第56話 抹消機構
・登場人物・
ヤマト……主人公。勇者のはずだが、禄でもない二つ名を沢山持っている。
ベイエル……A級冒険者。チャラ男っぽい雰囲気だが、かなりの実力者。
オリー……転生者の黒人男。自分が認められないのは世間が悪いと思っている。
レンブラント……転生者。D級パーティーのリーダー。乱暴者。
テレピム……D級パーティーの男スカウト。若干の三下感を感じる。
ペトリー……D級パーティーの女魔法使い。グラマラスなIカップ。
シッカ……D級パーティーの女剣士。細マッチョなEカップ。
トンバオ……B級パーティーの男レンジャー。リーダーだが地味なのが悩み。既婚。
グラーベ……B級パーティーの男修道僧。治癒魔法のスペシャリスト。
モンティーヌ……B級バーティーの女魔導士。術士教官も務める。×イチ。
サルッサ……B級パーティーの女センチネル。元王国軍の兵士。既婚。
アキ……男聖職者で転生者。男喰いとか言われるが、本人にその気はない。
「あんぎゃああああああああああああああ!!!!」
黒人の男が絶叫して顔面から地面に倒れる。
同時に、バックパックの中身が吹き出し、その坊主頭に覆いかぶさっている。
「FFしてる……」
聖職者の女が呆れ気味に呟く。
この発言で確定したが、この女は転生者だろう。
魔族も、その光景を見て、マジかコイツみたいな顔をしている。
「おい貴様……貴様等は同士討ちは御法度では無いのか?」
「俺は言ってきかない奴には容赦なく力で黙らせるぞ?」
ヤマトはどこまで本気で言っているのか。
もしや、精神攻撃を邪魔されたリカバリーのためにやってるのか?
「横槍が入ったな、質問の続きだ。お前の役職は何だ?」
ヤマトは魔族に向き直り、何事も無かったように質問を続ける。
この質問をするのは二度目だ。
「だから言って居るだろう? 我は魔王様の加護がああああああああぁああああ!!!!」
黒人の男と同じように、魔族の体が感電したようにビクビクと小刻みに震える。
「一体っ!? 一体どうなっているっ!? 此処まで強力な呪縛を行使したら我諸共、貴様の魂もおおおおおおおおおおお!!!!」
ベイエルの説明だと、魔族の魂にアクセスしようとすると”抹消機構”と言うものが働き、双方の魂を破壊するようになっていると言っていた。
ヤマトにはそれを搔い潜って、魔族の体や精神を乗っ取るような手段があるっぽいのだ。
「いいから質問に答えろ。嘘は吐くなよ? お前の体のコントロールは完全にのっとってるから、俺には分かるからな?」
「我は! 我は魔王様の性玩具だ! 魔王様にいぃいいいいいいいい!!!!」
「そんな事を聞いているんじゃない。答えないんなら頭の中をこじ開けて直接覗き込んでやろうか?」
それは精神的な意味で言っているのか物理的な意味で言っているか。
と言うか、北の魔王は女だったはずだが。
「斥候だ! 我は斥候をしている!! ほら言ったぞ! これで満足だろう!?」
魔族は必死でそれを叫んでいるが、俺様の知ってる役職とは違う気がする。
俺様は魔族語があまり得意ではないので、聞き取りが間違っているのかもしれない。
「ハァ、ハァ……い……生きているだと!?」
魔族は口の端からよだれを垂らしながら、息を切らしてそう言った。
「よし、ちゃんと表層は解除されてるみたいだな」
ヤマトは満足そうに笑みを浮かべている。
「今分かっている魔族社会の仕組みは、上級魔族の殆どは名目上、斥候や暗殺の様な戦闘員としてとりあえず任命されていて、共同で何かをする際に、一部の上級役人が適宜仕事を割り振るといった感じだそうですよ。役職というか役割ですよね」
聖職者の女が、聞いてもいないのにベラベラと解説してくれる。
「という事で、次の質問行くぞ? また繰り返しになるが、お前は本当に俺を倒すという目的だけで、魔界を出てきたのか?」
ヤマトの言う通り、文字通りの斥候というのであれば、この魔族は何らかの偵察に来ている可能性がある。
「……何を持って目的と言って居るのか分からんが、最初に言った通り、貴様を標的に下界まで来たのは間違いない」
その答えに対して、ヤマトは魔族の顔をじっと見つめるに留まっている。
「では、その命令を下したのは誰だ?」
これも聞き方を変えているだけで、前にヤマトがした質問の繰り返しだ。
「其れに対する回答は明確には言い辛い。だが、最終的には我の判断で此処に来たものである」
ヤマトの目は魔族を捕えたままだが、何か危害を加えようとする様子は無い。
「良く分からんから具体的に頼む。なぜはっきりとは言えないんだ?」
今度はそれを少し深堀するような質問をする。
「其れは……言う成れば貴様は今、我々全体の敵で有るからだ。此処まで言えば分かるのでは無いか?」
「じゃあ聞き方を変えよう。俺を殺すような命令が、お前の上から出ているのか? ”はい”か”いいえ”で答えろ」
淡々とした口調のヤマトだが、最後の部分は少し語気が強めだった。
そしてその質問にしばらく悩んだ素振りをしていた魔族だが、
「……ぐっ!? うぐがあぁああ!? うぅぐ……!!」
口の端に泡をためながら呻き始める。
今度はヤバそうな方のやつだった。
「やっぱり”お上”に対しての事は無理か。しかし、意外と素直に話すもんだな。実は上司が嫌いだったりするのかな?」
多分、これはヤマトが魔族に対して何かやったというよりは、”抹消機構”だか何だかによるものなのだろう。
その苦しみ方は壮絶で、魔族の顔には血管が浮いて、垂れた鼻水とよだれはヤマトの腕にまで流れている。
「じゃあ次の質問だ。例の砦の粛清で、追放になった奴はどのくらいいる? その中に貴族級のやつはいるのか?」
まだ苦痛の表情をしている魔族に対し、容赦なくヤマトが次の質問をする。
「ぐぎぎぎ……ま、待て……少し時間を……ぐがぁっ!? あがっ!! あぐがあぁあ!!?」
魔族が喘ぐと同時に、ビクンビクンと体が大きく跳ねる。
仮にこれが漫画か映画のワンシーンであるなら、間違いなくこの後、魔族の頭が破裂するだろう。
そんな雰囲気だった。
「あがっあぁ!! ぐああ!! あ”あ”あ”あ”!!!!」
首を支点として、魔族の体がありえないほど跳ね回る。
そのたびに魔族の下半身が何らかの飛沫を周囲にまき散らしている。
「がっ!? ……ああ」
魔族の体がひと際大きく跳ねた後、一気に力が抜けたように、だらりと体が垂れ下がる。
その瞬間、堰を切ったように魔族の股間から紫がかった半透明の液体が吹き出し、じょぼじょぼと地面に落ちていく。
その光景に、ドン引きしている自分がいることを、今更ながら自覚した。
「四層目突破」
ヤマトの声が、静かに耳に入って来た。




