心臓がもたない男装女子。
私が貴族のおじさんに絡まれている間に、女性にまとわりつかれていたベルキスさん‥。なんとか撒いて、飲み物を急いで持ってこちらへやって来てくれた。来てくれたけど‥。
「ミヒロ、大丈夫だったか?!」
「べ、ベルキスさん‥」
心配そうに私を見てから、ベルキスさんはアーデルさんの後ろ姿を見る。
一方の私は内心冷や汗がナイアガラを超えた。
滝汗じゃない!豪雨だ!!もう汗が局所的豪雨!!!
どうしよう!!!女だって、見破られた!!!!???
いつ??!きっかけあった?ただ一緒に竜に乗っただけでバレるの?聖竜騎士団優秀すぎない?!皆、ずっと私を「男」として認識してたのに、なんで、どうして、ここにきて??!もういっそこのままぶっ倒れたい!そう思ったけれど、そうもいかない‥。だってレイノル様と踊るし?!
ベルキスさんにすぐに相談したかったけど、いや、待てよ?
そもそも聖竜騎士団って、ものすごく偉くて、一般の竜騎士団はほとんど関わりがないってロアン君、言ってたよね‥。パーティーに誘われただけのペーペーの私なんてそれこそまた会う機会はないだろう。なにせ5ヶ月後にはベルキスさんと別れて、一般庶民に戻るんだし?
じゃあ、大丈夫‥かな?
うん、多分大丈夫だと思う!
だってきっともう会わない!そう思っているのに、胸の奥から焦りと不安がどんどん湧き出してきて‥、いてもたってもいられなくて胸元の飾りをギュッと掴むと、
「ミヒロ、やはり気分が悪いのか?」
ベルキスさんが私の顔を覗き込むように見つめてくるので、私は驚いて「ヒョエ?!!」って変な声が出た。イケメンのドアップ、マジで心臓に悪い。
「だ、大丈夫です!」
「本当か?顔色が悪いぞ」
「き、気のせい!気のせいです!!」
ベルキスさんから飲み物を受け取って、一気に飲んで一生懸命大丈夫だと自分に言い聞かせる。‥これ以上、ベルキスさんに迷惑を掛けたくないし、責任を負わせたくない。
半年の仲とはいえ、今日の為に色々用意してくれて、教えてくれて、これ以上迷惑を掛けられない。ベンチに座って、ヘラっと笑ってベルキスさんを見上げると、ベルキスさんは口を噤んで私をじっと見下ろす。
「‥ミヒロは、」
「はい?」
「‥アーデル殿のような方が‥」
「へ?!アーデルさんがどうかしましたか?!」
やめてーーー!!!
今、聞くと心臓にものすごい悪い名前を出さないでえええ!!
慌ててキョロキョロ周囲を見るけど、姿はもう見えないし、周囲にいた人達もまたどこかへ行ったようだし、だ、大丈夫?大丈夫だよね??小さくホッと息を吐いて、
「ちょっと今はその名前は聞くと、心臓に悪いかも‥」
「!何かあったのか?!」
「いえ、むしろ助けて貰ったというか‥」
「助け??!」
「貴族のヒューさんって人に絡まれて、追い払ってくれた‥のかな?」
ベルキスさんは私の言葉を聞いて、眉間にしわを寄せる。
あ、イケメンがそんな表情すると、ちょっと勿体無いぞ?
「‥すまなかった。もう、今日はずっと側にいる」
「それは有難いです。もうずっといて下さい」
「‥っ、そ、そうか」
なにせ今日は私一生分の勇気を使い果たした気分だ。
でも、これからダンスもあるんだろ?
もう勇気は枯渇しちゃうと思う‥。
と、私の隣に座ったベルキスさんが私の頭をわしゃっと撫でる。
「?ベルキスさん??」
ベルキスさんを呼んだけど、返事を返す事なく私の頭をわしゃわしゃと撫で続ける。ん??どうかした?もしかして、ベルキスさんも緊張してるの?
顔をちょっと上げて、ベルキスさんを見上げると、ベルキスさんはちょっと真面目な顔で私を見る。
「‥踊っておくか」
「はぁ??」
「練習だ。レイノル様と踊る前に練習しておこう」
「い、今ですか?」
「嫌なら別に‥」
「踊ります!!もうとりあえず動いておきたい!」
踊る阿呆になんとやら‥だ!!
もうこの際踊って、この不安から逃げたい!!
ベルキスさんを拳を握って見上げると、ベルキスさんは小さく笑って飲み物のグラスをベンチに置くと、立ち上がって、私に手を差し出す。
「一曲、お相手お願いできますか?」
ニヤッと笑いかけられて、私の乙女心が飛び上がった。
いや、私も飛び上がりそうだった。
しかし、今は「男!」「契約中!」「友人!」あと今さっき加わった「迷惑を掛けたくない」相手!!!
ぐっと、色々な感情が飛び出しそうなのを無理やり押し込めて、私はベルキスさんの手に手を重ねると、ひょいっと引っ張られて、腰に腕を回されたので、心臓が確実に止まった。イケメンは心臓に悪すぎる‥。
一度だけダンスに誘われた事あるんですけど、イケメンはね
本当に心臓に悪い。私は逃げたよ‥(ヘタレ)




