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第104話 フォルティピアン伯爵

 ギュイイイィイイイイイーーンッ!!


 ギルド内に怪音が響く。


 久しぶりの雨音をかき消すような爆音に、驚いたギルド内の全員が顔を上げて、それが聞こえた方を向いた。


 そこには、この世界では見慣れないモノを持ったアメリアが丸椅子の上に立って、テーブルに片足を乗せていた。


「何かしてるなーとは思っていたが、そんなものどうやって手に入れたんだ……」


 丁度アメリアを背にして、例のごとく資料整理に勤しんでいた俺は、立ち上がってギルドの入り口付近に陣取っているアメリアの方へ歩いて行く。


「今度は何ですか!?」


 そう言ってギルド職員のアノンも、ギルドの裏手から飛び出して来る。


「見ろよこれ! エレキギターだぞ!」


 ズンズンジャー!! ズンズジャー!!


「え? 何これ? 楽器?」


「うるせー……音ってか殆どノイズじゃねーか……」


 爆音で音を奏でるアメリアの周りに、物珍しさから徐々に人だかりが出来つつあった。


「……エレキギターだぁ?」


 それもゴリゴリの歪み系アンプ付きである。


「ガハハハハ!! どうだすごいだろう!!」


 その隣に、見慣れた初老の男の姿がもあった。


「フォルク。まさかあんたが作ったのか?」


 機材をジロジロ見るオレに、フォルクがまたガハハと笑いながら、


「俺は言われた通りに設計しただけだけどな! まあ、楽器何て作ったのは初めてだったからちょっと苦戦したが、なかなか面白かったぞ!」


 初めてでこんなものが作れるとは、本当にこの人は天才なんだな。


 しかし、何でまたこんなものを作る事になったのか……。


「ご丁寧にヘッドとスピーカーが分かれてるのか……ん? 待てよ? これ電気はどこから取ってるんだ?」


 俺は改めてその機材一式を見てあることに気づき、それをフォルクに尋ねる。


「これは魔力を電気的な物に変換してるんだ。だから常に一定の魔力を供給してやらなければならないから、そこがネックと言えばネックだな! ギターだけにガハハハ!」


「こうすればクリーントーンになるぞ!」


 そう言ってアメリアがアンプヘッドのつまみを弄る。


「おお……こっちは楽器っぽい音がするな」


「何か不思議な音……」


 アメリアが聞き覚えのあるアルペジオを引き、冒険者達がそれに反応する。

 その横でピチカが音量ダイヤルらしきものをグリグリ弄って、そのたびに音が大きくなったり小さくなったりしている。


「いやこれどうなってんだ? 機械部分と魔導部分で完全に独立させてんのか? にしてもこんな繊細に電力供給を調整することなんて可能なんか?」


 なんかよく分からないが、物凄い技術が使われている気がする。


「あたーらしーいー きせーつはー」


 アメリアのリサイタルが始まる中、俺は自分の中に浮かんだもう一つの疑問を口にする。


「そんでフォルク? なんでまたこんな物を作ったんだ?」


 そう俺が尋ねると、フォルクはニヤリと笑い。


「何でも、”建国祭”の余興で使うらしいぞ? この他にも王都の工房でいくつか新しい楽器を作ってるんだ」


 建国祭……。


「それをアメリアがお前に?」


「ああ、アメリアが発起人らしいぞ? 詳しい事はあまりしらんのだが」


 あの怠惰なアメリアが企画したとなると、何だか嫌な予感がするが、むしろ俺は建国祭というワードの方に気が引っ張られていった。


 パチパチパチパチ!!


 アメリアが歌い終わると、それを聞いていた慣習が大きな拍手をする。


「アメリアさーん! お上手ですわー!」

 

 それにいい気になったアメリアが、まるでスターのように八方を見回しながら手を振っていた。


「いやあアメリア君。相変わらず歌が上手いな」


 そう言ってこちらに歩いて来るのは、ここのギルドマスターのマリオだった。


「あったぼうよ! 千年に一度の歌姫アメリアちゃんだぞ!」


 アメリアは鼻を長く伸ばして腰に手を当てる。


「その歌姫のアメリア君に嬉しいお知らせがある。この度、正式にB級冒険者章が発行される事になった」


「えっ!? マジで!!」


 それに対し、再び周囲から拍手が巻き起こる。


「だだ、今後また問題を起こすようなら容赦なくはく奪するとの上からのお達しだから、どうかいい子にしておいてくれよ?」


 そんなこと聞いちゃいないアメリアは、テーブルの上に土足で上がって謎のダンスを踊っていた。


「しかし、建国祭に間に合ってよかった。そうそう、ヤマト君はいつ頃聖王都に戻る予定なんだ?」


 こちらに目を向けて尋ねるマリオに対し、反射的に俺は目を逸らしてしまう。


 それを見ていたアノンが、俺を覗き込むように見つめて来る。


 ……あざとい。


「ヤマトさん。あなたご実家からの伝書をほとんど無視してますよね? あなたがここに来てもう半年以上。流石にもう潮時なんじゃないですか?」


 真っ直ぐぶつけられたその言葉に、俺は再び目を逸らす。


「……まさかヤマト君。王都に帰らないとか言い出すんでは無かろうね?」


 俺はとぼけたようにそっぽを向きながら、


「いやぁ……借金の片がある程度着くまでは、ここにいようかなーと……。こっちに居た方が稼げるし、それに今ここを俺が離れるとマズいだろ? 魔族的な意味で」


 バシィッ!!


 そう言った俺のケツを誰かが思いっきり叩く。


「そりゃアンタは女の回りが良いから、ここから離れたくないでしょうね!!」


 その声はモンティーヌの声だったが、俺は振り返らずに天所の染みを見つめていた。


「なーるほど。てっきり借金の事で詰められるのが嫌なのかと思ってたけどそう言う事かよ」


 アメリアも便乗してそんな事を言ってくるが、ここは徹底的に無視である。


「ヤマト君。君の事情は察するに余りあるが、そろそろ顔を見せに帰りたまえ。連絡もしていないというのなら心配しているだろうに」


「いや、ピチカが代わりに返信してるらしいぞ? ヤマトのセクハラが酷いとかそういうの――」


「ダニィ!!??」


 俺は思わずそれを言ったアメリアの方を振り向いてしまう。


「うっそぴょーん」


 ドゴォッ!!


 俺はアメリアが乗っていた丸椅子を思い切り蹴っ飛ばす。


「実家の仕事はちゃんと部下に任せて来てるから!」


 着地したアメリアに足払いを決めながら、俺はそう口にする。


「そういう問題じゃないでしょ……あなた本当に――」


「ん? 待て、なんか来た」


 言いかけたモンティーヌを遮るように、俺は顔を上げて入口の方を見る。


「何誤魔化そうとしてるの?」


「違う、何か……軍靴(ぐんか)の音が聞こえる」


「はぁ? 軍靴ぁ?」


 皆が呆れる中、俺だけはそのギルドの入り口を睨み続けていた。


 次第に嘘だと決めつけていた連中も、半信半疑ながらその方向に目をやり始める。


 雨の音に紛れて、外を行き交う人の靴音はかき消されてしまっているが、俺には分かる。

 これは、今から確実に良くない事が起こる知らせである。


 ゴトリ。


 皆が見つめる中、一人の軍服を着た青年がギルドに足を踏み入れた。


 その青年は彼らの視線を意に返さず、ギルド内を一瞥すると、俺の顔を見て視線を留めた。


 あまりにこの場と不釣り合いな服装の青年は、その視線のまま真っ直ぐと俺の元へと向かって来る。


 この一部始終を、時間が止まったようにギルド内の誰もが無言で見守っていた。


 カッ!


 青年は俺の目の前で停止すると同時に、ビシッと音を立てながら武道の型のようにビシッと敬礼を決める。


 そして、大きく息を吸うと、ギルド中に響き渡るような大声で叫んだ。


「自分は!! ”王国第二聖騎士団所属”!! 同、聖騎士団副官のミュウトと申します!!」


 彼はもう一度大きく息を吸い、俺の頭頂部より少し上あたりを見ながら続ける。


「”王国憲兵団長”兼”対魔族特務員”!! フジ・ヤマト・フォルティピアン伯爵閣下を、国王陛下の命によりお迎えに上がりました!!」


 呆然とそれを見る俺を見て、その青年はニヤリと意地の悪い笑みを称えた。

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