竜の騎士、男装女子。
ベルキスさんとしばらく新しい竜の巣「パティ」で働くことになった。
とはいえ、アーデルさんと今回の事件を踏まえてあちこち飛び回るらしい。時々帰ってくるとは言ったけど‥。正直不安だ。不安だけど、一人暮らしをいずれするんだから、これを機に慣れなければ!!
しかも今日からは初めて会う竜の巣騎士団の騎士さん2人を早いとこ最深部まで連れて行けるようにしないといけないとか‥。神様、仏様、私は一般庶民ですよ?
それでもなんとか頑張らねば!と、拳を握って決意する私を、ベルキスさんは不思議そうな顔をしつつ新しい竜の巣まで一緒に歩いて行く。昨日の雨で少し道が滑りやすいから気をつけよう‥そう思った矢先、
「わっ‥!」
「ほら滑るなよ」
咄嗟に転びそうになった私の腕をさっとベルキスさんが掴んでくれた。
「す、すみません」
「気をつけて歩けよ」
小さく微笑むベルキスさんに胸がドキドキと鳴るけれど、いいかミヒロ!この人は「友人」だ!!「友人」!!
気持ちをなんとか切り替えて、坂を登ってふと下を見ると、竜騎士さん達が作った四角い建物が見える。昨日の雨が嘘のような晴れ渡った青空と、日の光で周囲がキラキラと光って見えて‥眩しいくらい綺麗だ。
「綺麗ですね‥」
「そうだな。こうして見る景色も綺麗だな」
「ベルキスさん、昨日の夜よくこっちに来られましたね‥雷すごかったでしょ?」
「低空で飛んできたから大丈夫だ」
「‥いや、十分怖いと思う‥」
昨日の雷は相当すごかったからな?
私なんて泣きながら逃げたからな?
本当に無事で良かった‥そう思ってベルキスさんを見上げると、面白そうに笑う。
「なかなかスリルはあったな」
「やっぱり危なかったんじゃないですか!」
本当にベルキスさんや他の竜騎士さんに怪我がなくて良かった。
私はホッとすると、ベルキスさんが面白そうに笑う。‥いや、笑い事じゃないからね?
「ベルキスさん、仕事になると無茶し過ぎでは?」
「逆にパートナーが危険なのに、無茶をしなくていつする?」
「そ、そ、それは、その‥」
契約結婚で「男」で「友人」の私にそこまで命をかけるのか‥?そうは思うけど、あの時ベルキスさんが来てくれていなかったら、私は確実に死んでいたと思うし、無茶してくれて良かった‥のか?
「‥今回、すごく助かりました。ありがとうございます‥。でも、無茶はしないで下さいね。あと、お仕事根詰めちゃダメですよ!有給2年分っておっそろしいんですけど?!」
ベルキスさんは、ははって笑うけど‥笑い事じゃないから!!
そんなに仕事を根詰めてやっちゃうベルキスさん心配なんだけどなぁ‥。いや、そもそも私も今日の仕事が大変心配だ。なにせ竜の巣のメンバーとはいえ初めて会う人達を少しでも早く最深部まで行けるようにしなきゃいけないし。
不安な気持ちが思い切り顔に出ていたのか、ベルキスさんが笑って私の頭をわしゃっと撫でる。
「‥大丈夫だ。竜はミヒロのことを信じている。ちゃんと最深部まで行ける」
「何をどうして信じてくれているのか分からないんですけど‥」
「竜は「心」を、深く見る生き物だと言われてる‥」
「心‥」
「優しいか、強いか、時に狡猾であるか‥」
「狡猾!??」
「正直だけでは生きていけない。知恵を上手く使う‥という意味の方だ」
「ええ〜〜〜??私、あんまり頭は良くないと思うけど‥」
ロアン君に時々、歴史の勉強でダメ出しされた私だよ?
と、ベルキスさんは意外そうな顔をする。
「竜の巣の周りに魔物を寄せ付けない草があるはずなのに、クチナシが大量に来たのをおかしいと思ったそうだな?」
あ、それね。
でもそれはラスカさんが異常っぽいって話もしてたから。
「大して戦えもしないミヒロが、竜の巣へ飛び込んでいったお陰で被害が抑えられたのは事実だ。竜の騎士として、ミヒロは十分戦った」
ベルキスさんのニヤッと笑う顔に、私は目を見開いた。
‥竜の騎士。
胸がジンと痺れて、胸が一杯になる。
この世界に来て、自分は何もできない。最深部に入れたのはたまたまだと思っていたけど‥。ベルキスさんに言われて、ようやく自分がこの世界でも出来る事があるんだと思えて、なんだか泣きたくなるくらい嬉しくなった。
「‥竜の騎士、ですか」
「そうだ。だが無理はするなよ。あと足元に気をつけろ。すぐ転ぶからな」
「‥すぐそうやって子供扱いする」
ジロッと睨むと、ベルキスさんは顔をくしゃっとさせて笑った。う、そうやって笑う顔も格好いいな。




