第四章「冒険者と賞金稼ぎは仲が悪い」その2
旅路にて奇妙な物を発見したフォルス達。
そんな彼らの前に現れた唐突に男が現れる。
果たしてどんなことが起こるのでしょうか?
その男はやっと呼吸が落ち着いたのか、こちらの様子を伺いながらも喋り出す。
彼の身に着けているツナギは泥で汚れ、手にしたスコップもまた労働を強いられているらしく土にまみれていた。
「き、君達! それは危険だ!」
男は分厚いレンズのメガネをしており、目が隠れているせいか表情が読みにくい。
顔は痩せているが、レンズの奥から時折覗かせる強い光が飢えた狼を思わせる。
この男は親切心で言っているのか、はたまた俺達を欺こうとしているのか。
「あんたは?」
「私はバルムダ。考古学者バルムダだ!」
「学者?」
ここまで偉そうに自己紹介をするとは。
心の中で半歩程退くと、バルムダは声高に叫ぶ。
「如何にも! 私の名は学術都市ジロフェンでも一目置かれている!」
「ジロフェン……」
サラナトゥス大陸七大都市の一つ、学術都市ジロフェン――。
文字通り学術に秀でた特色を持っており、学者達の聖地とも呼ばれている。
「それは凄いですの!」
「そう! 凄くて偉いのだ!」
バルムダは鼻高々といった様子で笑う。
しかし、俺は知っている。
学問には当然ながら様々な分野がある。
考古学はメジャーな部類だろうが、俺の知る限りでは薬草学や魔物学は独自性なんていうのもある。
だが、やはり一番人気なのはオマアビについて研究するオマアビ学か。
いずれにせよ、皆自分が一番優秀だと思っており、ジロフェンはそんな変人共の巣窟なのだ。
「ところで一体何が危険ですの?」
「そこに埋まっている物は爆発する可能性がある!」
「爆発?」
急にそんなことを言われても。
どうにも胡散臭いため、すぐに信じる気にはなれない。
ただ、怪しげな金属の塊からは離れた方がいいだろう。
そう思っていると――。
「ハニー! 逃げますの!」
「ちょ、プラノ!?」
プラノに腕を掴まれ、その場から強引に引っ張られる。
凄い力であるため逃げ出すことも出来ず、傍から見ると母親が子どもを遠ざけているようにも見えるだろう。
強引に引っ張られた結果、件の謎の物体から離れることは出来た。
一安心、とプラノがホッとしている所にボソリと言っておく。
「痛かったんだが」
「え!?」
「昨日が肉離れで、今日が脱臼とかシャレにならないんだが」
「ご、ごめんなさいですの……」
しょんぼりしているプラノを見ていると彼女に一切の悪気はないのはわかっている。
だが、彼女は一般人の数十倍の力を持っている。
少し意地悪であるが、それだけは気を付けて貰いたかった。
「爆発しそうにないけど」
ミキナの一言を耳にしていると、バルムダは胸を張って言い返す。
「あくまでも可能性の話だ! 1%いや、もっと少ない確率かもしれないが爆発する危険性は否定できん!」
「おいおい、根拠はあるのか?」
「ある! その金属は古代文明のものだ!」
「古代文明か。魔王と勇者がいなかった頃の時代には、現代では再現不可能な技術で作られた品々があると聞いたことがあるな」
古代文明は未だに謎が多い。
当時人々はオマアビを持っていなかったとの逸話も残されている。
中々興味深い話だが、どうにもこのバルムダは胡散臭い。
「古代文明の物だから、爆発するの?」
「その通り! だから、私が発掘しよう!」
「安全に発掘するということか」
「否! 迅速な発掘こそ正義!」
「へ?」
こいつは思った以上にヤバイ奴なんじゃないか?
駆け出したバルムダを横目に、プラノの方に目線を向けると彼女は不機嫌そうな顔をしていた。
「サラナト教では過去の遺物は大切にしなさい、という教義がありますの」
「発掘そのものは問題ないのか?」
「金銭目的の発掘、特にお墓の盗掘とかは見過ごせませんの」
「そうか。墓ではなさそうだが……」
俺としてはこのままスルーしたくて仕方ないのだが、プラノの意思を無視するわけにもいかない。
そう思いながらもバルムダを追っていく。
奴に追いつくと、今もなお眠っている遺物に対してスコップを天高く振り上げていた。
「えっと、発掘するんだよな?」
「そう言ってましたの」
しかし、発掘というよりも攻撃を仕掛けるようにしか見えない。
踵を返してからとっさに口走る。
「に、逃げるぞ」
「うん」
全速力で逃げれば何とかなるだろう。
だが、そんな俺の考えは甘かったようだ。
後方から聞こえてきた轟音に戦慄を覚える。
幸いにも爆風は来なかったものの、面倒な気分を押し殺して振り向く。
有言実行する奴があるかと思ったが、目の前にあったのは俺が思っていたのとは何もかもが違っていた。
「え?」
辺りには土埃が充満し、それと同時に土の湿った匂いが鼻孔を刺す。
バルムダは無事なようだが、彼の目の前には大きなクレーターがぽっかりと開いていた。
クレーターの中心には目的の金属の塊があるのだが、驚くことに傷一つ付いていない。
「な、何が起こりましたの?」
「変だね」
あまりにも不自然な光景だ。
魔法を使って大穴を開けたとしても説明がつかない。
もしやと思い、一仕事を終えて背伸びをしているバルムダにこう問いかける。
「もしかすると、これはあんたのオマアビか?」
「その通り! 私のオマアビ『ナイストレジャー』の力! 迅速かつ強引な発掘が出来るという訳だ!」
バルムダは上機嫌な様子で叫ぶ。
いや、安全性はないのかよ……。
やはり危険な人物だと確信していると、こちらに向かって近づいて来る音が聞こえた。
恐らくは先程の音で感づかれたか。
二人にアイコンタクトを送って迎撃態勢に入る。
頭の中でどんな兵器を呼び出そうかと考えていると、音がこちらへとさらに近づいて来て――。
「先生~! もう、先に行かないで下さい~!」
やって来たのは見知らぬ茶髪の女性だった。
バルムダと同じくツナギを着ており、度が強い眼鏡をかけている。
年齢は十ほど離れているだろうか。
少し警戒しすぎたと反省しつつ女性へ話しかける。
「君は?」
「私はバルムダ先生の助手のロロコです~」
のほほんとした喋り方を見ていると、バルムダと違って信頼できるのは気のせいだろうか。
「大きな音がしたから急いで来たんです~」
「バルムダさんならばそこですの」
「そこですね~」
ロロコはバルムダの作り出したクレーターを見ている。
助手からしたら見慣れた光景なのだろう。
「先生~。ま~た、凄い物を見つけましたね~」
「おお、ロロコ君! 爆発する前に調査をするぞ!」
「ですね~。でも~。ちょっとマズイですね~」
「何がマズイの?」
ミキナの問いかけと共に、俺もバルムダの方に目をやる。
なるほど、マズイと言えばマズイ。
「まさか!? そろそろ爆発するのか!?」
バルムダはクレーターを背にして叫ぶ。
何故だ、何故そこまで爆発にこだわる?
「違います~。お客さんです~」
「そうか! 客か! ん!?」
客と言えば客かもしれない。
しかし、このロロコというのも単刀直入に言えばいいというのに。
少し、いやかなりマイペース過ぎやしないだろうか。
止むなく、俺は叫ぶしかなかった。
「後ろに魔物がいるぞ!」
「な、何だとぉう!?」
そう、バルムダの背後に魔物が迫っていた。
どうやら、クレーターを作った際の衝撃で怒らせてしまったようだ。
その魔物は長細い身体をしており、その外見は頭部に螺旋状の角を生やしたミミズといったものだ。
「ちっ、あれはクレイイーターだ。面倒なものだな」
「全くですの」
「うん」
バルムダに関わらなければこんなことにならなかったのかもしれない。
何だったらこのまま何食わぬ顔で逃げるという選択肢もある。
だが、そんなことをしたら後味の悪い人生を過ごさなくてはならなくなる。
――今日も苦労したけど、良い一日だった。
せめて、そんな感想を抱きながらも就寝してやるか。
どうせ、これからも飽きるぐらいに苦労が続くのだから……。
またも急な魔物の出現。
フォルス達はどう立ち向かうのでしょうか?
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それでは今後ともフォルス達の活躍をお楽しみに。




