言えない男装女子。
とりあえず普通に接してくれれば、過剰にからかわないと約束してくれたアーデルさん。頼むぞ!!私はその言葉、信じてるからね!!握手をしてから、私を面白そうに見つめるアーデルさん‥。
「女の子なのはちゃんと黙っておくね」
「!!!ちょ、そう大きな声で言わないで下さい!!!」
「こんなに可愛いのに、よく皆気が付かないね」
「‥‥そういうお世辞は結構です」
アーデルさんは私の言葉に片眉を上げて驚くけど、
最早アーデルさんまたからかってくる気か?と思って、素直に喜べないんだ。乙女心だけはちょっとウキウキしてるけど‥。でも落ち着いて、あの人ちょっと怖いから。
と、ドアがノックされて返事をするとベルキスさんが入ってくる。
「ミヒロ、書類を‥」
ベルキスさんは言いかけて、私とアーデルさんがいるのに驚いて目を丸くする。あ!!報連相をしたい人ーー!!!そして何より安全地帯!!急いでベルキスさんの方へ駆け寄る。
「はい!!なんでしょうか!!!」
「‥書類を渡しに来たんだが、こっちにサインを頼めるか」
「はい!!喜んで!!」
どっかの酒屋のような言葉を言って、ベルキスさんを見上げる。
できれば「ここ」にいてくれ!!アーデルさんが去るまで「ここ」にいてくれ!!アイコンタクトを送ると、ベルキスさんはちょっと考え込んだ顔をして、
「‥何か分からない事、あったか?」
「あります!!山盛りあったんで、ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
「え、僕も付き合おうか?」
「いえ!!アーデルさんは今日移動してきてお疲れでしょう!!ゆるりとお休み下さい!」
「ええ〜〜、じゃあそこのソファに座って休ませ貰うね」
「ううううううううううう〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
テコでも動く気ないな!!!
やっぱりからかう気満々だな!!
いや、冷静になれ私!そう思っていると、ロアン君が部屋に戻ってきて、一瞬顔が固まったがすぐに笑顔になる。
「これはアーデル様。来て早々でお疲れではないですか?お茶を淹れますが、いかがです?」
「ああ、それはいいですね」
「それではすぐご用意しますね」
ロアン先生ーーーーーーー!!!
その切り替えテクニックすっごいな!感心していると、ロアン君は私とベルキスさんを見て、
「すみません、ミヒロさん。食堂からティーセットをお願いできますか?」
「それなら、俺も一緒に行こう」
「ベルキスさん、お忙しいのにありがとうございます」
すっご!!
流れるようにベルキスさんが付いてきてくれる!
これで歩きつつ相談もできる!!
私はロアン君の方をもう一度見ると、にっこり笑って「お願いします」というので‥、お願いされます!!!
私はベルキスさんと意気揚々と食堂へ飛び出す。いや主に私だけ?
部屋の扉を閉めてから廊下を少し歩き出すと、私はベルキスさんを見上げる。
「あの!ベルキスさん!さっきは勝手に一緒に行くって言っちゃってすみません!」
「え?」
「まだ新米なのに‥。ベルキスさんやフィクトルさんに相談してから言うべきだったのに‥。とにかく!勝手にすみません!!」
頭を勢いよく下げると、ちょっとの間があって‥。
あ、もしかして‥、ベルキスさん物凄く怒ってる?そう思ったら、ちょっと怖くて頭を上げるのを躊躇っていると、わしゃっと頭を撫でられた。
「‥顔を上げろ。別に怒ってない」
「‥本当ですか?」
「じゃあ、顔を上げて確認してくれ」
そろっと頭を上げると、頭に置かれた手がそっと頬を撫でるように掠めた。
その事に驚いて頭を起こすと、ちょっと眉を下げて微笑むベルキスさんが立っていた。‥うん、怒ってない。ホッと息を吐くと、ベルキスさんは可笑しそうに笑う。
「‥俺は、そんなに怖いか?」
「いえ!!優しいです!たまに騙すけど。‥ただ、今回はちょっと勝手をしちゃったかと思って」
「‥昼のアーデル殿のやり取りではミヒロが断るのは難しいだろうな」
「そ、そうですね」
アーデルさんの名前に、思わずギクリと体が強張る。
どうする?ベルキスさんに女だとバレたと話すか?そう思っていると、ベルキスさんが私の頭をわしゃわしゃと撫でて、小さく笑う。
「‥パートナーなんだ。何かあればいつでも相談してくれ」
い、言えねぇーーーーーーー!!!!!
こんな親身になってくれるベルキスさんに言えねーーーー!!!
迷惑を掛けない!と決めた側から色々トラブルが舞い込んでいるけど、これ以上ベルキスさんを困らせたくない。私は苦悶の表情を浮かべながら、なんとか頷いた。
ごめん、ベルキスさん。
もうちょっとしたら話す!話すから!!そう思いつつ、頭に置かれた手の温かさになんだかやっとホッとしたのだった。




