スピード結婚!男装女子。
フィクトルさんと呼ばれた人は、この騎士団の団長さんらしい。
驚いた顔をしたまま棚から結婚許可書を出して、ベルキスさんに渡すけど‥。
一世一代のイベントなのに、そんな簡単に渡さないでくれ〜〜!!!そう叫びたいけれど、私は一年ひとまず仕事と寝床ゲットの為に言葉を飲み込んだ‥。
「ベルキス、本当に結婚するのか?レイノル様は皇女だぞ?」
「‥15も下のお姫様はどう考えても無理だ」
15も下かぁ。
ありっちゃあアリだけど、ベルキスさんそういえばいくつなんだろ。
フィクトルさんから書類を受け取って、そのまま羽ペンを借りてサラサラと書き出すベルキスさんの手元を見る。
「‥ベルキスさん、つかぬ事をお尋ねしますが今おいくつで?」
「28だ」
ってことはレイノル様だっけ?は13歳か!!
それは確かに無理かもなぁ‥。とはいえ、私だって19歳だけどアリなのか?あ、男だからどうでもいいのか、と自分で言っては虚しい‥。ちょっと虚無の顔をしている私を気にする事なくベルキスさんが私を見上げる。
「ミヒロ、名前をここへ書け」
「え、でも私の世界の言葉でしか書けませんよ?」
「大丈夫だ」
「え、もしかして異世界の子なの?大丈夫?ベルキスに脅されてない?」
多分バチバチに脅されてます。
団長さんにそう言おうかと思ったその瞬間、ドタドタと足音がして、ドアがバン!!と大きく開かれる。ラスカさんが息を切らせて部屋へ駆け込んできた??!
「ベルキスさん!大変っす!!レイノル様が結婚するって聞きつけてこっちに!!」
「っ!ミヒロ、今すぐ名前を書け!!」
「え、えええええ???!」
そんな結婚ある?!!
そう思ったけど、私はとにかく指さされた所に名前を書いたり、生年月日を書き入れる。もう急げ急げと急かされるので、乙女のある意味一大イベント結婚届を照れながら書くなんて夢はゴミ箱行きだ‥。
「か、書けました!!」
「フィクトル!!受理印を押せ!!!」
「こ、ここね!!は、はい!!受理ぃいいい!!!!」
大きな判子をポンと押された途端、ドアがまた大きくバタンと開かれた。
そして、ドタドタと黒い隊服に身を包んだ男性に囲まれて、その真ん中にいた茶色の長い髪を編み込んだ綺麗な少女が息を切らせて部屋へ入ってくる。あ、もしかしてレイノル様ってこの子?
「ベルキス!!結婚をするのは私とでしょう!?」
「‥恐れながらレイノル様、私はこちらの者とたった今結婚をしました」
グイッと肩を抱かれて、私の乙女心が暴発しそうになる。
「はぁ!??そんな貧相な男と!!?」
瞬間、砕け散ったぜ。私の乙女心。
ベルキスさんは私の顔を見て、ニコッと笑ったけど、これは新婚ホヤホヤの微笑みでなく「バレなかったな」という悪だくらみのような笑みである。泣きたい。っていうか、絶賛乙女心は号泣中である。
茶色の長い髪をした美少女は私を見上げて、
「お前!今すぐベルキスと離縁なさい!そうすれば許して差し上げますわ!」
「そ、そんな‥」
それは無理〜〜!!
だって結婚しちゃったし、それに私の仕事と寝床の確保の為に離婚はできない。私は覚悟を決めた。私は男‥。貧相だけど、まぁ兎にも角にも結婚した男。
ゆっくり顔を上げて、お姫様を見てにっこり微笑む。
「な、何、余裕のつもり?!」
「いえ、可愛らしいレイノル様に会えてとても緊張しています」
「ふ、ふん!!そんな言葉を言ったって‥」
「こんなに愛らしい姫にベルキスさんは愛されていたなんて、羨ましいです」
「な?ななな‥」
皇女様とかお姫様とか言われようと、まだまだ可愛い女の子!
甘い言葉には耐性はあまりないようだ。
と、ベルキスさんが私の手を取って、じっと熱っぽく見つめる。な、何??なんですか???
「‥ミヒロ、そちらを見ないでくれ。妬ける」
「っ‥!!!!!!!」
瞬間沸騰機も真っ青なくらい、一瞬で私の顔が真っ赤になった。
な、な、何をおっしゃっているのやら〜〜〜!!??あ、でもそれって女の私としてじゃなくて、男としてですよね?泣ける!!その事実に泣ける!!
レイノル様もベルキスさんの様子に真っ赤になっているけど、こ、これ、すっごい怒ってるんじゃないの?焦った顔でチラッとそちらを見ると、恥ずかしそうに俯いた。‥結婚しようって迫っているのに、結構ウブな感じなんですね?姫!!
っていうか、神よ仏よ、どっちか助けてくれーーーー!!!!