ピンチな男装女子。
ざあざあと雨足が強くなってきた真夜中にまさかのクチナシがこちらへ襲いかかってきて、流石の竜騎士さん達も慌てている様子だ。
「お前は家に入ってろ!」
ラスカさんにそう言われて、私は一瞬足がすくむ。
でも、以前クチナシが出た時って確か竜の出産を迎えている匂いに引き寄せられて来た時だ。ってことは、今もしかしたら出産を1人で迎えている可能性もある。
私はぎゅっと拳を握る。
「私は、竜の巣に行く」
「はぁ!?こんな時に何言ってんだよ?」
「でも、前も出産の時にクチナシは来た」
「そうだけど、それにしたってあの数は異常だ!危ない!!」
竜の巣で働いているラスカさんが言うんだ。
きっと今は異常なんだろう。
でも、あの時の苦しそうな赤い竜の顔が思い浮かぶ。1人で辛い思いをするのは‥、寂しくて、不安で、辛い。私はついおばあちゃんが死んだその晩、1人で家にいたのを思い出して胸がぎゅうっと痛くなる。
「そうかもだけど、行ってくる!!」
パッとラスカさんの脇をすり抜けて、竜の巣の丘へ駆け出す。
遠くでラスカさんが「バカ!戻れ!!」って叫んでるのが聞こえるけど、ごめん!無理!!だってやっぱり嫌な予感がするんだ。
確かロアン君が魔物が嫌う草が生えているから、竜は巣を作ったっていうのに、こんなタイミングで魔物のクチナシが出てくるっておかしいよね?!雨の中、丘を駆け上がり、チラッと後ろを振り向くと、クチナシが10匹は確実に見えた。アーデルさんや竜騎士さんが魔法を使っているのか、あちこちで光ってはドン!と鈍い音がする。
あっちはきっと大丈夫!
丘をゼイゼイ言いながら駆け上がって、入口の岩を退けて中を覗くけれど、走ってきちゃったからランタンはないし、足元が見えない。
「ど、どうしよう‥ランタン持ってくれば良かった!」
そう言った途端、キノがいつもよりも体を光らせてくれた。
「キノ!ありがとう!!」
「キュウ!」
足元を照らすようにキノが先に竜の巣に入って、私もそれに続いて中へ入って行くと、朝入った時と違って匂いがする?!
「え、なんで‥、どこから?!」
キョロキョロと周囲を見回して、匂いの元を探す。
「何、これ‥」
小袋が燃えている?!
一体これは何?
キノと一緒に小袋に近付いて、それを見ると燃えている袋の中から色々な草が見える。しかも、結構香りのきつい草だな。竜は香りを嫌うのに‥。
パチパチと火が小袋の中の乾いた草を燃やすけれど、周囲の竜達はそれを息を潜めるように見ている。これ、もしかして竜は苦手なのかもしれない!ポタポタと雨水が落ちている場所を見つけて、マントのフードに水をためて小袋に掛けると、ジュッと音を立ててようやく火は消えた。
その間もドクドクと心臓が鳴って、奥の竜の様子を見に行きたいけれど、この小袋をまず外へ出してからにしようと思って、小袋を持って竜の巣から出てきた途端、黒い人影が私を見て驚いた顔をしている。
「え、だ、誰?!」
「テメェ‥」
あ、これ、ヤバイやつだ!!
急いでロアン君のくれた魔除けならぬ、痺れ薬の小袋をこちらへ駆け寄ってきた人の顔にぶち撒けた!
「うぁっ、な、なんだ、こ、れ‥」
男の人らしきその人は顔を掻きむしったかと思うと、倒れてしまった‥。
ロアン君の薬の効能、凄すぎない?と目を丸くしたけど、この人誰!?よく見てみると、服は隊服ではないし、全体的に黒っぽい。これはアーデルさんやラスカさんにすぐに知らせた方がいいかもしれない。
「また下へ走っていこう、キノ!」
そうキノに話した途端、バキバキと下から何かが這い上がってくる音が聞こえる。
「え‥」
一匹の大きなクチナシが大蛇の姿になって、こちらをじっと睨みつけている?!な、なんでこっちにいつの間に来たんだ?!足がガクガクと震えて、ロアン君の作ってくれた目潰しの薬を手に握るけど‥。
神様、仏様、私の人生はもしかしてここで終了ですか?!
ザアザアと雨音が強くなるその先にじわじわと近寄ってくるクチナシが怖くて、私は気が遠くなりそうだった。




