第50話 魔貴族1
・登場人物・
ヤマト……主人公。勇者のはずだが、禄でもない二つ名を沢山持っている。
ベイエル……冒険者。チャラ男っぽい雰囲気。
オリー……転生者の黒人男。本名はメープル・オリヴァー・ホートン。
レンブラント……転生者。D級パーティーのリーダー。乱暴者。
テレピム……D級パーティーの男スカウト。若干の三下感を感じる。
ペトリー……D級パーティーの女魔法使い。グラマラスなIカップ。
シッカ……D級パーティーの女剣士。細マッチョなEカップ。
丘の向こうで大きな魔力が弾けるのを感じた。
今度はオレにもはっきりと、何か不測の事態が起きたことを受け取ることが出来た。
しかし、レンブラントのパーティーは何が起きているか分かっていないようで、俺達の不穏な空気を感じ取って不安そうにしている。
それはレンブラント本人も同様で、眉こそ怒っているものの、その表情には憂いが見て取れる。
「あの丘の向こうに何かあったか?」
ヤマトがベイエルに低い声で問いかける。
「いや、でも何かの調査クエストが出ていたのがあの辺だった気がする。内容までは覚えていないが」
それに、ベイエルが静かな声でそう答えた。
聞き終えたヤマトが、不意にこちらを振り向く。
「オリー。レンブラント以外を町まで退避させろ。一応ギルドにも魔族が出たかもしれない事を伝えておいてくれ。一応言っておくが、撤退中に目立つことはするなよ?」
「えっ!? 魔族!?」
それに反応したのはオレではなく、スカウトのテレピムだった。
普通の魔族など瞬殺できるヤマトさんがここまで言うとは、事態は想像以上に重いのかもしれない。
ここはオレもとっとと退散するべきだろう。
「オーケーだ。じゃあアンタらはオレと一緒に駆け足で町まで戻るぞ」
オレが彼らに声をかけると、ペトリーが他の二人と顔を見合わせて頷くと、こちらに駆けよって来る。
そしてオレはバックパックを背負うと、後ろを振り返った。
そこでレンブラントの表情が目に入ったのだが、彼の顔は先ほどと異なり、喜びとも緊張ともとれるような表情をしていた。
「ヤマト。レンブラントは置いて行っていいのか?」
オレがヤマトに対してそう言うと、
「フンッ! 腰抜けはとっとと帰りやがれ」
ヤマトではなくレンブラントが隣でオレを嘲笑する。
普通ならこれは死亡フラグであるが、ヤマトが置いて行けと言うのだから素直に従った方がいいだろう。
ぶわっ。
!?
オレは全身の毛が逆立つのを感じた。
ヤマト達の方を反射的に振り返ると、その目線の先の丘の向こうで何かが光るのが目に入った。
ドカーーーーーンッ!!!!
遅れて、大きな爆発音が辺りに響き渡った。
「ひっ!?」
「うわぁ!?」
隣でパーティーメンバーが情けない声を上げる。
「駄目だこれは間に合わん。オリーそいつらを守れ」
ヤマトが静かだが通る声でそう言う。
オレは正直どうしていいか分からないのだが、とりあえず三人にオレの後ろに行くよう促した。
そして次の瞬間、高速でこちらに向かってくるいくつかの反応が、俺の索敵魔法に引っかかった。
それ等はオレの索敵魔法に引っかかったのを感じ取ったのか、急に方向転換を試みようとするが……。
「来るぞ!!」
ヤマトがそう叫んだ瞬間、また丘の向こうがカッと光る。
オレの索敵範囲内で、いくつもの魔法が展開されたのを感じ取った。
「『”シールド”』!!」
ドッ!!
辺り一面が光に飲まれ、物凄い圧力で吹き飛ばされそうになる。
閃光と轟音で一体何が起こっているのか分からない。
それに必死で耐えていると、今度は突然フッと急激にシールドが受ける抵抗が減り、光と音もフェードアウトする。
どうやら凌ぎ切ったらしい様子だが、オレはスタングレネードを食らった時のような目つぶしと耳鳴りで、周囲の状況をすぐに察することができない。
そんな中、オレの足元に何かがゴロゴロと転がって来るのを感じた。
それはオレのシールドで弾かれて、オレの左前方で止まったようだ。
「ぎゃああああああ!!!!」
オレはそれをてっきりレンブラントだと思っていたのだが、そこから発せられる声は彼の物と違っていた。
そして俺はその声を聞いたことがあった。
うっすらと開けた視界に、聖職者の服を来たそれが転がっていた。
「手がああああああ!!!! 手がぁぁあああああ!!!!」
アキだ。
目が慣れてくると、様々な情報が飛び込んで来る。
先ほどまで林だったものは、ヤマトとベイエルの背後を除いてすべてが消し飛んでおり、それは草原も同様で、地面から根こそぎえぐり取られている。
ここまでの規模だと、オレの間一髪で間に合ったと思った防御魔法など、どれだけ効果があったかしれない。
ヤマト達が前で防いでくれていなければ、俺達は今頃消し炭になっているだろう。
オレは背筋に寒いものを感じながら、アキの他に転がっている数人の人影を見る。
「アキ!! グラーベ!! 生きてるか!?」
その中の一人が起き上がると、周囲を見渡しながらそう叫んだ。
「ああ、なんとかな……」
もう一人がゆっくりと起き上がる。
「アキがヤバい!! てかオリー!?」
更にもう一人が起き上がり、オレの顔を見るなり驚いた声を上げる。
オレもその顔を見て、どこのパーティーかが明らかになった。
「モンティーヌとトンバオ!! それにあれはサルッサか!?」
リーダーで男野伏の”トンバオ”と女魔導士の”モンティーヌ”。
そして女番人の”サルッサ”に、男武装修道僧の”グラーベ”の四人で、B級のパーティーだ。
「助かったヤマト! お前らじゃなかったら全滅してた!」
トンバオが立ち上がると、ヤマトの姿を見つけて叫ぶ。
「”魔貴族”が出た! しかも最高位魔族だ!」
続けてサルッサも起き上がるなり、そうヤマトに伝える。
「アキ、起きれるか?」
脇ではグラーベがアキの元に駆け寄り、声をかけている。
「手がッ……手が折れてます……汚染で魔法が使えませんっ!」
アキが痛みを堪えながら呻いている。
彼は魔族の魔法をもろに食らったのか、ズタボロの見るに堪えない姿をしている。
「スマンが強引に再生するぞ。痛いが我慢してくれ」
グラーベはアキに布のようなものを噛ませると、ぐちゃぐちゃになったアキの右腕を掴んで、空いた手をその上にかざす。
「『”治癒法力”』」
彼がそう唱えると、アキの腕が明るく輝くき、
「んぐうううぅぅううううううッ!!!!」
痛みで悶絶するアキのそれがグニグニと蛇のように波打つと、やがて真っ直ぐに伸びて、腕のあるべき形へと落ち着いた。
流石フィナレス市でも有数の回復魔法の使い手である。
見事なお手前だ。
アキはその腕を抱くようにして「ぐおおおお」と言いながらうずくまっている。
「全員無事だな! ヤマト、色々と話したいことがあるが、今はそんな暇は無いようだな」
オレはそのトンバオの言葉を聞いてハッとする。
慌てて後ろを振り向くと、そこには怯えて固まっている三人の姿があった。
オレはホッとすると同時に、その横で尻もちをついた状態で固まっているレンブラントと目が合った。
どうやらそこまで飛ばされてしまったらしい彼は、オレを見た瞬間「チッ」っと舌打ちして、呆けていた表情を隠すように眉間にしわを寄せた。
そしてすぐに立ち上がると、すぐにヤマト達の方へ向かって歩き出した。
「ベイエル、俺が戦うから、お前は守りを頼む」
ヤマトがそう言うのが聞耳に入る。
「それとレンブラントは死にたくなければそれ以上こちらに来るな」
そのヤマトの忠告に、一瞬だけ躊躇したように見えたレブラントだが、どうやら彼は足を止める気は無いようである。
彼のパーティーメンバーは、声が出ないのか諦めているのかは分からないが、黙ってそれを眺めていた。
ドンッ!!
また大きな衝撃波が全体を走り抜ける。
オレれも含めた眼前の人間が驚いて体を強張らせるが、今度のは攻撃では無いようだ。
そして気づくと、木々の間から三体の人影がヤマト達の前方に立ちはだかっているのが見えた。
魔族である。




