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第三章「前途どころか全部不安な旅路」その5

終極武装「悪夢と破滅のロマンチカ」

果たして、どんな力を持っているのでしょうか?

そして、無事にフォルス達は巨鳥に勝てるのでしょうか?

 ミキナはどうしてあそこまで無茶をしてくれるのだろうか。

 自暴自棄になっているような気がしてならない。

 そうだ、早く彼女を助けなくては。

 そう思いながらも、俺は「ばずーか」の引き金を引いた。

 

「喰らえっ!」


 発射音と共に弾頭が真っ直ぐに巨鳥の眼前へと向かっていく。

 それに気が付いた巨鳥はすかさず回避するも、その瞬間を見計らって再度引き金を引く。

 一発目は当て損ねたが、二発目は奴の顔面へと命中する。

 直撃したその瞬間、爆発と共に膨大な光が辺りを埋め尽くした。


「なるほど~。閃光弾か~」

「ああ。普通の兵器ではかすり傷すら与えられそうにないが、閃光弾ならば怯ませることは出来る」


 間近で目にした閃光は強烈だったろう。

 巨鳥は苦しそうな鳴き声を上げ、背中にいるミキナのことを忘れて悶えている。

 

「今がチャンスか」


 しかし、ミキナの様子がおかしい。

 何やら巨鳥の背中に付着していた蔦に足を取られているようだが――。


「まさか、あれは魔物か!?」


 なるほど、あれだけの巨体だから魔物が住み着いていてもおかしくない。

 植物の魔物だけでなく、丸々とした虫も新たに出現している。

 どうにも宿主の血を吸って肥え太ったダニに酷似した魔物らしい。

 面倒なことにどいつもこいつもハイレベル化現象の影響下にある。

 ミキナは絡みついた蔦を強引に素手でねじ切り、虫を蹴りの一撃で黙らせるも如何せん数が多い。


「どうするか……」

「ハニー! ここはワタクシにお任せ下さいですの!」


 プラノはいつの間にやら弓に矢をつがえていた。

 よく見ると弓は聖人の遺髪で出来ており、乳白色の光を放つ矢はプラノの魔力で構成されているようだ。

 プラノの隣にいつの間にやら人影が立っていた。

 誰だろうと思い顔を覗いてみると、ぼんやりとした灰色の光を放っており、生きた人間ではない。

 プラノが構えている弓を支えている点から、ヘリテという名の聖人のようだ。


「いきますの!」


 声高に宣告しながらも、プラノはつがえた矢を放つ。

 放つのはいいのだが、狙いは巨鳥ではなく垂直方向、つまり何もない空へ向けられていた。


「フォル君、フォル君。これはツッコミ待ちだよね? そうだよね?」

「落ち着いてくれ……」


 デウっちの言いたいことはわかるが、ここはプラノを信じよう。

 高く飛んで行った矢はそのまま青空の一部へと溶け込んでしまった。

 唖然としながらも一旦「ばずーか」を返却していたその時だった。


「お?」


 デウっちが空を見上げたので、俺も同じように天を仰ぐ。

 ちょうど巨鳥の真上に、先程はなかった光を放つ球体が浮かんでいた。


「あの光の玉は……? ん、プラノ?」


 声を掛けるも返事がない。

 妙だなと思ってプラノの方に目線を向けると、ぐらりと倒れ込んでくる。


「プラノ!?」


 慌てて抱きとめると、いつの間にやらヘリテの姿が去っていることに気が付いた。


「力を使い切ったか……」


 さっきの矢はそれほどまでの力を持っていたのだろう。

 目を回しているプラノを介抱していると、デウっちが巨鳥の方を見ながらもこう言った。


「ほへー。なるほどね~」


 何を納得しているのだろうか。

 見てみると、ミキナを取り囲んでいる魔物達から白い煙が上がっていた。

 何の予兆だろうかと思っていると、突如魔物達の身体から火の手が上がる。


「燃えている? あの光の玉の力か?」


 ミキナも驚いて足を止めている。

 魔物達も何が起こったか理解できないだろう。

 白い炎は容赦なく魔物達を包み込む。

 一瞬にして灰と化す灼熱の抱擁は美しく、だがこれ以上ないほど無慈悲だ。


「魔物だけを燃やし尽くす光か」

「おっどろきだね~」


 当然魔物である巨鳥もまた燃え上がり始める。

 奴が熱さで苦しむ中、その背中をミキナは駆ける。

 頭部を目指しているらしいが巨鳥はその動きに感づき、何をするかと思ったが――。


「急降下だと!?」


 巨鳥は頭を地面へと向け降下を開始した。

 もしや、ミキナを強引に地面へと叩き落とすつもりか、それとも捨て身となってミキナを倒すつもりか。

 いや、それよりも巨鳥は俺達の方へ向かっている。

 俺も逃げないとヤバイ。


「ミキナ! すまない!」


 ただ、彼女の名前を呼ぶことしかできない。

 プラノを抱きかかえたまま全力で走る。

 俺が必死に逃げる最中、デウっちは何故か逆立ちで俺を追いかけてくる。

 そして、余裕で俺を追い越す辺りは流石に腹立たしい限りだが構っている余裕はない。

 後ろを振り向くと、ミキナは勇猛果敢に突き進んでいた。

 巨鳥の後頭部へと辿り着くと、終極武装を構える。


* エネルギーチャージ完了


「ミキナの声?」


 凛とした声に、思わず足を止めそうになる。

 距離的に届くのが無理なはずなのにどうして聞こえたのだろうか。


「それはね、おれっちの通信機のおかげなんすよ」


 通信機というのはデウっちが手にしているものだろうか。

 四角く、ミキナが「どろーん」を操作していた時に持っていたカラクリとどこか似ていた。

 それよりも気になるのが、そんな彼が俺に並走する形で兎跳びをしていることだ。

 何で兎跳びをしているのか。

 着地の衝撃がこっちまで響いて危ないというのに。

 この自由奔放な機械仕掛けの神を止める方法はあるのだろうか。


* ターゲットロックオン

* 第一封印弁解除

> !呪怨物質が大気中へ流出します!

> 閉鎖空間内での使用は大変危険です。使用者にも害が及びます!


 ミキナの手にしていた終極武装の部品の一部が吹き飛ぶ。

 封印弁とやらだろうか。


* 第二封印弁解除

> !警告!

> 周囲に呪怨媒介が存在する場合、連鎖反応を起こします

> 使用前に必ず周囲の状況を確認ください。繰り返します、必ず周囲の状況を――


「な、何だか恐ろしいことを言っていないか?」

「でぇじょうぶだって。この辺りが死体の山とかだったら、周辺地域が草一本すら生えない死の土地になっちゃうけど~」

「さらっと恐ろしいことを言わんでくれよ……」


 それよりもミキナは自分にまで害が及ぶかもしれない終極武装を使っているということか。

 彼女のことを心配していると、またもや通信機から声が聞こえる。


* 最終封印弁解除

* 乙式超呪詛塊骨杭射出まで、あと十秒


「十秒!?」


 後ろを振り向くと、あとわずかで巨鳥が地面へと激突する。

 十秒と言われたら俺だったら間違いなく逃亡するだろう。

 だが、ミキナは逃げようともしない。

 与えられた使命を淡々とこなすその様子を見ていると、寂しさすらも感じてしまう。


* 十、九……


 ミキナは終極武装を構えたまま、射出体勢を取り続けている。

 カウントが進むに連れ、暗い霧が彼女の周りに集まり出した。

 まるで夜の一部分を切り取って張り付けたかのような暗闇で、今もなお巨鳥を焼き続けている白い炎すらも飲み込もうとしていた。

 だが、異様な光景に見とれている余裕はない。


「に、逃げられるか!?」

「ったく、しょうがねえっすなぁ~!」


 舌打ちと共に、俺の身体が宙に浮く。

 いや、デウっちが俺の首根っこを掴んだのだ。

 そして、有無を言わせず俺とプラノを強引に担ぎ上げた。

 

「悪いけど、これ持ってて!」


 そう言いながらもデウっちは俺に通信機を渡してくる。

 画面には何も映っていないが、炎がバチバチと燃え盛る音が聞こえてきた。


「すまない!」

「本当はさ~。人の運命を変えるというのは禁止されているんだよね~。でも、これは筋トレをしているだけだからさ~!」

「そ、そういうことだよな」


 デウっちは驚異的な速度で駆ける。

 間違いなく馬よりも速く、あっという間に巨鳥との距離を離していく。

 背後からは巨鳥は断末魔にも似た鳴き声が聞こえた。

 悔しさのあまりか、それとも熱で苦しんでいるのか。

 いずれにせよ、無駄な足掻きにしか過ぎない。

 死のカウントダウンはもうあとわずかなのだから。


* 三、二、一……

* 射出


 その瞬間だった。

 悲鳴が聞こえた。

 一人ではない、沢山の悲鳴だ。

 地の底の底から響いてくるような、おぞましい声の群れだ。

 活気のない罵声と表現すればいいのか、恨みや妬みのドロリとした感情が耳道へと流れ込んでくる。

 耳にしているだけでも意識がどこかへ飛んで行ってしまいそうで、自身の下唇を強く噛むことでどうにか意識を保つ。

 ふと、鳥の鳴き声が聞こえた。

 肺の奥から強引に絞り出した長く、細く、そして弱々しい声だった。

 最期の一鳴きといったところだが、呪いの声によって虚しくかき消されてしまう。

 やがて、呪詛の合唱も終わったのか急な静寂の訪れに安堵のため息をつく。


「終わったのか……」


 ずっと昔、死についてじっと考えたことがある。

 死んだら人は自分という存在はどこへ行くのだろう。

 どんなに考えても、その答えはわからなかった。

 もしかすると、その答えとやらがわかるかもしれない。

 そう、少し後ろを振り返るだけでいい。

 だが、どうにも首が動かない。


「ん?」


 デウっちが無言で俺とプラノを地面へと降ろす。

 そして、無言のまま俺から通信機を受け取ると、一瞬にして影すら残さず消え去ってしまった。


「デウっち……」


 せめて、お礼ぐらい言わせてくれ。

 そう思っていると、背後から誰かの足音が聞こえてきた。

 恐る恐る振り向くと、そこにはやはりミキナの姿があった。


「勝ったよ」

「ミキナ。お疲れ様」


 彼女の頭を撫でつつも、俺は見てしまった。

 あれだけの存在感を放っていた巨鳥がどこにもいなかった。

 時代が時代ならば崇拝の対象となっていてもおかしくはなかった。

 魔物でさえなければ、俺もあこがれのような感情を抱いていたかもしれない。


 ――悪夢と破滅のロマンチカ。

 舞台の演目のような名前の付けられた終極武装だが、そのおぞましさに改めて寒気を覚える。

 これからの戦いにおいても、恐らく終極武装の出番が必要となるかもしれない。

 ただ、出来れば使って貰いたくないものだ。

 ミキナの心が壊れてしまいそうな、そんな嫌な予感が頭から離れそうになかった――。

何とか勝てましたが、この先も辛い戦いが続くのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ励みになります。


それでは今後ともフォルス達の活躍をお楽しみに。

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