。
不意にその指弾の応酬が止む。
「!? ハハハハハハ!! ツイニ タマギレカ ヤマトォ!! ゴリオシデ ドウニカナルト オモッタカァ?」
((伏せろベイエル))
ドギュッ!! ゴバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!
熱線と轟音が俺の頭上を通り過ぎていく。
シールド越しにでも体の中から発火しそうなくらいの、出鱈目な熱量だ。
眩い輝きと耳鳴りの中で、俺は一瞬、死を覚悟した。
…………。
恐らく一分もそうしていなかったと思う。
俺は恐る恐る、目を開けた。
酷い耳鳴りの中、くすんだ緑色の雑草が目に入って来る。
俺はそっと肘を地面について上半身を持ち上げる。
丁度俺のシールドを境に、チリチリと黒くなった草が燻っていた。
周囲に危険が無い事を確認すると、俺はゆっくりと立ち上がる。
未だに続く耳鳴りと、急激に魔力を失った事による猛烈な吐き気と眩暈に耐えながら、改めて周囲を見渡した。
ヤマトは先ほどと同じ場所にそのまま立っている。
他のやつらも一応全員無事の様だ。
頭を抱えて地に伏せているもの、ポカーンと口を開けて虚空を見上げる者、そして腰を抜かしたのかその場にへたり込む者と様々だった。
「ベイエルさん!! ご無事ですか!?」
それはアキの声だ。
アキは後ろで結界を維持しながら俺を見ている。
「ああ……大丈げぼぁっ!?」
俺が声を発した瞬間、胃から何かがせり上がってきて、口から噴出した。
「ベイエルさん!?」
よろよろと膝をつき、口内がすっぱいもので満たされる。
最悪だ。
「おいおい今度はお前かよ……ああ、アキはもう大丈夫だぞ」
そう言いながら、ヤマトがこちらに近づいて来る。
「ぺっぺっ! お前やっぱりわざとやってるだろ……」
もうこの男、人にゲロを吐かせて楽しんているようにしか思えない。
「そんな魔力が空っぽになるぐらい気張らなくても大丈夫だったのに」
酷な事を言いながらこちらに歩いて来るヤマトは、途中で何か黒いものを浮遊魔法で拾い上げた。
「ヤマト! その魔族はもう死んでぐべぇえっ!?」
オリーがそう叫んで、ヤマトの元に駆け寄ろうとした瞬間、地面と激しいキスを交わす。
「まだ生きてますよね? それ」
結界魔法を解いたアキが、ヤマトの元へ駆け寄って行く。
俺ももう一度ゆっくり立ち上がると、自分の吐瀉物を跨いでそれに続いた。
俺達が彼の前まで来ると、ヤマトはそれを地面にドサリと落とした。
皮膚がほとんど焦げてしまっているが、それは先ほどの魔族で間違いないように思う。
続いてヤマトが無言でうつ伏せになったそれを仰向けにひっくり返す。
体毛は焼けて完全に失われてしまっており、顔にはかろうじてそのパーツであったものが確認できた。
胸が上下に動いている事で、その魔族がまだ生きている事が分かる。
ヤマトはその傍らにウンコ座りすると、魔族に対して『回復魔法術式』を施した。
「えっ!? 一体何を!?」
恐る恐るその様子を見に来たグラーベが、その行為を見て驚く。
気付くと、他の連中もちらほらとこちらへ近づいて、それを眺めていた。
「流石にまだ死んでもらったら困るからな。循環器系だけは回復させておく」
「……馬鹿な」
カサカサの声で魔族が声を発した。
それを聞いた周囲の何人かが、怯えるように一歩後退した。
「あれは……あれは”全てを消し飛ばす砲撃”……」
「ただの”ブレイズダッシャー”だバカタレ。勝手にそれっぽい話に持って行こうとするな」
あそこまでの高出力になると、もはや”ファイヤーボール”だろうが、その最上位の”フレイムキャノン”だろうが全く見分けがつかない。
「あれが……ブレイズダッシャーだと……?」
レンブラントがよろよろとこちらへ歩いて来て、信じられないと言ったように呟いた。
「一度”狂化”をした魔族は、数カ月はまともに動けん。しかもこいつはもう”魔力回路”が焼き切れてるから二度とロクな魔法は使えないだろう」
悲しいかな、魔族は生命維持の一部を魔力で担っているため、こうなってしまった魔族は急激に衰えていき、遠くないうちに死んでしまうと思われる。
「よもや死に切れないとは……魔王様は我を生かして何を期待しておられるのだ……」
独り言のようにボソボソと何かを口にする魔族に対して、
「死にきれない? 俺が生かしたんだよ。お前が本当に上級魔族なら、魔界の外で狂化して負けたのに”抹消機構”が発動しない分けないだろ」
ヤマトが残酷な現実を魔族に突き付ける。
色々な意味でとんでもない男だ。
「はは……はははは……そうか、其のような事が出来る奴に、我如きが少しでも何とか出来ると思ったのが完全に奢りであったわ……」
意外と喋るなと思っていたが、やがて魔族ゆっくりと目を閉じて、静かになった。




