第三章「前途どころか全部不安な旅路」その4
プロローグ以来の終極武装が登場!
さて、どんな物騒なものが出てくるのでしょうか!?
何となく嫌な予感がしていた。
所謂虫の知らせという奴だろうか。
俺の身体のどこかにいるであろうその虫は、どうにも嫌がらせが好きで仕方ないようだ。
「ハ、ハニー!? 新手ですの!」
「いや、大丈夫だ」
ああ、そうだ。
目の前にいる大男は何とも言えない威圧感を放っている。
小さい子が見たらきっと泣き出すか、あるいは度胸試しに彼の身に着けている錆色のトガを意味もなく引っ張るかのどちらかだろう。
そう彼こそがミキナの父であるデウっち――デウス・エクス・マキナがそこにいた。
しかし、父と娘が出会ったというのに挨拶もない。
感動のハグをしろとまでは言わないが、せめて何か一言はあってもいいのではないかとは思ってしまう。
そして肝心のデウっちが無言でその場に突っ立っているのも酷く不気味だった。
手には何やら文字の書かれた札を手にしており、口を貝のように閉ざしている彼はどこかの金持ちの庭に飾られているオブジェのように思えてしまう。
「使っていいみたい」
「いいのか」
デウっちの持っている札にはそのように書かれているらしい。
ストレートに伝えられないのには何か意味があるのだろうか。
「呼び出すね」
少女は歌う。
その儚い声色は悲劇の渦中にいるヒロインを彷彿とさせるのだが、どこか嵐の前の静けさを暗示しているように思えてならなかった。
* サーバー【コー・ラシー】にアクセス
「コー・ラシーですの?」
「ああ。俺がいつも使っているヴァルカンとは別のものらしい」
* 禁忌領域解除
* 質量・物理法則:無効
> !警告!
「ん?」
突如聞きなれない声が頭の中に響く。
プラノにも聞こえたらしく俺の袖を引っ張ってくるも、小さく肩を竦める他なかった。
> 世界[エルペイダ]の管理者権限の許可が必要です
エルペイダとはこの世界の名称だ。
その管理者となると、この世界を創造した神サラナトだろうか。
> 管理者とのコンタクトを実行します
> 実行中……
> 実行中……
> エラー
> 管理者とのコンタクトに失敗しました
「失敗?」
となると使用できないのでは。
しかし、ミキナは気にすることもなくこう続ける。
* 緊急プロトコルを開始
> 警告
> 使用状況に基づき、魂魄循環機能に重大な支障が生じる場合があります
> それでもよろしいですか?
淡々とそして事務的に恐ろしいことを告げてくる。
死刑を宣告する裁判官ですらもう少し優しさがあるというのに。
ミキナはどうするのかと思っていたが、彼女の表情は少しも揺らがない。
* プロトコルを続行
* 通信速度やや低下
* 代替元素:誤差2.8%
* ダウンロード完了
* システム:オールグリーン
唱え終えたその瞬間、ミキナの前に武骨な金属の塊が顕現した。
前回呼び出した槍と比べるとかなり小さいが、それでもこの世界にあるどの兵器よりも驚異的な存在なのだろう。
「これが終極武装ですの……?」
「そうらしいな」
なんと表現すればいいのだろうか。
全体像は『ばずーか』と『らいふる』を強引に組み合わせた造形だ。
しかし、見た目から判断できる重量からしても、双方の歩兵が携行して運用できるという利点が完全に台無しとなっている。
そして何よりも驚きなのが、杭のような物が装填されている点だろうか。
その杭というのも建築用の杭の数倍太く、そして骨のように真っ白だ。どことなく滑稽なデザインは笑いを誘うジョークアイテムと言えるかもしれない。
いずれにせよ、兵器としてのコンセプトが崩壊しているにも関わらず、見ているだけでも寒気を感じるのは何故だろうか。
もしやと思い、装填されている杭を注視してみると寒気の出所はこいつの仕業らしい。
杭には血のように赤い文字が刻み込まれ、どんな意味かはわからないものの知らない方が己の身のためかもしれない。
「ミキナちゃん、これはどんな兵器ですの?」
「理論上は直撃すればどんな機械や生物も一撃で葬ることができるの」
「ど、どんな生物もだって?」
「うん。行ってくるね」
ミキナは足早に巨鳥へ向かう。
その手には少女の身の丈以上の兵器を携えているにも関わらず、つむじ風を巻き起こす勢いで駆けていく。
「ミキナ! 無理はしないでくれ!」
「わかってるよ」
果たしてミキナ一人で任せていいのだろうか。
さて、次の問題は――。
「ハニー。この方はどなたですの?」
「ああ。それがミキナの父親のデウス・エクス・マキナだ」
「そう! いやあ、ブラザー! 元気~!?」
デウっちは手にしていた札を遠くへとぶん投げてから、俺の肩をポンポン叩いてくる。
「俺は元気だが、その……」
「ミキナちゃんと何かありましたの?」
「いいや、べっつに~」
デウっちは関係ないという態度を示すも、プラノは訝しげに彼の時計を模した仮面を覗き込む。
「なるほどですの。喧嘩しましたのね」
「え!? いやあ、そんなことないからね? ないもん!」
「大方、口も聞きたくない。とでも言われましたの」
「ふげげげげっ!? 貴様、何奴!?」
デウっちの驚き具合からして図星なのだろう。
プラノは胸を張ってこう言い返す。
「ふふん。ワタクシは修道女として市井の方々の色んな相談を受けますのよ!」
「どっひゃ~! それはたまげたぁ~!」
デウっちは大仰に驚いている。
何だろうか、このリアクションの古さは。
そんなことはともかくミキナは無事だろうか。
ちらりと見てみると、彼女は今まさに巨鳥へと挑みかかろうとしていた。
間近で見る巨鳥は羽毛に苔やら蔦が絡みついていたものの、その燃え盛る火のような瞳にはあからさまに敵意が宿っていた。
今までの生きてきた人生の中で間違いなく一番強い魔物だ。
魔王はこれよりも強いのだろうと思うと実家に帰りたくなるが、ここで逃げるほど俺はヤワではない。
「デウっち。ミキナを助けることは出来ないんだよな?
「俺っちもそうしたいんだけれどもね。力を無くした他にも行動が制限されちゃってさ~」
「それは辛いだろうな……」
「大丈夫さ~。うちのお姫様は最強で無敵で! そして可愛いんだから!」
「娘さん思いですのね。ハニー、ミキナちゃんを援護しますの」
「そうだな」
ミキナはというと助走からの勢いで、そのまま大きくジャンプした。
何という跳躍力だろうか。
大跳躍で一気に巨鳥の背中へと飛び乗ると、ミキナは終極武装を両手に抱えた状態でキョロキョロと辺りを見回していた。
「何かを探しているのか?」
「あれはさ、『悪夢と破滅のロマンチカ』って言ってね~。本来は超大型二足歩行式機械騎兵用であれの十倍以上は巨大だけども、ミキナが持っているのはその小型版なんすよね~」
「悪夢と破滅?」
「様々な呪術を組み合わせた文字通り一撃必殺の決戦兵器なんすよね~。ほら、まさにロマンの塊なんすよ!」
「物騒なロマンですの」
「ただ、どうしても乙式超呪詛塊骨杭の射出に時間が掛かってね~。それを敵の中心部にぶちこまないとダメダメなのよね」
なるほど、一発で敵を仕留められるのは便利だが、当てるのが難しいといったところか。
それにしても、俺の知っているロマンとどこか毛色が違うような……。
「ん!? マズいな、鳥がミキナを振り落とそうとしている」
巨鳥は翼を激しく動かし、その場で急旋回を開始する。
普通の人間ならばすぐに振り落とされるだろうが、ミキナは奴の羽毛にしがみつき、何とか堪えていた。
「あれでは落ちちゃいますの! では、ワタクシもいきますの!」
プラノは叫びながらも、自身の服から紙袋を取り出す。
その袋を開けると、そこには金色の櫛が納められていた。
「ん?」
プラノのオマアビは何度か見たことがあるものの、この櫛は初めて目にした。
櫛には灰色で長い糸が何本も巻かれている。
櫛を糸巻き代わりにしているのか?
よくよく考えてみると――。
「それは――そうか、遺髪を巻き付けているんだな!」
「そうですの! おいでませ、ヘリテ様!」
すると櫛に巻き付けられていた遺髪は生き物のように動き出し、プラノの両腕へと巻き付いていく。
「なにこれ、こわくね?」
「デウっち。心配しなくていい。これはプラノのオマアビだ」
プラノのオマアビであるグロリアス・オーダー――。
聖人は死してなお力を持っており、彼らを味方につけるというとんでもないものだ。
「おまあび? 知らんし」
「そ、そうか」
オマアビはデウス・エクス・マキナですら知っていない力ということか。
困惑しているデウっちを見ていると、オマアビは異端な力なのかと勘繰ってしまう。
「攻撃の準備に時間が掛かりますの!」
「わかった。では、俺もやってやるか」
巨鳥が激しく暴れ回る中、ミキナは必死に振り落とされないように耐えている。
『サーバー【ヴァルカン】にアクセス』
俺もまたプラノに負けじと兵器を呼び出す。
眼前に現れたばずーかを肩に背負い、その標準を巨鳥へと向けた。
まさかのデウっちも再登場です。
さて、フォルス達の戦いが始まります。
面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ励みになります。
それでは今後ともフォルス達の活躍をお楽しみに。




