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第三章「前途どころか全部不安な旅路」その8

道中巨大な鳥の魔物に襲われながらも、何とかメイル村へと辿り着いたフォルス達。

何もトラブルがなければよいのですが……。

 移住するならばこの村という新聞の特集を見たことがある。

 最近の若者の間では平穏な村が好まれているようで、魔物に襲撃されないというのが条件の一つでもあった。

 今から向かうメイル村の名前は特集には書かれていなかったが、魔物に襲撃されない保証というのは誰がしてくれるのだろうか?

 たまたま運が良くて魔物に狙われていないだけかもしれないし、もしかすると人間が集まった絶好のタイミングを待っていることだってあり得る。

 メイル村を見ていると村の周囲は木製の柵で囲われており、おまけに有刺鉄線が巻き付けられている。

 そして、村の出入り口には門番らしき男がいる。

 当番制なのだろうか、どこか退屈そうな視線でこちらを見ている。

 門番に対して旅の者だと告げるとあっさりと村の中へと通してくれた。


「簡単に入れますのね」

「プラノのおかげかな」

「ワタクシ、ですの?」

「ああ」


 トゥニカを身に纏ったプラノはどこをどう見てもサラナト教の修道女だ。

 怪しげな態度や不審な物を持ってさえいなければ咎められることもないだろう。

 ただ、大きな町となると話は別かもしれないが。


「凄いんだね」

「ふっふっふ。これも日頃の行いのおかげですのよ」


 それは羨ましいものだ。

 俺も日頃から善行に励めばよかったのだろうか。

 教会で行っている募金活動に協力していればもう少しマシな生き方が出来たかもしれない。


「で、どうするの?」

「今日はもう遅いから宿で一泊だな」

「了解ですの」


 小さな村ではあるものの教会は勿論のこと宿屋から雑貨屋、それに借馬屋までも揃っている。

滞在するには便利だなと感心しながらも、宿屋へと向かう。

 扉を開くと幸いなことに滞在客は少ないらしく、ロビーは静かなものだった。

 壁には『来たれ! 秋のメイル川鮭祭り!』と書かれた張り紙が貼られており、秋の頃になると観光客で賑わうのだろうか。

 受付に視線を向けると、そこには宿の女亭主がいた。


「いらっしゃい。一泊?」

「ああ。部屋を二つ頼む」

「はいよ。これ、二階の201号室と202号室の鍵ね」


 宿代を支払ってから鍵を二つ受け取り、階段を上って二階へ向かう。

 その最中、ミキナがポツリと尋ねて来た。

 

「どうして二つ部屋を借りたの?」

「そりゃあ、俺が一部屋、プラノとミキナで一部屋だからな」

「だから、どうして?」

「り、倫理的な問題ですの! 紳士的なハニーでも、夜は危険ですの!」

「誤解を招くような言い方はやめてくれ……」

「部屋代が勿体ないと思っただけ」

「それはそうかもしれないが……」


 これから先の旅も宿代で浪費することになるのだろう。

 それは仕方ないとしても、路銀を稼ぐ方法を早めに考えておかなければ。


「俺は部屋で休むが二人はどうするんだ?」


 202号室の鍵をプラノに渡すと、彼女は嬉しそうな顔でこう答える。


「部屋に荷物を置いてから村を散策してきますの!」

「面白そう」


 そんな訳で二人は持っていた荷物を部屋へと置くと、楽しそうな足取りで宿の外へと飛び出してしまった。

 今日はとんでもない化け物と戦ったというのにあんなに元気だとは。

 若いとは羨ましいもんだなと思いながらも、201号室の扉を開ける。

 室内へと入ると、ベッドと鏡台、それにクローゼットが出迎えてくれた。

 質素ながらも中々いい部屋だ。


「ん?」


 鏡台の隅に鮭の上半身と人の下半身を組み合わせた得体の知れない人形が置かれていた。魔物かと思ったが、恐らくはライン村のマスコットの類だろう。

 しかし可愛いかと聞かれたら、コメントに困る造形だ……。


「寝るかな」


 体の節々が痛み、その中でも一番痛いのは頬だ。

 今も火傷でもしたかのような痛みがズキズキと疼いている。

 ベッドの上に身を投げてから天井を見上げてみる。

 綺麗な木目を暫く眺めてみるも、中々眠気が訪れそうにない。

 疲弊した身体は休みたくて仕方ないというのに。


「参ったもんだよ」


 プラノもあと少し手加減してくれてもいいような。

 まあいい、俺にはピッタリの役回りなのだから。

 それにしてもどうしたものだろうか。

 暇なので、何か時間潰しでもしよう。

 心の中で念じていると、いつもの声が聞こえた。


『サーバー【ヴァルカン】にアクセス――』

「兵器の検索をしたい」


 口に手を当てながらも小声で呟く。


『検索するワードをお伝えください』

「ああ」


 使用できる兵器の検索が出来るというのも俺のオマアビの大きな利点だ。

 ガキの頃は時間さえあれば色々と聞いていた。

 だが、中々融通が利かないのが欠点でもある。


「サーバー【コー・ラシー】について教えてくれ」

『一致する兵器は見つかりませんでした。別のワードをお試しください』


 サーバー【コー・ラシー】――。

 少なくとも兵器の類ではないということか。

 折角時間があるのだから他にも聞いておこう。

 しかし、何を検索しようか。

 暫く考えてから、小さく呟いた。


「じゃあ、悪夢と破滅のロマンチカ」


 反応がないか。

 そう思っていた次の瞬間だった。


『一件ヒットいたしました』

「え?」


 まさかヒットするとは。

 いや、でも待ってくれ。

 俺の考えではサーバー【ヴァルカン】では悪夢と破滅の何たらは呼び出せないだろう。

 じゃあ、何でヒットしてしまったのか。

 固唾を飲んでから、さらに尋ねる。


「詳細を教えてくれ」

『はい。悪夢と破滅のロマンチカは元々対超弩級銀河戦艦用一撃決着兵器としてハンダウルにて製造されました』


 兵器についての検索が出来るのはよいのだが、言っていることがさっぱりわからない。

 そもそも、ハンダウルとはどの場所だろうか?

 少なくとも俺の知っている街や場所の名称ではない。

 ともかく、超弩級戦艦ということはとんでもなくデカイ船を差しているのは俺でもわかる。


 ――理論上は直撃すればどんな機械や生物も一撃で葬ることができるの。


 ミキナの言葉がそっくりそのまま蘇る。

 戦艦となると当然砲台は積んでいるだろう。

 大型ともなると当然護衛艦がオマケでついて来る。

 それらを何とか対処した上で戦艦に接近し、射出に時間の掛かるやたらに長い名前の杭を叩き込まなければならないと考えるだけで眩暈がしてくる。


「つ、続けてくれ」

『該当兵器の特徴はそれまでハンダウルで主流となっていたエネルギー兵器や魔導兵器に暗黒魔術を組み合わせた点です』

「あ、あんこくまじゅつ?」


 聞くからに物騒な印象しかないものをぶち込んでしまったという訳か。

 それもロマンのためだというのか。

 やはり、俺の知っているロマンとはまるで次元が違っている。


「暗黒魔術とは古来より呪術師が死者の怨念を利用して遠方の者を呪殺する――』

「わかった、わかったから。要はオカルトチックな要素を組み込んだということだろ?」

『リスクとしては乙式超呪詛塊骨杭の射出時に、周囲の呪怨媒介物質と連鎖反応を起こします。これにより呪詛が拡散することで呪怨放射被曝による死者が発生。死者が更なる呪詛物質を周囲へと拡散させ――』

「いや、もっとわかりやすく説明してくれると非常に助かるんだが……」


 暫しの沈黙。

 少し我儘なリクエストだったろうか。

 昔はわからないことがあれば辞書を片手に調べたものだが、恐らく呪怨うんたらかんたらの単語はサラナトゥス大陸中の辞書を探しても見つかりはしないだろう。

 すると、意外な言葉が返ってきた。


『要するに怨念で死者が発生すると、その死者を起点として更に被害者が増えます。その結果、ハンダウルでは人口の九割が死亡しました』

「きゅ、九割……?」


 本来ならば船を破壊する兵器だったのだろうが、悲惨な結果を引き起こすことになるとは。

 屍が屍を呼ぶ光景が脳内に浮かび上がる最中、声はさらに続けてくる。


『その後、悪夢と破滅のロマンチカを兵器としてデータ化し、サーバー【ヴァルカン】にて保存』

「え!?」


 ――それはおかしいだろう!?

 とっさにそう叫びたかったが、言葉が喉から上手く出なかった。

 だが、声は淡々とこう続ける。


『再判定により既定以上のルイパから終極武装として認定。サーバー【コー・ラシー】に移管』

「な――!?」


 空いた口が塞がらなかった。

 ルイパとやらが何なのかわからないが、悪夢と破滅のロマンチカが【ヴァルカン】に一時的に保存されていたからこそ、今俺が検索出来ているようだ。


「で、結局サーバー【コー・ラシー】って何なんだ!?」


 興奮か、それとも焦りのせいか。

 荒げた声が室内を虚しく反響する。

 だが返ってきたのは無情な一言だった。


『禁則事項につきお答えできません』

「おいおい」


 どう足掻いても教えてはくれないようだ。

 ミキナに直接聞くべきか?

 いや、簡単に教えてくれるだろうか……。


『他に何か検索いたしますか?』

「や、やめておく」


 謎がますます深まったといった感じだ。

 昔読んだ推理小説を思い出す。

 舞台は田舎町で、殺人鬼が村人を殺めていくといったものだ。

 殺人鬼の正体がわからないまま、次から次へと犠牲者が出てくる。

 犯人は巧妙に正体を隠しているらしく、アリバイに関するトリックが鍵のようだった。

 小説の冒頭にはご丁寧に『オマアビによるトリックは一切ございません』と書いてすらもいた。

 悔しい気持ちでページを読み進めるしかなかったあの無力さを思い出しながらも、再度天井を見つめる。

 そこに答えが書いてあるわけもないというのに。

 ただぼんやりと眺めていると、都合よく眠気がやって来た。


 それにしても、前途多難とはよく言ったものだ。

 正直、何から何まで上手くいく気配がしない。

 魔王を見つけてハイレベル化現象を解消出来たとしても、果たして無事に帰れるのだろうか。 

 一番気にしているのは、また俺は賞金稼ぎとして平穏な生活が送れるかどうかだ。

 全てが不安で、今すぐにでも逃げ出したい気分を押し殺しながらも眠りへと就く。

 明日の予定はどうするか。

 そんなことがどうでもよくなって、今は何もかもをぶん投げてひたすら惰眠を貪ることにしよう――。


第三章 完

これにて第三章は完となります。

予告となりますが、第四章は冒険者が登場する予定です。

これから先どんな運命がフォルス達を待ち構えているのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ励みになります。


それでは今後ともフォルス達の活躍をお楽しみに。

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