第98話 脱糞
※内容は、タイトルでお察しください。
「ず……ズルいぞ彼奴!!」
去っていくその魔族を見て、結界の中の魔族達が、最後の力を振り絞る様に叫ぶ。
「ああ……逃がしちゃったよ……」
僕は呆れて思わずそう呟いてしまう。
「あなたいつの間にそんな魔王の加護みたいな呪いが使えるようになったのよ?」
モンティーヌも同様に、腕を組みながら怪訝そうな眼をヤマトに向ける。
「そんなの嘘に決まってんだろ」
「「はぁ?」」
思わず僕を含む数人が同時に声を出して彼を見た。
「あのねあんた! 私にあんなこと言って置いて! いい加減にし――」
「まあ待て待て」
ブチギレたモンティーヌに対し、それをなだめる様なジェスチャーをするヤマト。
「呪いの内容は嘘だけど、ちゃんと対策はしてるよ。心配するな」
今度はヤレヤレのポーズをするヤマトだが、モンティーヌの怒りは収まらないようだ。
「もったいぶってないで何をしたか言いなさいよ! 返答次第じゃぶん殴るわよ!」
モンティーヌがそう怒鳴って手を振り上げる。
「あの魔族には、嘘ついたらウンコを漏らす魔法を……うそうそうそ! 魔導回路を一部損傷させて、今後まともに魔法を使えないようにしただけだって! ギリギリ飛んで帰れるくらいに調整してさ! 言わば時限爆弾だよ!」
本気で殴りかかってきたモンティーヌの攻撃を回避しながら、ヤマトとモンティーヌが子どもの追いかけっこのように周囲をぐるぐる回っている。
その様子を、吹き出すのを堪えながらベイエルが眺めていた。
そんな時だった。
「んほおおぉおおおおぉ……」
僕達が追いかけっこに気を取られていると、結界内から苦しみにあえぐ声が漏れ聞こえて来る。
見るとそこには、ピチカにきれいなキャメルクラッチを決められた魔族が口から泡を吹きだしていた。
「あっはー! 意外と粘りますわー!」
そう口にして、更に力を込めるピチカ。
技をかけられた魔族がなんとか呼吸をしようとするたびに、口の端から泡を飛ばしている。
目は白目を剥いて、額には血管が浮いていた。
「そーれ! 落ちろですわーー!!」
気合を入れたピチカは、相手の背骨を折らんとばかりに魔族の顎を持ち上げて、思い切り後ろに仰け反った。
ちなみに、それで気絶するのは窒息なので、落ちるとは言わない。
「こぉあぁぁぁぁぁ……」
声なのかもわからない様な音が、魔族の口から洩れて来る。
ピチカの手にかけらてていた魔族の手が、パタリと地面に落ちた。
――ブリブリブリッ!!
……………。
時が止まったように周囲が一瞬で静まり返る。
全員の視点が、魔族の下半身へと注がれる。
狂化の影響で、その女魔族の服は完全にはじけ飛んでしまっている。
つまり、魔族がそれを産み出す様子が、忽然とそこに晒されていた!
「!? うはぁああ!? 汚いですあわー!!」
流石のピチカも、技をかける手を放して、そこから大きく飛びのいた。
モリモリモリ……。
その瞬間、力が抜けたのか、さらにそこに健康的な物が追加でひり出される。
「アントシア様が……あの気高き射聖のアントシア様が……」
脱☆糞!!
「ぎゃはははははははは!! あいつウンコ漏らしてるうぅうう!!」
それを指差して笑い声をあげるアメリアと、楽しそうに手を叩くベイエル。
それ以外のメンツは、うわー……というような口の形で固まったまま、それから目を逸らす。
「こっちが漏らすとは……。嘘から出た実とはこの事か……」
ヤマトが何かうまい事を言ったような雰囲気を出しているが、その理屈だとさっきの魔族が嘘をついたような感じになってしまう。
「うーんこ!! うーんこ!! うーんこ!!」
アメリアとベイエルは楽しそうに両手を繋いで、合唱しながらその場でくるくると回っている。
しかし、それに反して結界の中は、
「!?!? くっさ!! マジでくっさいですわー!!」
「ぐわあぁあ!! 臭い!! ヤバイ!! 臭いぃ!!」
阿鼻叫喚となっているが、流石にちょっと大げさでは無いだろうか。
まるで、遠足のバスの中で誰かが吐いた時の小学生男子の様だった。
「結界を解くんですわー!! 早く結界を解くんですわー!!」
「お、オエエエエ!!」
その様子をゲラゲラ笑いながら見ていたベイエルが、
「あれな! 魔族って魔界では特定の食い物しか食わないじゃん? その食い物のせいで、大も小もやべぇ臭いがするんだってよ!」
ああなるほど、しかも結界内は密閉空間なので、中に臭いが充満してしまっているわけか。
「きゃはははははははは!! おもしろぉい!!」
それを見て、腹を抱えて笑うデッサーテ。
「笑い事じゃありませんわああーー!! ただでさえ空気が薄いんですから! シャレになりませんわああーー!!」
結界をドンドン叩きながら、涙目で懇願するピチカ。
「ぐううぅう!! いかにアントシア様のモノと言えど……これはっ!?」
魔族達もその魔族から一番遠い所に避難して、鼻をつまんで喘いでいる。
「……おいデッサーテ。流石にそろそろ開けてやれ」
いつの間にか遥か後ろの方へ避難したヤマト達が、遠くからデッサーテに向けて指示を出していた。
「えぇ……やっとぉ面白くなってきたのにぃ……」
「うっぷ……」
「おいバカ!! 絶対に吐くなよ!!」
「開けろおおおおー!! 早く開けろこのアマああああー!! さもなきゃ力づくでこの結界をぶち破るですわああああーー!!!!」
遂にキャラが保てなくなったピチカが、目を血走らせてデッサーテに怒号を浴びせる。
「えー。どうしようかなぁ?」
ニヤニヤと笑いながら、その様子を楽しむデッサーテだが、
「おい、このままじゃピチカがマジギレして世界を滅ぼしかねないから、本当にその辺にしとけ」
これはネタではなく、本当にそうなりかねないので僕もそれに同意だ。
「はぁ……しょうがないですねぇ……。ここヤマトお兄ぃ様に免じてぇ開けて差し上げますぅ。感謝するんですよぉ?」
本当に残念そうにデッサーテはそう言うと、彼女は聖杖を結界に当てて軽く息を吸い込む。
僕は大急ぎでヤマト達の元に退避する。
「はぁーい。解除ぉー」
デッサーテの言葉と共に、結界が音もなく姿を消した。




