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第三章「前途どころか全部不安な旅路」その2

ランページインコに襲われたフォルス達。果たしてこの危機を乗り越えられるでしょうか?

 群れを成しているランページインコ共はそれぞれが金色の闘気を身に纏っていた。

 その煌々とした光は美しく、生命の脈動する力そのものを象徴しているかのようだ。

 ただ悲しいのはその光は俺を祝福してくれるものではなく、炎天下でぎらつく日差しのように残酷だった。


「ハニー。どんな攻撃をしてくるかわかりますの?」

「悪いがさっぱりだ。基本的に鳥型の魔物の攻撃方法というのは主に鉤爪や嘴だ。接近されないように気を付けるんだ」

「わかった」


 鳥の魔物というのは妙に種類が多い。

 あまりにも種類が多いせいで名前を覚えるだけでも苦労させられた上、試験でも赤点を取った苦い記憶もある。

 そもそも、目の前にいる鳥が正しくはランページパロットという名称だったかもしれないのは内緒だ。


「ハニー! 魔法の予兆ですの!」

「なんだって!?」


 魔法を唱える際には詠唱が必要となる。

 人間相手ならばともかく当然魔物には魔物独自の言語があるので、その予兆を知ることなんていうのは高度な魔法使いでないと把握できないはずだ。


「魔法で防御しますの!」

「頼む!」


 プラノが素早い詠唱を終えると、光の壁が彼女の目の前に現れる。

 魔法を防ぐ手っ取り早い手段というのは、こちらもまた魔法を使って対処するというのが挙げられる。

 俺も一応簡素な防御魔法が使えない訳ではないが、如何せんレベルの差がある以上焼け石に水だ。


「ミキナちゃんも私の後ろに――え!?」


 プラノが声を掛ける前に、何を思ったのかミキナが敵の目の前に飛び出してしまった。

 

「ミキナ!?」


 呼び止める間もなく、爆音と共に荒れ狂う炎がミキナへ襲い掛かる。

 真紅の光は視界を埋め尽くすほどの勢いで燃え上がり、プラノの防御魔法越しでもその膨大な熱の量が伝わってくる。

 急いで助けなければ。

 だが、情けないことに足が竦んでしまい一歩も動くことが出来なかった。

 

「ミキナッ!」

「ミキナちゃん!」


 二人して大声で呼びかける。

 だが、懸命な叫びが無意味に思えるほどに炎は激しくうねり続けている。

 やがて、炎が収まると彼女の姿は――。


「え……」


 ミキナは無事だった。

 無事で何よりだ、という感想よりもどうして無事だったのかが理解できなかった。

それにしては、ミキナは傷一つ、いや髪の毛一本すら燃えていないのは不自然だ。


「ミキナちゃん! 大丈夫ですの?」

「うん。アンチマジックフィールドVer3.0があるから」

「お、おう」

「ちなみに私の標準装備の一つ」

「そ、そ、そうか……」


 並の人間が受けたならば間違いなく骨すらも残らない火力だ。

 アンチなんとかがどういうものかわからないが、ミキナが無事でよかったというべきか。


「しかし、敵をどうするかだが……」


 そう、まだ危険が去った訳ではない。

 次の魔法が飛んでくると思うと気が気ではない。

 だが、鳥達の様子がどうにも変だ。

 魔法の準備をしているかと思いきや、何やら苦しそうに見える。

 八割ほどの鳥の動きが鈍くなり、やがて地面すれすれまで高度を落とす他、中には地面に墜落するのも何羽か出てきた。


「な、なんだ?」

「アンチマジックフィールドの効果」

「魔法を防ぐだけじゃないのか?」

「Ver3.0だもの」

「そ、そんなものなのか?」

 

 機会があったら是非とも1と2の違いを教えて貰いたいものだ。


「でも、まだ元気な鳥さんがいますの」


 プラノが指摘する通り、まだ飛行可能な三羽が臨戦態勢を取っている。

 

「攻撃するか?」

「うん。散弾銃を出して。弾は――」

「わかった」


 急いでミキナに頼まれた物を心の中で念じる。


『リクエストを受理いたしました』


 声と共に散弾銃が俺の手元に現れる。

 それをミキナへと手渡すと、彼女は直立した姿勢で銃口をランページインコへと向けた。


「来ますの!」


 魔法による攻撃は無意味と悟り、鳥達はミキナへと突進してくる。

 飛行速度は何とか目で追いかけられるものの、直撃したら常人では耐えられない威力だろう。


「ハニーも散弾銃を使ったのを見たことがありますの」

「ああ。確かに弾がバラけるのは便利だが……」


 如何に強力な兵器といえども命中をしなければ無意味だ。

 そういった意味だと散弾銃は確かにはんどがんと比べると命中しやすい。

 だが――。


「――!?」


 ミキナが散弾銃の引き金を引いたのか、発砲音が響き渡る。

 しかし、鳥達は攻撃を中止して回避行動を取ったようだ。

 弾は命中しなかったのか、奴らはまだピンピンとしていた。


「やはりか……」


 散弾は貫通力がなく、近距離ならともかく遠距離であれば大した威力にならない。

 それも高レベルの魔物であれば余裕で耐えられるだろう。


「返すね」

「え?」


 ミキナは俺に散弾銃を返してくる。

 どういう意図かと思っていると――。


「ハニー。見てみて!」

「ぐげええええっ!?」


 首に猛烈な痛みが走る。

 プラノが俺の首を力づくで20度ほど曲げたせいだろう。

 あともう20度ほど曲げられたらやばかったかもしれない。


「ご、ごめんなさいですの!?」

「あ、あのな。人体は結構脆いんだぞ? って――」


 そこには先程攻撃を敢行してきたランページインコがいた。

 バタバタともがきながらも地面に転がっている。

 よくよく見てみると、それぞれの羽の一部が灰色に固まっていた。


「さっきの銃に込めた弾丸は、接触と同時に瞬間接着剤を巻き散らすものだったの」

「ああ。君が頼んだ『暴徒鎮圧用固着弾丸』の力か」

「うん。鳥さんは羽が動かないと飛べないもの。計算が大変だったけど」


 なるほど、わざと敵に回避出来たと見せかけて、その動きを封じるのが狙いだったか。

 ちょっと待て。計算というのは、鳥の回避行動とバラける弾や接着剤が付着する範囲のことを言っているのか?


「ミキナちゃんすごいですの!」


 プラノがミキナに抱き着いてキャッキャッとはしゃいでいる。

 微笑ましい光景だなと思っていると、遠巻きで様子を見ていたランページインコが一羽だけ逃げて行ってしまった。

 戦意を喪失すると金色の闘気が消えるらしく、これはこれで何気に大きな発見だ。


「これで何とか危機は乗り越えられたというわけか」


 近くで倒れている魔物を見てみる。

 気絶しているらしいが、まだ身体から微かに金色の闘気が放たれている。

 まだハイレベル化現象の影響を受けているようだ。

 そして、何気なく唱えてみる。


「チェック」


 すると、表示されたレベルは――。


「353か」


 まったく、どいつもこいつも可愛らしくないレベルだ。


「フォルスさん。急ごう」

「ああ」

「ハニー! 置いていますの~」


 やれやれ、元気なものだ。

 暫く歩きながらもプラノはミキナにこう質問する。


「でも、驚きましたの。プラノちゃんが一人で魔物の目の前に飛び出してしまうんですもの」

「ごめんなさい。でも、ああでもしなかったら、二人とも危なかった」

「確かに……。あの魔法による集中砲火は危険だったな」

「むう、今まで雑魚ザコ君だった魔物に集団で襲われるのがとても危険ですの」

「魔物の密集地帯は避けた方がいいな。それと、オモチャで遊ぶのもな」

「はーい」


 しかし、三人とも無事でよかった。

 これから先もなるべく魔物との戦闘を避けなければ。

 一刻程歩いていると、プラノがピタリと足を止める。


「どうした? また休憩か?」

「えっと……」

「おいおい、空腹か? メイル川まであともうちょっとだ。そこまでついたら休憩だ」


 いつもの彼女ならば俺の声にすぐさま反応してくれるのだが。

 プラノはぼんやりと遠くを眺めており、その顔は幽霊にでも出くわしたかのような恐怖の色で染められていた。


「プラノ?」

「フォルスさん。見て」

 

 ミキナが指さしたのは、ちょうどプラノの目線の先だ。

 目を凝らしてみると、何かが空から近づいてくるのが見えた。


「なんだ、ありゃあ?」

「段々と近づいてきますの」

「雲か何かだろ?」

「ち、ち、違いますの……」


 そんな馬鹿なと思い、暫く空を眺めていると、事の重大さに気が付いてしまった。


「あれは――」


 この旅はどうやら俺と死神の追いかけっこなのかもしれない。

 一難去ったら、次にまたとんでもないものを出してくる。

 少しは遠慮してくれればというのに、どうにもそこまで優しくはないようだ。


「あれは、鳥、なのか?」


 一対の翼を持ち、嘴と独特の目玉さえあれば鳥と呼んで差し支えないだろう。

 だが、雲と見間違うその巨体はどんなホラ話よりも笑えないものだった――。

一難去ってまた一難でしょうか。

まだどんな魔物かわかりませんが、フォルス達は無事に危機を脱することが出来るのでしょうか?


面白いと思いましたら、いいねやブックマークをしていただければ励みになります。


それでは今後ともフォルス達の活躍をお楽しみに。

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[良い点] 暴徒鎮圧用固着弾丸 イイネ [気になる点] 特に無し [一言] 未だシステムに慣れていず、返信に気づきませんでした。 有難うございます
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