叫ぶ男装女子。
ベルキスさんの条件付き求婚にぶっ倒れそうだ。
しかし、身一つでこの世界へ来てしまった者としては、仕事と寝床は切実に欲しい。
急な結婚宣言に、私もだが銀髪の青年も驚きを隠せない様子だ。
奇遇ですね、私もそうです。
「な、だ、誰と結婚を!?」
「こいつだ」
「はぁあああ!!?お、男ですよ!?」
グサッと言葉の棘どころか槍が心に深く突き刺さる。
いや、まぁ、確かに男によく間違われますけど、明るい所で見れば違うかな〜って思ったのに、まさかの一刀両断!私の乙女心!息をして!!
ベルキスさんは私を見て、ニヤッと笑う。
「大丈夫そうだな」
「私の心はバキバキに折られたけど、そのようですね‥」
「ベルキスさん、そいつなんなんスカ?!」
「異世界人だ。竜の巣の最深部に落ちてた」
「竜の巣の最深部に!?」
「‥竜が追い出さないって事は、人間としての安全は保証されてる」
ベルキスさんの言葉に銀髪の青年は苦々しい顔になるけれど、竜への信頼感はどうも絶大なようだ。銀髪の青年は私をジロッと見る。
「‥それで、結婚してレイノル様を黙らせるって事ですか?」
「冴えているな。今日もう式だけ挙げる。そうすれば静かになるだろ」
でもそいつ男ですよね!?って言われるけど、私は女。
19年間女を営んできたんだよぉおおお!!!
とはいえ、仕事と寝床の為に私はグッと叫びたい衝動を堪える。と、ベルキスさんの大きな手が私の頭にポンと乗せられる。
「ミヒロ、ひとまず式を挙げるぞ」
「‥ある意味一大イベントなのに、そんなちょっと出かけるぞみたいな調子で言われるとは思いもしませんでした」
私がそう呟くと、ベルキスさんはおかしそうに笑ってピュウッと首元に掛けてあった小さな角笛を吹く。
角笛?
不思議に思っていると、ふっと足元が影になる。
「あれ?」
上を見上げると、ものすごく大きな黒い竜が頭上にいる!??
驚いていると、竜はベルキスさんの前にぶわりと舞い降りて、私はその風圧によろけそうになる。と、ベルキスさんが私の腕をさっと捕まえてくれて、立たせてくれた。
「りゅ、竜??!!!」
た、食べられちゃわない??驚いている私をよそにベルキスさんは黒い竜の方へと歩いていく。黒い固そうな鱗に覆われた大きな竜は、ベルキスさんと同じ金の瞳をしていて、私をジッと見つめる。や、やっほ〜、私は男だよ!!!必死に心の中で思っていると、ベルキスさんは黒い竜を見て‥、
「こいつはディー。俺の相棒だ」
「ものすごい相棒ですね‥」
「ディー、こいつと結婚するから何かあれば頼むぞ」
でぇえええええ!!!宣言しちゃうの?!
黒い竜のディーは私をジッと見つめたかと思うと、のっしのっしと近付いてきて、大きな顔を私の方近付けてふんふんと匂いを嗅ぐ。お、男だよ〜。女じゃないから噛まないでね!!!と、ヒヤヒヤしながら固まっていると、ディーは私の顔をベロッと舐めた。
「え、えっと???」
「‥珍しいな、ディーも気に入ったようだ」
「よ、良かった‥」
「そうだな。これで移動も楽だ」
「移動???」
私が聞くと、ディーは「キュゥウ!」と鳴いて、前足で私とベルキスさんの体をそれぞれガシッと掴む。な、何事!!??
「ディー、騎士団まで頼む」
あっさり言い放つと、ディーは大きな翼をはためかす。
も、もしや飛ぶの!??飛んじゃうの!???私はもう片方の手に掴まれているベルキスさんを見ると、小さく頷く。ま、マジか!!マジなのかーーーーー!??
「ラスカ、後でな」
「ベルキスさん!??」
銀髪の青年はラスカって言うのか。
そう思った瞬間、勢いよくディーは空を飛び上がった。
「どわぁああああああああああ!!!!!!」
「ディーは飛ぶのが上手だし、落とさないぞ」
「そ、そんなことを異世界に来て、初めて竜に出会って、初めて飛ぶ人間に言われても!!!」
私の叫びにベルキスさんはちょっと驚いた顔をする。
私の世界にはそもそも竜はいないんじゃぁああああ!!!!と、絶叫と共に青い空一杯に響き渡った‥。
ラスカさん曰く「あの乗り方できるのベルキスさんだけ」だそうです。
普通の竜騎士でも怖いそうです。あしからず。