第57話 転生者
・登場人物・
ヤマト……主人公。勇者のはずだが、禄でもない二つ名を沢山持っている。
ベイエル……A級冒険者。チャラ男っぽい雰囲気だが、かなりの実力者。
オリー……転生者の黒人男。自分が認められないのは世間が悪いと思っている。
レンブラント……転生者。D級パーティーのリーダー。乱暴者。
テレピム……D級パーティーの男スカウト。若干の三下感を感じる。
ペトリー……D級パーティーの女魔法使い。グラマラスなIカップ。
シッカ……D級パーティーの女剣士。細マッチョなEカップ。
トンバオ……B級パーティーの男レンジャー。リーダーだが地味なのが悩み。既婚。
グラーベ……B級パーティーの男修道僧。治癒魔法のスペシャリスト。
モンティーヌ……B級バーティーの女魔導士。術士教官も務める。×イチ。
サルッサ……B級パーティーの女センチネル。元王国軍の兵士。既婚。
アキ……男聖職者で転生者。男喰いとか言われるが、本人にその気はない。
転生者。
神がもたらした対魔族の救世主。
およそ五百年前に現れた”大魔王”は、配下の魔王を従えて世界の半分近くを掌握した。
絶望に打ちひしがれる人類に、神は一人の女性を異世界から召喚する。
当時、様々な国が魔族に屈服する中、ギリギリ踏みとどまっていた”旧帝国”は、その女性の力を借りて一気に形成を逆転させた。
その後、いい感じの所まで盛り返した所で、彼女は新たに四人の人間をこの世に召喚すると、その本人は天界へと導かれ、初代勇者と称えられる事となった。
そこから五百年間、多くの異世界人がこの世に召喚され、数々の勇者が誕生した。
異世界人は子孫も含めると、既にその人数を把握できないところまで増えているらしく、世界が平和になるにつれてそれが火種ともなっている。
二年前の戦争で一人の魔王が討たれた事で、魔王は残すところ二人となり、これらが倒されるのも時間の問題とされている。
そうなって来ると、今まで魔族と戦う事を運命づけられた異世界人や勇者はどうなるのか?
現世へ帰るだとか天に昇るだとかいろいろな説があるが、もしこれらが義務から解放されてこの世界”クリエイタ”に定住するのであれば、その力と技術は先住民からしたら恐怖である。
特にそれを危惧しているのが、現在クリエイタの覇権を握っている”カンバス帝国”である。
現に今、帝国では魔族と融和の道を探しているという噂まであり、何とかして異世界人を自分たちのコントロール下に置いておきたいという政治的意思を感じる。
そしてここに来ての”性悪異世界人”の急増と、そのパワーのインフレである。
元来、異世界人は人格者が多く、また工業や錬金術的な技能を持つものが少ないとされて来た。
これは、この世界の秩序とバランスを守るための天界側の配慮だとされていたのだが、ここに来てそれから逸れつつあるのだ。
ヤマトの事を悪く言いたくはないが、彼含む”現・勇者達”の力はこの世界としては明らかにオーバースペックだ。
そして今回のレンブラントや、アメリア、オリーと言ったような能力だけの問題児が量産されている事で、異世界人に友好的とされる聖王国からさえも不満が出ている始末である。
このクリエイタで生まれ育った俺としても、そこに複雑な感情を抱えずにはいられないのだ。
「げほっ!! がほっ!! げほげほげほっ!!」
先ほど派手に失禁した魔族が、大きく咳込んでいる。
「おい、えっと何だっけ……ルジューと言ったか? 言葉は分かるか?」
ヤマトが女魔族に話しかける。
「ぐぐ……頭が、頭が破裂する……」
涙とよだれでぐちゃぐちゃになった顔を歪ませ、魔族が呻く。
「全く、お前らこれやると毎回大量に小便漏らすけど、魔族ってトイレとかどうしてるんだ?」
この魔族の尿の毒々しい色と形容し難い臭いはコイツ等が摂取する食物に由来するらしい。
しかも、本当かどうか知らないが、魔族は体液に瘴気や独特の成分を含むため、人間の領土では排泄好意を行わないとかなんとか。
まあ、人間も魔界に行くときは汚物入れを持たされるけどね。
「ぐっ……何っ!? 魔王様の側近たる我がそんな!? こ、これは汗だ!! 不浄な猿どもと違って、我等は用便など足さないのだ!!」
なんか一昔前の貴族女みたいなことを言っている。
そう言って叫んだことが頭痛に響いたのか、魔族がまた呻き声を上げている。
「嫌なんだよ……最近俺の事をおもらしフェチとかゲロフェチとか言う輩が出て来て、それならまだ凌辱のヤマトの方がいいくらいだわ」
「ぶふっ!!」
思わず吹き出してしまった俺に対し、ヤマトが呆れ顔を向ける。
「ベイエル……絶対お前もそれに加担してるだろ?」
さーて、何の事ですかね?
「我が……此の我が猿共の前でお漏らしなどっ! うっうぐ……ひっく……」
それがそんなにショックなのか、魔族が声を殺してすすり泣き始めるが、コイツ等の生態は本当に訳がわかなない。
「じゃあさっきの質問の回答を貰おうか、粛清で追放になった奴等と、その中に貴族が居るかのやつだ」
このヤマトの質問は、魔族から情報を得る目的があるのはそうなのだが、もう一つ重要な意味を持っている。
それは、現在どの程度魔王の加護と言う名の呪縛が有効なのかを計る事であり、回答によってその範囲を見極めているらしい。
「うううぅぅううう……う゛ーーうふぅぅぅううう」
いや泣きすぎだろこの魔族……。
しかし、これで心は完全に折れたんじゃないだろうか。
「もう言葉になってなくてもいいから回答を声に出してくれ。このまま泣いたままなら時間稼ぎって事で処分するぞ?」
号泣している魔族に対し、ヤマトが魔族の角をつかんで頭をグリグリ回している。
それに対して、D級パーティーは全員ドン引きしている様子だった。
やっぱり魔族との関係が薄いと、どうしても奴等の事を同じ人として見てしまうんだな。
俺にそんな感情は一切ないので、これが逆に不思議なのである。
「ううぅう……泣いてなど、泣いてなどいなぎゃあああああああああああ!!!!」
ヤマトの容赦ない『”ペイン”』の魔法が魔族に襲い掛かる。
「ああ……あああ……ぐっ!? うぐぐぐ……」
魔族がまた白目を剥いて呻き始める。
「やっぱり”呪縛”がかなり入念になってるな。一応対策はされてるっぽいわ」
ヤマトが何か一人で納得しているが、彼が言うならそうなのだろう。
そう思っていると、急にヤマトがこちらを向いて、
「お前ら、ここからは集中するから、できるだけ静かにしておいてくれ。魔法も使うなよ? 絶対だぞ? 絶対だからな?」
と言うのだが、この絶対だぞ? と言う執拗な念押しを聞くと、なぜだか逆にやりたくなるという不思議な気持ちになる。
魔族は変わらず痙攣しながら苦しんで呻いている。
とりあえず俺に手伝える事は無いので、何かあった時にすぐに防御魔法を展開できるように構えておく。
しばらく風の音と魔族の声だけが辺りを包む。
周囲の動物は先ほどの戦闘による衝撃で逃げてしまったのか、他の物音は驚くほど聞こえない。
今度のヤマトのそれは、かなり深い所まで干渉しているようで、既に前回の二倍ほどの時間が経っている。
俺が今警戒すべきは、強力な魔物が戦闘で放たれた強大な魔力に反応して寄って来るのと魔族の増援である。
そして、ヤマトの魔王の加護除去が失敗した時に――。
「ぶあああああくしょいえいえいえい!!!!」
突然俺の背後で聞こえた声に、驚いて反射的にそちらを振り向く。
オリーの頭を覆っていた薬草が、ブワっと舞い散るのが目に入っる。
同時に、ヤマトの傍らで強大な魔力が暴発するのを感じ取った。
振り返るとヤマトは魔族から手を離し、身を引いていた。
そこに居た魔族は、物凄い魔力をまき散らしながら紫色のエフェクトを纏っている。
「ん? あれ、もしかして俺、またなんかやっちゃいました?」
間抜けな声が後ろから耳に入っ来た。
そして、アキが冷ややかな声でこう唱えた。
「神よ、我らを清め給え……『”祝福”』」




