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第6話 S級冒険者

「へー! お二人は普段、冒険者の試験官もやってるんっスね!」


 先ほどの緊張はどこへやら……。


 目的地へ向かう林道を進む中、うちのパーティーの”斥候(スカウト)”の女性”パァス”が楽しそうに談笑している。

 彼女の赤茶色の瞳は勇者ヤマトへと向けられ、かつてないほどキラキラと輝いていた。


「そうなんだよ。今マジで人手不足で、今日も本当は俺じゃなくて別の人間が担当する予定だったんだけど、色々あって代打を頼まれたんだ」


 ヤマトさんも笑顔でパァスと会話をしている。


「いやいや、マジでラッキーっすよ! 普通やったら”S級の冒険者”、ましてやめっちゃ有名人なお二人なんて! ね? ”ブラシュ”?」


 ぼーっとしていたオレに、パァスが急に話を振って来る。


「えっ!? あ、ああ。そうだな……」


 まだ緊張の抜けないオレは歯切れが悪い返事を返してしまった。

 そんなオレを見かねたのか――。


 バシッ!


「うっ……」


 背中に衝撃が走る。


「ガハハハハハ! いつまで緊張してるんだよボウズ!」


 もう一人の試験官が、笑いながらオレの背中を叩いた。


 名前は、”フォルカー・ボッシュ”。


 数少ないS級冒険者の一人で、たしか”魔動車”の製造で有名な人だったはずだ。


「まあ、俺らが担当すると最初はみんなこんな感じだから、ゆっくり慣れればいいよ」


 フレンドリーに話すこの人は、かの最強で最狂と名高い勇者ヤマトだ。

 こんな二人に囲まれて、緊張するなと言う方が不可能だろ……。


「ブラシュはいつもは一番しゃべるのに、情けないでー」


 パァスはそう言うが、それは嘘だ。

 なぜなら、いつも一番ベラベラしゃべってるのはお前だ、パァス!


 何か調子が狂うな―と思っていると、


「ところで……」


 ヤマトさんはそう切り出して、うちのパーティーの”魔法使い(メイジ)”である”パレッタ”の方に目をやる。


「キミのそのローブって、”帝都魔術士学院”の物だよね?」


 そう言ったヤマトさんにフォルカーさんが、


「正確には”上級魔法術()学院”だな」


 ヤマトさんの発言をフォルカーさんが訂正する。


「細かいなあ。いい加減統一しないのかねえ? 魔法協会も”魔術師(マジックユーザー)”とか”魔術士(マジシャン)”とかでややこしいんだけど……」


 確か帝都では魔法使いの事を魔術師と呼ぶが、聖王都やその他では魔術士と呼ぶらしい。

 実際、ややこしいからなのか、大体みんな”魔法使い(メイジ)”って言っている。


「帝都はやたらと古い慣習に拘りますからね。帝都も聖王都も、現代魔法使いのとしてのルーツは同じはずなんですけど……」


 パレッタはそう話しているが、学の無いオレは冒険者試験に出ないその辺の範囲の知識は無い。


「ヤマトさん! パレッタはすごいんっスよ! パレッタは”第一学院”の首席やったんスから!」


 今日のパァスはいつにもましてテンションが高い。


「おっ?」


 パァスのその言葉に、フォルカーさんも少し驚いたような様子でパレッタの方を見る。


「ちょっとパァス! あんまりそう言うこと言わないで!」


 パレッタは恥ずかしそうにパァスを(たしな)める。


「第一学院って言やあ、卒業後は研究職か宮廷かって言うエリートコースじゃねえか。そこの首席って嬢ちゃん、なんでまた冒険者なんかになろうと思ったんだ?」


 フォルカーさんのそれは、もっともな疑問だと思う。


「いえ、それは……その……」


 パレッタはそう口にすると、渋い顔をして亜麻色のボブヘアーをいじる。


「いや、答えたくなけりゃ無理に答える必要はねえよ? 言いたくねえことだってあるだろう?」


「いえ、そう言うことではなく、その……だって、()()帝国魔導師ですよ?」


 それを聞いたフォルカーさんは、一瞬きょとんとした顔になって、


「ガハハハハハ!! なんだなんだ、帝都の魔法使いがそんなこと言うなんてな!!」


 そう大きな声で笑った。


()()()()。帝国に愛想をつかした人間がこっち側に流れて来るのなんて、今に始まったことじゃないだろ?」


「ガハハハハ! ちげえよヤマト! 安全な魔導師を蹴って、あえて冒険者を選んでる当たりなかなか男気のある嬢ちゃんだなって思っただけよ!」


 実は、パレッタが宮廷魔導師を嫌いな理由には、もう一つ決定的な物があるのだが、彼女がそれを語るかは分からない。


「そうなんです! だから……その! こうして宮廷魔導士を辞めて冒険者をやっている”フォルカー先生”に合えたのは運命だと思っているんです!!」


 いつもは落ち着いたパレッタが、今日はパァスのようなハイテンションで話をしていることに、オレは少し驚いている。


「ガハハハハ!! 俺はそんなんじゃねえよ! ただ隠居するのも性に合わねえから、暇つぶしで冒険者をやってるだけだよ!」


 S級冒険者と言う称号は普通の冒険者ランクではなく、何か偉大な事を成し遂げた人間が冒険者をする際にもらえる名誉称号だと聞いたことがある。


「フォルカーさんって、すごい人なんですよね?」


 彼女らの会話を聞いていて、俺は何気なくその言葉を口にしたつもりだった。


「……えっ!? 何?」


 パーティーメンバーの全員が一斉にオレを見る。


「ブラシュ、あんた失礼やで?」


 え? え?


 俺がぽかーんとしていると、


「フォルカー・ボッシュって言えば、”魔導工学”って分野を百年は進めたって言われるほどの大天才だぞ?? 帝国ですら一般常識だ」


 一人で黙々と歩いていた”番人(センチネル)”の”クェント”にまでそう言われる。


「いやいやいや! 知ってんで! あれやろ!? 魔動車作った人やろ?」


 焦りすぎて帝国訛りが出てしまった。


「ガハハハハハ!! 確かにそれが一般的な認識だろうな!!」


「す、すみません……」


 思わず謝ってしまったが、「謝るこたあねえよ!」と、再び背中を叩かれた。

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