第99話 エピローグ(六章)
結界が解けて俺が最初にしたこと、
「うえぇえ……てっきりこの女のぉオーバーリアクションだとぉ舐めてましたぁ……」
それは、風魔法でそこにたまった臭気をあちら側へ押し流す事だった。
「おげえええぇえ!!」
「うえぇええええ!!」
帝国の聖職者と兵隊が、えづく声が響く。
「ははっ汚いねえ」
思わずそんな言葉が口の端から漏れる。
「笑い事じゃありません……」
すかさずアキ君が俺の思った通りの反応をしてくれる。
「デッサちゃん……? 何ですぐ開けてくれないんですのー……」
口元を押さえて真っ青な顔をしたピチカが、デッサの元へヨタヨタと歩いて行く。
「それ以上ぉ近づかないでくださぁい。残り香が付いてしまいますぅ……」
一体誰のせいでこうなったと思ってるのか、全く悪びれる様子の無いデッサが、鼻をつまみながらピチカに対して手で追いやるような仕草をする。
しかし、ここまで弱っているピチカを見るのは多額の借金を作った例の事件以来なので、これはこれで久々に面白いものを見た。
「別にあなたに今更何かしようと思ってませんわー……。ただあなたの首筋に、大きい蜘蛛がいるのでとってあげようとおもっただけですのー……」
「えっ!? うそぉ!? ちょとぉ早く取って下さいましぃ!!」
慌てて首元を払おうとして、それを思いとどまたのかパタパタと手を宙で遊ばせてピチカに背を向けるデッサ。
「どどど、どこですかぁ!?」
それを見たピチカは、彼女の後ろ襟に手をかけると、そこを思いっきり引っ張った。
そして――。
「ゲロゲロゲロゲロ!!」
そこに出来た空間に顔をうずめると、勢いよく胃の中の物を噴射した。
「ギャアアアアアアア!!」
悲鳴を上げて飛び上がるデッサーテ。
「うっぷ……ざまぁみろですわー」
ピチカは口から糸を引きながらデッサの背中から離れると、ぐったりとその場に座り込んだ。
「おう兄弟! 今日からお前もゲロインの仲間入りだな!」
アメリアがそんなピチカに駆け寄って、ニコニコ笑いながら彼女の背中をさする。
「ゲロゲロー! 最悪ですわー! 本当に最悪ですわー! ゲロゲロー!」
「ああああ!! わたくしのぉ背中どうなってますぅ!? どうなってますぅ!?」
ちょっと面白いので、もうしばらく見ていたい気持ちはあるが、そろそろ日が暮れてくる頃なので撤退の準備をしなければならない。
「さて、とりあえず俺は憲兵として帝国正教会の連中に手枷をはめなきゃならんから、雑魚魔族の駆除はお前らに任せるわ」
そう言い残して、俺はグロッキーになっている聖職者達の元を訪れる。
「うわ、こんなに離れてんのに本当にヤバイな」
おれは口と鼻を覆ってそう言いながら、彼らの手に拘束魔法を施していく。
「くっ……貴様、我等にこんな事をして、ただで済むと思うなよ……」
「手枷をつけたのは俺だが、それ以外は全てお宅のデッサがやったことだけどな」
そうは言っても、こうやって聖職者を逮捕してしまった事は事実なので、おそらく帝国から何かしらかのクレームを受ける事にはなるだろう。
そんな事を考えながら、俺は次に主教へと手を伸ばすが……。
「……おじいさん? 生きておいでですよね?」
口を半開きにして虚空を見つめるおじいちゃんの肩を叩きながら、俺はそう問いかける。
「ふがっ!? もう町にはついたのかい?」
焦点の定まっていない目をこちらに向け、主教はそんな事を言ってくる。
「ああ主教様……おいたわしや……」
ここでボケられたらこの後の取り調べがこんがらがる可能性があるのだが、大丈夫だろうか……。
そうこうしている内に、全員分の手枷をかけ終えた俺は、報告の為に仲間の元へ歩いて行く。
「とりあえずこれで全部処理できたな」
丁度魔族の処理を終えたらしいベイエルが、角を弄びながら言った。
「こっちも終わった。さて、後はあいつか……」
そう言って俺が目を向けた先には、例の魔族がうつ伏せのままの状態で倒れている。
「よし、出番だぞオリー!」
俺はそう言うと、一番後ろで突っ立っている黒人に、こいこいと手招きする。
「あれ、そう言えば、今日は妙に静かでしたねオリーさん」
アキが少し感心したようにオリーに目を向ける。
「んー!! んーんーんー!! んーー!!」
オリーが口を閉じたままうんうん唸り、首を横にブンブン振っている。
「? どうしたんだオリー? 何だか普段以上に様子がおかしいようだが……」
ショブエルが首を傾げて彼に言葉をかける。
「ああ、今日こいつにはお口チャックしておいてもらったんだわ」
俺はズカズカとオリーの元へ歩いて行くと、その腕を掴んで元の場所まで強引に引っ張って来る。
「ほら、もう喋れるだろ」
俺がオリーにかけた魔法とを解くと、彼は堰を切ったようにしゃべり始めた。
「嫌だ嫌だ!! 何で毎度毎度、俺が汚れた魔族を担いでいかないといかんのだ!! しかも今度は脱糞と来た!! 俺にだって仕事を選ぶ権利はあるはずだ!! 絶対に嫌だ!!」
嫌々期の二歳児のように、全力でそれを拒否するオリー。
「だから付いてこないでもいいって最初に言ったじゃないか。しかし、お前は自分から進んで付いてきたうえに、今日は全く仕事をしていないんだ。みんな何かしらやってるのに、一人だけ何もしないのは不公平だろ?」
「そ、それは! あんたが俺に良く分からん魔法を掛けて口を封じてたからで――」
「はい言い訳! 余計な事はしゃべらないから付いて来たいって言ったのはお前だろ?」
ぐぬぬぬぬ、と眉間に皺を寄せて唸るオリー。
何ならこいつが今から脱糞しそうな形相である。
「糞! もう二度とその魔法は喰らわないからな!!」
そう言って肩で風を切りながらズカズカと魔族の元へ歩いて行くオリー。
「はあ……。一件落着と思いきや、これからが大変なんだよなぁ……」
俺はため息をついて、マリオの所へと向かう。
「全く、どう報告した物かね……」
そのマリオも、ため息をついて顎髭をグリグリ捻じっていた。
「ぐわあああああ!! クッサああああああ!!」
「ちょっとぉ!! 誰かぁ背中を拭いてくださいましぃ!! あと着替えをトランクから出してぇ!!」
ああ、もうなんだこれ……。
「ちょ、ちょっとオリー!? こっち寄らないで!」
「ううぅぅ……我ぇ……クソ漏らしぃ……」
本当に、本当に。
…………。
本当にクソみたいなオチだわ……。
これにて第六章が完結です。
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次回から数話ほど余談を投稿した後、新たな舞台へと物語は移ります。
・あとがき・
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