第48話 A級冒険者
・登場人物・
ヤマト……主人公。勇者のはずだが、禄でもない二つ名を沢山持っている。
ベイエル……冒険者。チャラ男っぽい雰囲気。
オリー……転生者の黒人男。本名はメープル・オリヴァー・ホートン。
レンブラント……転生者。D級パーティーのリーダー。乱暴者。
テレピム……D級パーティーの男スカウト。若干の三下感を感じる。
ペトリー……D級パーティーの女魔法使い。グラマラスなIカップ。
シッカ……D級パーティーの女剣士。細マッチョなEカップ。
今日は晴れてお散歩日和だ。
ここ最近めっきり雨が降らず、世間では水不足が何だと騒いでいるが、荷物持ちのオレとしては水気に気を使う事が少なくて済む分ありがたい事でもある。
しかし今日の朝は酷い目に合った。
今回の事は全面的に自分が悪いのは自覚しているので、そこは真摯に反省しなければならない。
その点、オレはアメリアとは違うのだ。
ただしかし、あそこまで足蹴にする必要はあるのだろうか?
年上の女性に足蹴にされるのは、ある方面ではご褒美と言うが、実際にやられたら屈辱以外の何ものでもない。
そんなことを考えながら、オレは一番後方でパーティーが進行するのをまったりと眺めていた。
そして草原の奥で、何かが小さく動いているのが目に入る。
「おっ! あれはダイヤウルフの群れじゃないか。魔物にやられてめっきり数が減っていたらしいが、ここ最近生息数が増えて来たらしいぞ」
オレがこう言った知識を披露しても、誰一人聞いちゃいない。
全く、学のない連中はこれだから困る。
こういった些細な事に興味を持つことこそ、知見を広げて自分の能力を伸ばすことに繋がるのだからな。
「ダイヤウルフ?」
少し遅れて、レンブラントが反応する。
おお、粗暴な行いに反して、意外とこういう事に目を向ける心があるのか。
こやつ、意外と侮れんかもしれんな。
レンブラントは遠くに見える狼の群れを確認すると、右手をそちらに向けて伸ばし、構える姿勢を取る。
?? 一体どうしたんだ?
「まてレンブラント。あいつらは魔物じゃ――」
「『”ブレイズダッシャー”』」
ドバァアアアン!!!!
ベイエルの制止の声をかき消して、轟音と共に、狼の群れに向かって火球が飛んで行った。
それは群れの上を掠めて、遠くに見える木々の手前で霧散して消えた。
驚いたダイヤウルフの群れが、遠くの林を目指して駆け出していく。
「ななななんん!!?? 何をしてるんだお前はああああ!!??」
オレは慌ててレンブラントの元に詰め寄り、その右肩を掴む。
「触んなハゲ!」
そしてオレの手は即座に払いのけられる。
コイツ、ちょっと見直したと思ったオレが馬鹿だった。
これは完全に、アメリアと同類だ!
「こりゃとんでもない問題児だな」
ベイエルがやれやれのポーズをしながら俺達の元に歩いて来る。
「しかし、流石転生者だな。物凄い術の発動速度だ」
彼はそう言ってレンブラントの顔を覗き込んだ。
そのベイエルの顔を、レンブラントがすごい形相で睨みつける。
「貴様……一体何をした?」
その表情を反映した声でそう言った男に対し、
「おやおや、なんだそんなことも分からないのか? こりゃやっぱり、新しいおもちゃを手に入れたばかりのガキだな」
ベイエルがニヤけながらレンブラントを煽った。
今のはレンブラントが魔法を発動させる寸前に、ベイエルがそれに魔術で干渉して軌道を逸らしたのだ。
ヤマトもこれをよくやっているので、嫌でもその感覚を覚えてしまう。
「んだとこの野郎!!」
キレたレンブラントがベイエルの胸倉を掴む。
あまりにも煽り耐性が低すぎる。
「やめときなよレンブラント。あんたのあれに反応するなんて、その人とんでもない魔法使いだよ?」
ペトリーがレンブラントを宥めようと声をかけるが、
「黙れクソアマ!!」
今の男に、それは火に油を注ぐだけだろう。
「コイツはいつもこんな感じなのか?」
今までその光景を静観していたヤマトが、久しぶりに口を開く。
その言葉に対して、パーティーの三人が顔を見合わせる。
「いや、確かにちょっとワンパクな所があるけど、今日は特別荒れてる気がするなあ……」
シッカが三人を代表してそう言った。
「ああん!? シッカてめぇも俺様がガキだって言いてぇのか!!」
本当に何にでも噛みつくじゃないか……。
いい男が、流石にちょっと子どもっぽい気がするぞ。
「ちょっと様子を見ようと思ってたが気が替わった。レンブラント、お前は俺やベイエルと自分の力量がどの位離れているか理解できているか?」
ヤマトが少し強めの口調で彼に質問を投げかける。
「……それは俺様がお前らより劣っていると言いたいのか?」
これは驚いた。
どうもレンブラントは、ヤマトやベイエルと自分が、同じステージにいると思っているようである。
「こりゃ一体、帝国でどんな教育を受けて来たんだ?」
ベイエルが再度やれやれのポーズを取る。
確かに、先ほどの魔法の発動速度には目を見張るものがあり、オレも発動寸前まで彼が魔法を使おうとしている事に気づかなかったくらいなのだが、しかし、そもそも熟練の魔法使いは、”ブレイズダッシャー”のような上位系の魔法など使わず、”ファイヤーボール”や”ウィンドカッター”等の基礎的な魔法を好む傾向があるのだ。
これには様々な理由があるが、掻い摘んでいえば、その方が効率がいいからである。
「この際だからはっきり言っておくが、俺やベイエルはこの町、いや、この世界でも有数の実力者だ。特にベイエルは転生者でもないのに正規の手段で”A級”まで上り詰めた逸材だからな」
「A級だとぉ?」
レンブラントが訝し気にベイエルを睨む。
そんなに眉間にしわを寄せていて、疲れないのだろうか。
「A級って、すごっ」
シッカがそう驚くように、現役のA級の冒険者は下手するとS級よりも少ないのではないかと言われている。
これは名誉称号的な意味合いが強いS級より、形だけでも正規の手続きを踏まなければならないA級は、純粋な冒険者としての素質と力量が問われるからだ。
ベイエルは確か、貴族の出自だったはずなので、たしかに他の冒険者に比べてランクを上げやすいだろうと思う。
しかしそれでも彼の若さでA級となると、かなりの実力者であるのは想像に難くない。
まあ、そもそも殆どの上級冒険者が面倒な手順を踏んでまで、王国にこき使われるA級まで上がろうなんて思わないというのもあるのだが。
「何だよぉ。あんまり褒められると照れるだろ?」
しかし、この軽薄な照れ笑いを浮かべる男がA級だというのは、知っていてもそうは思えないものである。
「まあレンブラント。お前とあえて比べるなら、あそこで荷物持ちしている男だろうな」
「何だとぉ!?」
ヤマトのその言葉に反応して、こちらを睨むレンブラント。
これは酷い飛び火である。




