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第四章「冒険者と賞金稼ぎは仲が悪い」その3

 地中にいる魔物は総じてあまり人を襲わない――。

 どうしてだか、わかるか?


 昔受けた講義の一部を思い出す。

 地中にいる魔物とは人類にとって脅威だ。

 どんな建造物を建てたとしても建物の基礎部分を破壊されれば意味がないし、地中からの奇襲は防ぐのが困難だからだ。

 しかし、そんな俺の考えとは裏腹に地中の魔物は危険ではないようだった。

 

 ――どうして襲わないんですか?


 魔物が魔物である以上、人を襲うのは宿命のはずだ。

 俺は不思議に思いながらもあの時そう質問した。


「ハニー!」

「大丈夫だ!」


 過去のことを思い出すのはまた後だ。

 ハイレベル化現象の影響により、クレイイーターが金色の闘気を放っている以上油断している暇はない。


「なんだ!? 最近の魔物は光るのかっ!?」

「大発見ですね~」


 バルムダとロロコの二人を見ていると、ついに恐れていたことが起こってしまった。

 一般人を巻き込むわけにはいかない。


「プラノ! 二人を避難させてくれ!」

「了解ですの!」


 プラノが二人を避難させている所を確認してから、改めてクレイイーターを見据える。

 その名の通り、普段は土中で粘土を食べている魔物だ。

 どこにでも生息しているが、見たことのある人間は少ないだろう。

 普段は大人しいが、井戸を掘った時や坑道で人間と出くわした際には容赦なく襲い掛かってくる。


「ミキナ、気をつけろ!」

「うん」


 クレイイーターを改めて見据える。

 一匹だけかと思ったが、お友達がいたらしく合わせて三匹がこちらの様子を伺っていた。

 群れで行動する魔物ではないそうだが、それでも常に単独でいる訳ではないようだ。


「ぐねぐねしてるね」

「ああ」


 ミミズ嫌いな人間ならば卒倒ものだろう。

 見てくれも普通のミミズとほぼ変わらず、体色が地味なネズミ色であるのは魔物なりの良心かもしれない。


「来るか」


 クレイイーターは一気に詰め寄ってくる。

 頭部の角はそれほど硬質ではないと聞く。

 欠けても一週間ほどで再生し、無くても地中での生活には問題ないそうだ。

 

 ――じゃあ角がなくてもいいんじゃないか?

 

 クレイイーターについての話を聞いた当時の俺はそう思っていた。

 そして、今こうして高レベルなクレイイーターを目の前にしていると、恐らく奴の角の一突きが致命傷となるに違いない。

 

「ミキナ! 角に気を付けろ!」

「うん」


 螺旋状の角を槍のごとく突き立て、その切っ先はミキナへと向けられる。

 その速度は騎馬兵の突進を彷彿とさせる。

 そもそも、クレイイーターが素早く動くこと自体不自然だ。

 見ていて、正直あまり気分の良いものではないし。

 というよりも、クレイイーターに目はない。

 だったらどうやってこちらを探知しているのだろうか。

 一説によると匂いに反応するそうだ。

 三匹が真っ先にミキナに向かっている点からして、俺の体臭は魔物に好かれないようだ。

 眼前まで迫ってきたクレイイーターに対してミキナは――。


「えい」


 まずは一匹目の角を手刀でへし折った。

 そして、すれ違いざまに蹴りを魔物の胴へと叩き込む。

 実に見事な手際だ。

 ずっと前にどんな刀剣の攻撃も受け止められるオマアビを持った男の話を聞いたことがある。

 振り下ろされた剣を両手で掴み取るという、常人の反射神経では不可能なことを容易くやってのけたそうだ。

 しかし、その男の結末は哀れなものだったと聞く。

 道場破りのようなことをして周囲に恨みを買いすぎたらしく、ある時刺客に命を狙われたそうだ。

 刺客の短刀による一突きを放つも、男は軽く受け止める。

 しかし、受け止めてしまったのが運の尽きだった。

 刀身は事前に魔法で極限まで冷たくしてあり、それを両手でしっかりと触れてしまったせいで、ピタリとくっ付いてしまったのだ。

 そして両手を封じられた男は、刺客の持っていたもう一本のナイフを腹部に喰らって絶命したらしい。

 オマアビを逆手に取られたというあるある話の一つだ。

 ミキナも強力な力を持っているのは確かだが、どんな相手であろうとも油断は出来ないだろう。


 そんな俺の心配を余所に、ミキナはミミズ共を順序よく片付けていく。

 ミキナの戦い方を見ていると、彼女は特段武術の類を身に着けているというわけではないようだ。

 そう、正直雑な戦い方だ。

 蹴りにしても腰の捻りが弱く、まるで重心が乗っていない。

 だというのに、蹴られたミミズはまるで冗談のように吹っ飛んでいく。


「どうなっているんだか」


 理不尽なものだ。

 俺がどんなに体術の訓練をしても、絶対に勝てないだろう。

 このままクレイイーター共を撃退か、と思っていた矢先だった。


「何あれ」


 ミキナの面倒臭そうな声がした。

 ほとんどのクレイイーターは倒れ伏せているのだが、先程までいなかったやたらにデカいクレイイーターの個体がいつの間にやらそこにいた。

 二回りほど大きいだけでなく頭部の角は金色に輝いており、まるで王冠のようだ。


「クレイイーターの女王か?」

「女王ミミズ?」

「そんなもんだな」


 滅多に地表へ姿を現すことはないという話だが、だからといって俺が幸運な訳ではない。

 賞金稼ぎを引退したら、魔物学者になってもいいかもしれない。


「勘弁して貰いたいものだ」


 厄介なことに、女王ミミズを庇うようにクレイイーターの援軍まで現れる始末だ。

 このまま戦うのも埒が明かない。

 どうしようものかと迷っていると――。


「そうか」


 どうしてもっと早く気が付かなかったのだろう。

 急いで俺はある兵器を呼び出す。


「ミキナ。奴らを退散させる秘策がある」

「え?」


 ミキナは驚きの声を発する。

 レベルが低くて足手まといな俺に何が出来るのか。

 そんなことは思っていないだろうが、最近の俺の役立たずっぷりは目に余るくらいだ。

 

「後は俺に任せてくれ」


 このセリフを言ったのも随分久しぶりだ。

 ついこの間までバウンティハンターギルドでは皆から頼られていた。

 羨望の眼差しを受けていたことが懐かしい。


 俺が呼び出した兵器でまず目につくのは金属製の大型の円筒だろう。

 円筒からはホースが伸びており、その先端にはライフルに酷似した銃器が取り付けてある。

 引き金を引くことで、円筒の中に入っている可燃性の液体を噴射する仕組みのようだ。


「それは、火炎放射器?」

「ああ」


 付けられていたベルトで円筒を背負う。

 ずしりと重いせいで、走り回れないのが欠点か。


「効かないと思うけれども」

「一つ頼まれてくれないか?」


 ミキナにあることを頼むと、彼女は小さく頷いてくれた。


「よし、やるか」


 ミキナが移動したのを見計らい、火炎放射器を構える。

 通常の魔物ならば一掃できる強力な兵器ではあるが、如何せん火事には気を付けなくてはならない。

 強風の日に使ったらそれこそ大惨事だ。

 魔法の講義でも如何に炎の魔法が危険なのかを散々教えられたことを思い出す。


「こっちだ!」


 クレイイーター達はミキナを追いかけようとしたが、そんなことはさせない。

 叫びながらも、俺は火炎放射器の引き金を引く。

 赤い炎が蛇のようにうねり、クレイイーターへと襲い掛かる。

 奴らの女王を狙ってみると思った通り、女王を庇うように密集する。


「まあ、そうだよな」


 しかし、敵もただ炎に焼かれるだけではないようだ。

 女王が上体を大きく逸らすと、それが合図だったらしくクレイイーターの何匹かがこちらに突貫してきた。


 巨大なミミズが間近まで迫ってくるのは恐怖だ。

 人によっては見ただけでも気絶するだろう。


「しまっ――」


 クレイイーターの動きが予想以上に速く、回避が間に合わない。

 身を強張らせるしかなかったその時だった。


「えいっ」


 ミキナの声がしたかと思いきや、丸太がどこからともなく吹っ飛んできた。

 丸太は俺に襲い掛かってきたクレイイーターへと直撃し、見るも無残な形で地面へと叩きつけられる。

 そして、他のクレイイーターにも容赦なく丸太が飛んでくる。 

 見ていて可哀そうにすら思えてくるのだが、どうにか女王を庇う彼らの忠誠心には本当に驚かされる。


「遅くなってごめん」

「いや、助かった」


 ミキナには周囲に生えていた木を持ってきてくれと頼んだ。

 丸太で攻撃してくれとは言わなかったのだが、今は彼女の手際の良さに感謝しよう。


「よし」


 再度火炎放射器の引き金を引く。

 狙いはミキナが持ってきてくれた丸太だ。

 飢えた火は丸太へ勢いよく食らいつくと、音を立てて激しく燃え上がる。

 豪快な咀嚼音を耳にしていると、ミキナが声を掛けてくる。


「これでいいの?」

「ああ。これでいいんだ」


 熱波から逃げるために後退していると、クレイイーター共の様子に変化が見られた。

 女王が一目散に地面へと潜ると、それに続いて配下達もこぞって逃げ出した。

 魔物が人間を前にして逃亡するというのは珍しい光景だ。


「逃げて行った?」

「クレイイーター達は乾燥を嫌う。どうやら皮膚で呼吸をしているらしい」

「呼吸できないと死んじゃうものね」

「そうだな」


 無理矢理倒す必要もない以上逃げてくれた方が楽だ。

 延焼する危険性もあったが、幸いにもクレーター周辺には木々はなく、風も吹いていないためその心配も不要だろう。


 燃え盛る炎を背に戻ると、プラノがこちらへと戻ってきた。


「ハニー、ミキナちゃん。大丈夫ですの?」

「ああ。何とか奴らは追っ払うことができた」

「報復とかはしてきませんよね?」

「知恵のある魔物ならばそうするだろう。だが、地中に住む魔物にそんな心配は不要だ」


 俺の発言に対し、プラノは首を傾げる。


「どうして断言が出来ますの?」

「地中にいる魔物の殆どは餌を求めて行動している」

「そんなにお腹が減りますの?」

「そのようだ。動物のモグラだって一日に何十匹もの地虫を食べている。食事に夢中になるせいで、積極的に人間を襲撃はしないそうだ」

「そうなんだ」


 ミキナはクレーターの方をチラチラと確認しながらも頷いた。

 地中の魔物は脅威だが、地中の生活に特化するあまり魔物らしさが薄れてしまうのはどこか笑えてしまう。


「そう言えば、バルムダとその助手はどうした?」

「案内しますの」


 プラノについていくと、そこにはバルムダとロロコが木陰で眠っていた。


「ハイレベル化現象について説明するのも大変かと思って魔法で眠らせましたの」

「そいつは助かる」


 下手に興味を持たれると根掘り葉掘り聞かれるかもしれない。

 プラノに感謝しながらも、バルムダの肩を揺すって起こす。


「ん? ここはどこだ?」

「危なかったな。魔物に襲われて気絶していたんだ」

「そ、そうだったか? まあいい、素晴らしいものを発掘したんだ!」


 しまった、今もクレーターの周りには炎が渦巻いている。

 どうしたものかと迷っていると、何かを引きずる音が近づいて来る。


「持ってきた」


 振り向くと、ミキナが強引に引きずってきている。

 どうやらバルムダが発掘した古代文明の物らしい。

 一見するとミキナの背丈以上に大きな筒状の金属の塊だ。


「おお! それだよ! それ!」

「先生~。早速開けてみましょう~」


 ワクワクしながらも古代文明のよくわからない筒へと二人は近づいていく。

 欲丸出しの顔は、学者というよりも盗掘者にしか見えない。

 そんな二人を見ていると、またもや嫌な予感しかしなかった……。

如何でしたか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ励みになります。


それでは今後ともフォルス達の活躍をお楽しみに。

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