第四章「冒険者と賞金稼ぎは仲が悪い」その1
今回から第四章が始まります。
フォルス達の冒険を見守っていただければ幸いです。
「ハニー? 大丈夫ですの?」
「ああ、大丈夫だ」
プラノはじっと俺を見つめている。
間近で見ると瑠璃色の瞳というのは綺麗なもんだ。
俺のくすんだ鈍色の瞳とは大違いだ。
「よく眠れた?」
「おかげさまで」
ミキナもまたこちらを見つめてくる。
そんなに見つめられると、こっちも困ってしまう。
昨日はよく眠ることが出来たようだ。
そのせいか朝までぐっすりと爆睡してしまった。
二人に申し訳なく思いながらも、今は三人で宿の食堂で食事をしていた。
「それにしても、この魚のフライ美味しいですの」
「本当だね」
二人して仲良くフライを食べている様子を眺めつつもちらりと周囲に目をやる。
俺達と同じように朝食を摂っているのは身なりからすると商人だろうか。
なるほど、東にも街はあるし、西には貿易都市アラゾールがある。
意外にもこの村は商人達の休憩場所として重宝されているのかもしれない。
「二人とも食べながらでいいから聞いてくれ」
俺の言葉に対して、二人ともこくこくと頷く。
「これから向かう先はメイル村の東にあるシルガという街に行く」
「距離はどれくらい離れていますの?」
「徒歩だと大体三日はかかるな」
「遠いんだね」
「夜営をしなければならないのが問題だな」
と言ってみるものの、今の所夜営する際の備えも万全だ。
魔物除けの結界は結界内にいる限り外にいる魔物から認識されないという方式を取っている。
魔物がこちらを認識した際にハイレベル化現象が起きていることを踏まえると、夜間に魔物に襲われるという心配もないだろう。
「そして、目的はシルガの南にある美食都市レマルグだ」
「レマルグ!?」
プラノが大きな声を出したため、宿にいる皆の注目を集めてしまう。
水を打ったように静まり返った周囲を目にして、彼女は起立してから頭を下げる。
「ご、ごめんなさいですの」
プラノがしずしずと席へと座り直したのを確認してからミキナが小声で尋ねて来た。
「どんな街?」
「その名の通り、美味しい食べ物がいっぱいある街ですの」
「凄いね」
「一度行ってみたかったですの~」
目を輝かせながらも、プラノはフライを平らげる。
身体が小さいのに思った以上に食べるもんだ。
「観光に行く訳じゃないんだが……。人口が多い以上、もしかしたら魔王に関する情報が手に入るかもしれない」
「人ある所に情報ありですもの!」
「そうだよね」
ミキナも興味津々といった様子でこめかみのアンテナを揺らしている。
「まあ、美味しい物を食べてもいいだろうが……」
「お財布には気を付けないといけないですの」
「あ、ああ……」
旅で注意すべきなのは魔物だけでなく、様々な誘惑も含まれているということだ。
くれぐれも堕落しないように気を付けねば。
食事を済ませた後、部屋の荷物を持ってから宿を出る。
涼しい朝風が一日の始まりを爽やかに告げる。
今日も面倒で厄介なことがあるだろうが、幾分か気が楽になったかもしれない。
「向かう前に一応情報収集はしておかないとな」
「ハニー。その点は大丈夫ですの」
「それはどういう意味だ?」
プラノは鼻息を荒くして自信満々だ。
それが逆に不安で仕方ない。
そんな雰囲気を察してか、ミキナがこう伝えてくれた。
「昨日、フォルスさんが疲れていたから代わりに情報収集した」
「え、そうなのか?」
「うん」
情報収集もそんな簡単に出来るものだろうか。
第一、人が集まる場所も限られているし、日が暮れてからは誰も彼もが家に帰るだろう。
となると――。
「まさか、酒場に行ったのか?」
酒場ならば一仕事終えた村人達が集まっていてもおかしくない。
正解だと思っていたが、プラノは俺に対し笑みを返す。
意地の悪い笑みを見ていると、どうにもその頬を抓りたくなってしまう。
「ふふん。ハニーもまだまだですの。情報収集は教会に限りますの」
「教会?」
「サラナト教徒として迷える民を救うための冒険をしていると言えば納得していただけますの」
「なるほど」
「そして、何か困っていることや変なことが起きていないかを聞きますの」
これは盲点だ。
わざわざ酒場の酔っ払いどもから一々聞き出すよりも効率的だろう。
村人達が心配事の相談を神父にしているだろうし、怪我の治療も教会で行っている以上魔物の出現や何かしらの危険な情報をいち早く掴むことが出来る。
「この村の神父さんに聞きましたが、周囲で変な魔物は出ていないですし、魔王に関する情報もさっぱりですの」
「まあそんなもんだよな」
地道に旅を続ける他ないということか。
まあ、簡単に魔王に関する手がかりが見つかっても怪しいだけだ。
「では、出発しようか」
「はいですの」
「うん」
村の門を出て街道沿いを東へと進んでいく。
この先も特段厄介な魔物は出ないはずだ。
危険な魔物が出る場所には看板で『魔物注意!』という警告や、朽ちた武具が落ちていたり、物言わぬ白骨がそれとなく教えてくれることもある。
魔物の集団行軍にさえ運悪く出くわさなければ問題はないだろう。
昨日の痛みも大分引いたためか、足取りもどこか軽い。
何事も起こらないまま時間が過ぎていき、実に贅沢な時間を過ごしているものだなと自覚してしまう。
プラノとミキナも暇そうにしている。
緊張感の切れた瞬間というのは危険ではあるものの、毎度緊張していたらそれこそ疲れてしまう。
ミキナは道端に咲いている花や虫を見る度にプラノへ尋ねている。
プラノは嫌がる様子もなく丁寧に答えており、普段から子どもの扱いに慣れていることがよくわかる光景だ。
そしてミキナが今度は俺に質問してくる。
「シルガの街ってどんな場所?」
「そうだな……。バウンティハンターギルドがあって、教会があって、鍛冶屋に名工がいて、あとは――まあそんなもんだ」
他に何かあったような気がするが、思い出すのにも時間が掛かりそうなので誤魔化しておく。
「ギルドがありますの?」
「ああ。規模はアラゾールと比べると小さいがな」
「賞金稼ぎさんがいるんだね」
「もしかすると、面白い情報が聞けるかもしれないな」
賞金稼ぎは癖の強い連中の宝庫だ。
そういった連中だからこそ、とっておきの情報の一つや二つをもっていても不思議ではない。
「ただ、それなりの対価は必要かもな」
「お金ですの?」
「美味い酒とか、面白い話とかだな」
「それはそれで難しそう」
「まあな」
癖が強いからこそ、情報を引き出すのも苦労するに違いない。
そう思うと最後の手段として考えておくべきか。
その後も特段トラブルもないまま前進を続ける。
プラノのハミングに耳を傾けながらも、そろそろ昼休憩にしようかと考える。
ちょうど休めそうな木陰もあるし、昼食には持ってこいの場所だ。
「二人とも、休憩にしようか」
きっと喜んだ反応が来るだろう。
そんな俺の予想は外れ、二人はじっと何かを見つめている。
「どうした?」
何があったのか。
魔物が出現したのならばもう少し慌てているだろう。
「ねえ、あれ何?」
ミキナが指差したのは地面だった。
街道から離れた場所にある地点で、雑草に覆われていた。
目を凝らしてみると何かの金属の塊らしい。
埋まっていた物が雨によって土が流されたのだろうか。
自然の産物でないのは明白だが、それが何故埋まっていたのか。
「近づかない方がいいだろう」
「ハニーは気になりませんの?」
「新手の魔物の類かもしれない。奴らは人間の好奇心すらも利用するからな」
「そ、それは嫌ですの……」
「金になりそうな物が簡単に手に入る程世の中楽じゃないさ」
ただでさえ現在進行形で運を擦り減らしている以上、運の無駄遣いをするつもりもない。
二人を木陰へと誘導しようとしたその時だった。
「ん?」
何やら街道の向こうから走ってくる。
片手にはスコップを持ち、左手には地図らしき物を手にしている男性だ。
「ちょっと待ったー!」
男性は大きく叫んでから息を切らしてしまったらしく、その場で膝立ちとなって荒い呼吸をしていた。
一体、何が何やら。
プラノとミキナの二人も俺と同じようにキョトンとしている。
どちらにせよ、一つだけわかっているのが――。
「また面倒事か……」
うんざりとしながらも、自分の運命を受け入れるしかないようだ。
どうか、とっとと終わりますようにと心の中で祈りながらも。
果たして、唐突に現れた男の正体とは?
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それでは今後ともフォルス達の活躍をお楽しみに。




