第95話 きましたわー
丁度僕達の目の前と向こう側を隔てるように、ドーム状の結界が展開される。
しかし、それを覆うのは僕達ではなく、ピチカと魔族。
そして、帝国正教会の面々だった。
「何をやったんだデッサ?」
ヤマトが隣で高笑いをしているデッサにそう問いかける。
「いやヤマトさん……今あなた、止めれましたよね?」
僕は彼を見ながら、ため息交じりにそう口にした。
「せ、聖女様……聖女様!! な、何てことを!!」
続いて、閉じ込められたことに気づいた結界の中の聖職者達が、また騒ぎ始める。
「きゃははははははははは!! 絶景ですぅ!!」
「アキ? お前はこれが何の魔法なのか知っているか?」
ショヴエルが戸惑いながら僕にそう聞いて来た。
「この神聖魔法の結界は、の内部と外部を隔てる効果があるのは他の結界と同様なんですが、お察しの通り、もっとヤバい効果があります」
そう話す僕に、周囲の視線が集まる。
「まず、僕も良く使っているエギス=ディビーネとの大きな違いは、魔法だけでなく、物理的な干渉も防ぐという事です」
僕がそう言うと、ヤマトが躊躇なくその結界に触れる。
「おお……なんかプニプニすると言うか、低反発マットみたいな不思議な感触だ」
「中から叫び声が聞こえるが、音は通すようだな」
ショヴエルもそう言って、その結界を冷静に観察している。
「でもそれだと他の結界魔法とそこまで大差ないじゃんよ? ヤバいって言うからには他になんかあるんだろ?」
ベイエルの言う通り、この結界の醍醐味はそこではない。
「そうです。この結界、なんと内部に存在する全ての魔法的要素を無効化します。つまり、この中では魔法が一切使えません」
「な、なんだってーー!?」
ヤマトだけが大げさに驚いて見せるが、他の人間は意外にも冷静だ。
「ク……クソッ……ナンダコレハ! カ カラダガ……オモイ……」
それに反し、結界の内部は外と違って騒がしい。
「魔族は生命活動の一部を魔力に頼っています。なので、この中に入った魔族は魔王であろうと例外なく弱体化して、時間と共に衰弱していきます」
「とんでもない魔法じゃのう……」
僕の説明を聞いた聞いたヤマトが、何かに気づいてパチンと指を鳴らす。
「あー、ってことは俺達もこの中に入ったらただの魔法が使えない人間になるって訳か。帝国はこれを利用して、俺を殺そうとしてたんだな」
この魔法は強力ではあるが、中からも外からも全く手出しが出来なくなるため、他にもっとチートな効果がある神聖魔法の中では使用頻度は高くない。
しかし、あえて彼女がここでその魔法を使ったという事は、あらかじめ使う状況を想定して来ていたという事になるだろう。
「ご明察ですぅ! この魔法はぁ、ヤマトお兄ぃ様の力を封じて集団リンチするためにぃ使う予定でしたぁ」
「バカだなぁー。ヤマトは魔法なんてなくても鬼強いのにさ」
何の因果か、今その結界の中にいるのはそれを企てた帝国正教会の人間である。
さて、ここから彼らはどうするつもりだろうか。
「お前たち! 今こそ出番だぞ! 我々と主教様を守るんだ!!」
中では聖職者がそう言って、十字軍の兵隊たちを魔族にけしかけようとしている。
「アキちゃん、さっき魔族が弱体化する言うとったけど、それってどんくらい弱わあなるんね?」
「……いや、どうなんでしょうね。でもこういう使い方をあまりされないって事は、そういうことなんじゃないですか?」
ガキィンッ!
「ぐわぁ!?」
兵士の攻撃が魔族に弾かれ、剣が宙を舞う。
ザクッ!
「ひぃいい!!」
その剣が聖職者の目の前に刺さり、その一人が悲鳴を上げた。
「嗚呼痛いなぁ、血が出てしまったでは無いか……」
切り付けられた魔族か、出血した自身の手を舐めながら兵士ににじり寄っていく。
「な、何やってるんだ! 相手は弱体化しているはずだろう! お前ら何のために普段ただ飯を食わしてやってると思っているんだ!」
「話が違いますよ! こいつら、すごい力です!」
結果は見ての通りだ。
一般の魔族であれなら、上級魔族はさぞ強い事だろう。
「ナメタコトヲ シテクレタナ! ダガコレハ ギャクニ ツゴウガヨイ!」
そう言って狂化した女魔族が、目の前のピチカに詰め寄る。
「ねえ、流石にピチカちゃん、マズいんじゃないの?」
モンティーヌが不安そうにそう尋ねる。
「って言ってるけど、ピチカどうなん?」
ヤマトがピチカに聞くが、彼女はいつもの笑顔をこちらに向けるだけだ。
「やってしまえぇ! 魔族ぅ!」
そして、どうやらデッサーテは本気でピチカを始末する気でいるらしい。
「ワレニ サシズヲ スルナ! コイツニハ ワレガ タイキャクスルサイノ ヒトジチニ ナッテモラウノダ!」
そう言って邪悪な笑みをたたえる女魔族。
「そんなのぉゆるしません! 早くぅその女をひん剥いてぇ、内臓を引きずり出してやって下さいましぃ!」
何が彼女をそうさせるのか、聖女とは思えない発言を繰り返すデッサーテ。
「ダカラ サシジズヲスルナト イッテオルダロ! シカシコヤツ ミレバミルホド ワレゴノミノ カオヲ シテオルナ」
また一歩、魔族がピチカとの距離を詰める。
「ソレニキサマ タダノ ジャキョウト ジャ ナイナ。 ナラバココデ スコシダケ アジミヲシテオクノモ ヨイダロウ」
女魔族はそう口にしながら舌なめずりをする。
「その調子ですぅ! それにその女はレズビアンですからぁ、愛でてあげればきぃっと喜びますよぉ!」
「デハ オコトバニ アマエヨウカ!」
魔族が腕を大きく振り上げ、大げさな動作でゆっくりとピチカへとその手を伸ばす。
そして、彼女に手が触れるか触れないかと言った瞬間、そのピチカの口がゆっくり開いた。
「きましたわーー!!」
突然、今まで黙ってそれを受け入れていたように見えたピチカが、叫び声を上げる。
ドゴォオッッ!!
次の瞬間には、女魔族がきりもみ回転をしながら宙を舞っていた。




