第55話 魔王の加護
・登場人物・
ヤマト……主人公。勇者のはずだが、禄でもない二つ名を沢山持っている。
ベイエル……A級冒険者。チャラ男っぽい雰囲気だが、かなりの実力者。
オリー……転生者の黒人男。自分が認められないのは世間が悪いと思っている。
レンブラント……転生者。D級パーティーのリーダー。乱暴者。
テレピム……D級パーティーの男スカウト。若干の三下感を感じる。
ペトリー……D級パーティーの女魔法使い。グラマラスなIカップ。
シッカ……D級パーティーの女剣士。細マッチョなEカップ。
トンバオ……B級パーティーの男レンジャー。リーダーだが地味なのが悩み。既婚。
グラーベ……B級パーティーの男修道僧。治癒魔法のスペシャリスト。
モンティーヌ……B級バーティーの女魔導士。術士教官も務める。×イチ。
サルッサ……B級パーティーの女センチネル。元王国軍の兵士。既婚。
アキ……男聖職者で転生者。男喰いとか言われるが、本人にその気はない。
「少しは頭が冷えたか?」
ベイエルが俺様の隣に来るなりそんなことを言ってくる。
「……チッ」
何か言い返してやりたかったが、何を言っても負け惜しみでしかない事に気づき、俺様は舌打ちをするしか出来なかった。
「もしかして、初回講習中でした?」
聖職者の女もそう言いながらこちらに駆け寄って来る。
どうもコイツ等の間では、今回のクエストは初回講習と言われているらしい。
初めて来た奴全員にこんな事をやっているのだとしたら、ここの冒険者はどんだけ暇なんだ?
「本当に助かりました。まさか魔貴族が出てくるとは……出会ったのがベイエルさん達でなければ、その人たちを巻き込んで全滅していたかもしれません」
曲がりなりにも魔族退治のスペシャリストがそんなことを言って情けなくないのだろうか。
まったく、役立たずの聖職者もいたものだ。
だがしかし、この女の顔立ちは東洋人のように見えるが、それにしては色白で妙に整た顔をしている。
聖王国にはこういう顔の民族がいるのだろうか?
ちょっと俺様好みだが身長が低すぎるし、胸がまな板すぎるな。
「コイツは転生者で、名前はレンブラントだ。帝国に生まれたらしい」
ベイエルが勝手に俺様の紹介をする。
「なるほど、もしかして帝国から直でここまで来たんですか? 妙に戦い慣れしていない感じでしたが」
「それがコイツ等のパーティー、まさかのD級なんだわ」
「えっ!?」
女が声を出して驚いたのが、俺様をイラ立たせる。
「おい。貴様らはやたら俺様達をバカにしてくれているが、貴様だってそんなこと言えた義理か? 聖職者の癖に逃げ出した上、地面で叫び声を上げながらのたうち回っていただろうが?」
痛い所を付かれた聖職者の女が、バツの悪そうな顔をする。
「それはそうなので、返す言葉もないですね……」
そう言って頭を掻く。
何だよ、少しは言い返せよ。
まるで俺様が悪者みたいじゃないか!
「ハッ! で、あの勇者は何をやっているんだ?」
俺様は先ほどから同じ体勢で魔族の首根っこを掴んでいるヤマトの方を見る。
「はははは! あれはな? 魔王の加護を――」
「おいオリー!! 動くなと言ったはずだ!! 何回おんなじことを言わせるんだボケナス!!」
意気揚々と近づいてきた黒人に対し、ものすごい罵声を浴びせるヤマト。
コイツにだけ妙に当たりが強いが、ヤマトはレイシストなのだろうか?
「まあ黙って見てろって、解説してやるから」
ベイエルがそう言って、またあのニヤけ面を見せる。
これが妙に癇に障るのだが、いちいち大人はそんなことで焚いてられないので、黙って置いてやる。
「よし、まずは一層目」
ヤマトが今度は落ち着いた声でそう言った。
「がっ!? ぐぎぎ……ぎぎっ」
魔族が白目を剥いてビクビクと痙攣する。
マジで一体何をやっているんだ?
「ががっ!!」
魔族の体がひと際大きく跳ねる。
「よし、次は二層目だ」
またヤマトがそう一言呟く。
「おい、あれは何をやってるんだ? 早く教えろ?」
俺はおあずけされるのが嫌いなのだ。
もったいぶらないで、とっとと教えて欲しい。
「あれはな、”魔王の加護”の突破を試みてるんだよ」
魔王の加護の突破?
ますます意味が分からんぞ?
「ぐがぁあっ!!」
「よし、三層目」
先ほどと同様のやり取りだが、ヤマトが謎の層を進行している。
「魔王の加護はな、”魂”の周りを何層にもコーティングして様々な効果を発揮するようにしているらしい」
それは魂に対してバフやデバフを重ね掛けしているという事だろうか?
俺は帝国で最低限の教育以外、受けなかったので、その辺の知識はあまり無いのだ。
「本来であれば、そのコーティングに触れようとしただけで”抹消機構”が発動して、接触した方とされた方、両名の魂を破壊するようになってるらしいんだが、ヤマトは相手の魂に干渉するのがこの世で二番目に得意だって言われてんだ」
俺様も一番目には心当たりがあるが、ヤマトが二番目だと言うのは本当か?
確かに、なんか二人ともかなり雰囲気は似ているが、魂への干渉はかなり繊細でインテリな学問と誰かが言っていた。
あの鬼畜のヤマトに、そんな頭脳派のイメージは全くない。
「ここまで言えばわかるよな? 今ヤマトはその魂の層を一枚一枚破壊して、相手の精神にアクセスしようとしている」
「このコーティングは、一枚一枚に別の効果があるんだが、共通して精神干渉を遮断する効果もあるんだ。でも呪いを用いて物理的に相手の精神を揺さぶってやると、それが少し綻んで剝がしやすくなる」
ヤマトがベイエルの言った事に対して、自ら補足する。
「まあ、何でそうなるかは完全に判明しているわけでは無いんだけど、俺はトライ&エラーで少しずつコツを掴んで行っているんだわ」
そう話すヤマトの口調は飄々としていて、とても難しいことをやっている雰囲気ではない。
「”姉御”は理屈まで解明したいって考えみたいだけどな、俺はそこまで時間をかけてられん。さて、四層目だ。こっからは難易度が上がるから、一旦思いっきり揺さぶりをかけるぞ」
わざわざ解説しながらご苦労な事だ。
しかし、揺さぶりをかけるとは一体そうするのだろうか?
「ふあぁ!? はあ、はあ、はぁ……貴様! 我に何をやりやがった!!」
意識を取り戻したらしい魔族が、目を覚ますなり声を荒げる。
「質問の続きだ。お前、役職は何だ?」
役職?
魔族は力が全ての実力社会だと習った。
階級こそ存在するが、魔王の独裁で組織としての機能はほとんど無いのではないので、役職など存在しないのではないか?
でも、よく考えればそれはおかしいのか?
そんなので魔王以外との主従関係が維持できるわけが無いし、そもそもさっき、大臣がどうとか言っていたよな?
まさか、帝国で習った事が間違いだらけだとでもいうのだろうか。
「貴様何を言う! そんな事言える訳が無かろう! 我等には魔王様の加護が……あれ? 加護が??」
何かに気づいたのか、魔族が何かを言いかけて目を見開く。
「何だ、お前は自分で分かるタイプなのか。この辺の個体差も何が影響しているのかよくわららないんだよな」
「貴様何をやった!? 抑々おかしいのだ! 我に精神干渉は出来ぬ筈なのに、此の全身の違和感はなんだ? 狂化すら儘ならぬのはどういった理屈だ!?」
取り乱す魔族。
それに対し、ヤマトはいたって冷静に答える。
「お前ら魔族は魔法を過信しすぎだ。精神なんて外部からの刺激と化学反応で操れるんだ。現にお前は俺の一挙手一投足に心を乱されているだろ? 魔法による精神干渉の方が俺からしたらイレギュラーなんだよ」
事も無げに言っているが、俺様にはもう何の話をしているのか理解できない。
魔法の存在する世界で言うのもおかしいが、呪いとか言って、もはやそれはオカルトの類なのではないか?
「でもヤマト、あんたいつも魔法サイキョー、物理で殴るなんて前時代の戦い方っていつも――」
「だ! ま! れ! ハ! ゲ!」
ヤマトがまた唐突に声を荒げる。
なるほど、確かにこの黒人は空気が読めないな。




