第45話 俺は転生者だぞ!
ドカドカと靴音を鳴らして入って来る複数の人間。
その装備の見た目こそ冒険者そのものだが、どうもこの辺の人間とは雰囲気が違う。
首元にかけているはずの冒険者章は無く、やたらと小奇麗な身なりをしていた。
彼らは長身の若い男を先頭に、キョロキョロと周りを見回しながら、中央の通路をカウンターに向かい歩いて来る。
その様子を感じてか、他の冒険者もチラチラと彼らの方を伺っているようだった。
そして彼らは、丁度空いていた俺達から一番近いカウンターの前に立つと、先頭の男がカウンター越しに中の様子をじっと眺め、他のメンバーは引き続き周りの様子を伺っていた。
それに対してギルドの女性職員であるアノンが、カウンター越しに彼らに話しかける。
「お早うございます。今日はどのような要件ですか?」
その声に対して、先頭の男が目線をさげる。
俺達からは背中しか見えないため、彼の表情は伺い知れない。
俺は念のため、書類に顔をむけながらも横目でその様子を伺った。
「……クエストを受けに来た」
男が体格から想像するより、思いのほか高い声でそう口にする。
「冒険者IDをお願いします」
淡々とした口調のアノンだが、声色に警戒心が見え隠れしている。
男は彼女にそう言われると、酷くもったいぶりながらポケットを弄る。
「Bランクのクエストをよこせ」
男はIDを出さぬまま、ぶっきらぼうにそんなことを言い出した。
「先にIDを拝見してもよろしいですか?」
アノンは極めて事務的な口調を崩さずに言う。
それが癇に障ったのか、男はIDをカウンターに叩きつける様に置くと、
「……おい、掲示板を見て来い」
彼は後ろを振り向いて、後ろのスカウト風の男に指示度出す。
言われた男が無言で掲示板の方に足早に向かっていった。
「拝見します」
アノンは差し出されたIDに手をかけるが、男はそのIDカードをカウンターに手で押さえつけたまま離さない。
「どうされましたか?」
この彼女の質問は男の様子を伺うものではなく、カードから手を離せという意味だろう。
そのやり取りを注視しながらベイエルが俺の向かいの席にゆっくりと腰を下ろす。
男は「フンッ」と鼻で笑うと、ようやくそのIDから手を離した。
「拝見します」
アノンはそれを手元に寄せて拾い上げると、それを覗き込む。
そして直ぐに眉間にしわを寄せた。
「……あの、失礼ですが”レンブラント”さんがパーティーのリーダーで間違いないですよね?」
アノンが、その険しい表情そのままの声色で問いかける。
「そうだが?」
それが何か、とでもいいたそうな男の言葉に彼女は、
「でしたら、これではB級の依頼は受けることが出来ません」
そうきっぱりと言った。
「はぁ?」
レンブラントと言うらしい男は、そう言いながらアノンに顔を近づける。
「それはちゃんと見た上で言っているのか?」
息がかかるほどの距離で、男はアノンを睨みつける。
銀行の窓口にあるような仕切りみたいなやつが、このギルドにも必要だな。
「はい、確かに――」
「よく見ろ! 俺は転生者だぞ!!」
アノンが言い終わる前に、男が彼女を怒鳴りつける。
絶対唾とかが散っているが、アノンは表情を変えずに毅然とした表情をしている。
名前的にもしやと思ったが、やはり転生者だったか……。
この町は転生者が多いからまだそうでもないが、世間的に俺らへの風当たりは厳しいものがあるので、こういう行動は転生者への風評被害につながる。
俺がちらりとベイエルの方を見ると、彼もこちらに目線を向けて、やれやれというポーズを取っている。
ちなみに、ベイエルは聖王国生まれ聖王国育ちの生粋の現地人で、そして先ほどのカチューシャは父親がロシアからの転生者で、いわゆる二世である。
「申し訳ございませんが、転生者といえど特別扱いすることはできませんので――」
「レンブラントさん! これなんかどうっすか?」
またしてもアノンが言い終わる前に、今度は掲示板からはがして来たらしい依頼書をスカウト風の男がレンブラントへ手渡す。
俺が少し顔を上げて様子を伺うと、彼女がチラチラとこちらに目くばせをしているのが見えた。
それを見た俺は、正面のベイエルとアイコンタクトを取る。
そしてレンブラントはというと、依頼書に目を通すと満足そうな笑みを浮かべて、
「おい、これを」
すぐにその依頼書をカウンターに叩きつけた。
一応それに目を落としたアノンだったが、
「先ほども申しましたが、こちらのクエストはBランク向けですので、貴方のパーティーでこれを受ける事は――」
レンブラントはまたもや彼女が言い終わる前に、今度はあろうことか彼女の前髪を鷲頭掴みにした。
ああこれはいけませんね。
髪を引っ張られたアノンが、苦痛の表情を浮かべた。
レンブラントのパーティーの連中も、彼の行為に驚いたのか、目を丸くしている。
その様子を見ていたベイエルが即座に立ち上がると、パーティーを押しのけて男の肩を掴む。
「おい、それ以上はいけない」
肩を掴まれたレンブラントは、アノンの髪を離すことなくベイエルに顔を向ける。
「ああん?」
男は明らかに喧嘩をするつもりでベイエルを睨みつけた。
「まあまあ、落ち着けってブラザー」
俺はわざとらしくそう口にしながら立ち上がる。
それを合図とばかりに、ベイエルも飛び切りの笑顔を作り、男に向かって声をかける。
「熱くなんなって、職員に当たった所でどうにもならないぜ?」
そう言いながら、バシバシと力強くレンブラントの肩を叩いている。
「ようブラザー。ここは始めたてか?」
俺もそう言いながら、肩で風を切ってレンブラントに近づき、
「焦んなくても、ここ王国北部には山のように依頼があるんだ。まずは俺達と一緒に、軽く肩慣らしといかねーか?」
そう言葉を続けて、彼の肩を抱く。
もし俺がアノンの彼氏だったらそのまま首に手を回して骨を砕いていたかもしれない。
そして、他のパーティーメンバーは、その様子を呆気にとられたように眺めている。
男もその俺たちの行動に意表を突かれたのか、職員の髪を掴んだ手が緩む。
すかさず彼女は体を引いてそこから抜け出すと、隣の窓口の職員が急いで彼女の元に駆け付けて、彼女の体を抱きとめた。
「おい! 俺様に気安く触るな」
レンブラントは上半身を激しく動かして俺達の手を振りほどく。
男のその行動で、体が当たりそうになった周りのパーティーメンバーが驚いて、一歩身を引いた。
それにしても、なんでこういうヤツって自分の事を俺様って言うんだろうか。
「いいからいいから、ここではオレ達の方が先輩なんだから、ここは道案内とでも思って一回だけオレら言う事を聞いちゃくれねーか? なあ、ヤマト?」
ベイエルが俺にウィンクをしながら目くばせをするが、ちょっと素にもどりつつあった俺はその行動が突然寒く思えてきた。
そして彼のその言葉を聞いたレンブラントがこちらを向き、俺の顔をまじまじと見る。
「ヤマト? お前、ヤマトって言うのか?」
そう言って、しばらく俺の顔を舐めるように眺めたかと思うと、突然ニヤッと顔を歪める。
「お前、”ソードマスター・ヤマト”だろ」




