トイレ問題と男装女子。
魔物が竜の卵を狙う事もあるので、見回りをするというベルキスさんの説明通り、あれから何度か魔物が出てきては剣であっという間に斬っていったけど‥。
神様、仏様、私にはこの仕事無理だと思います‥。
思いの外ハードな世界を見て、私はぐったりしつつベルキスさんと手を繋いで竜の巣の中を歩く。一方のベルキスさんは平然とした顔をしている。流石だな‥全然動揺してない。
ゴツゴツとした岩の道を手を繋ぎつつ歩きながら、涼しい顔で竜のチェックをしている。騎士さんってすごいわ。
「‥こんなハードな環境でよく12年も働いていましたね」
「まぁ、慣れてしまえば竜の巣は快適だ。竜も色々教えてくれるしな」
「そう言えば、さっき会話とかしてました?」
「まぁ、会話は出来ないが意図は汲めるな」
「す、すごい‥」
なんか会話してる?って思ったけど、やっぱりそれなりにお互い意思疎通をできるって事か。こんなすごい仕事、私ごときができるのだろうか?不安に思っていると、ベルキスさんが私の手を握る。
「さっきの水色の竜、ミヒロが穴の中を見ても怒らなかったろ?」
「は、はい‥」
「ラスカは未だ警戒されるんだ」
「え?!そうなんですか?」
でも、私が警戒されなかったのは、ベルキスさんと一緒にいたからじゃないの?
「竜は誰といようが、警戒する奴には警戒する。ミヒロはどの竜にも警戒されない。それもある意味才能だ」
「才能‥」
‥これってもしや励ましてくれてる?
私はベルキスさんを見上げると、小さく微笑む。
あ、やっぱり励ましてくれているんだ。
不安もあるだろうけど、竜に好かれてるから心配ないって事かな?
すぐに私を騙してからかうくせに、そういう優しさ‥ちょっと反則じゃない?そう思うけど、まぁこれは友情だからな。乙女心は「ふっくざつ!」って叫ぶけど、安心してくれ。同じ心境だ。
「‥ありがとう、ございます」
「ああ。さて、全部周り終えたし、入り口に戻るか」
私が静かに頷くと、ベルキスさんはそのまま手を繋いで入り口まで歩いてくれた。くそ、優しいかよ。ちょっと照れ臭いけれど、まぁ初日だからサービスだ、サービス。扉の前に着くと、パッと私から手を離す。
「今日はありがとうございます。明日からはちゃんと一人で歩きます」
ベルキスさんを見上げてきっぱりとそう言い切ると、ベルキスさんはちょっと目を丸くしてからニヤッと笑う。
「そうこなくはな」
「これでも男子として雇用されましたしね」
「‥そうだったな」
クスクスとベルキスさんは笑って、木の扉をグッと押して開けてくれた。
「今日はお疲れさん。一旦お昼を食べたら、午後はマナー講座だぞ」
「そ、そうだったぁああああ‥」
マナー講座なんて私に出来るのだろうか?
ちょっとげんなりした気持ちで私は竜の巣から出るけれど、チラッと後ろの洞窟を見る。明日もよろしくね!そう思って扉から出ようとすると、何か遠くでキラッと光ったのが見えた。
星竜かな?
なんだか流れ星みたいで綺麗で‥。明日がちょっと楽しみになった。
バタン‥と、大きな音と共に扉が閉められて私はまたベルキスさんの背中を追いかけて歩いていく。ベルキスさんは芝生が広がる演習場を歩きつつ、私をチラッと見る。
「竜の巣の中のことは、基本他言無用だ。異常があれば俺かフィクトル、ラスカに話してくれ」
「はい。あと気をつける事はありますか?」
「必ず俺と一緒に竜の巣に入る事。非常事態の時はすぐ出ろ」
非常事態?そんな事起きるの?
私はベルキスさんの背中を見上げると、足を止めて私を見るので、ドキッとしてベルキスさんに尋ねる。
「あの、非常事態って‥」
「‥トイレの報告は早めにしてくれ」
「そ、そっち??!!」
「だが大事な事だ」
「そうですけど!!そうですけど!!?」
「いざとなったらディーを呼ぶ」
「ううううう、その際にはよろしくお願いします???」
そうでしたね、竜の巣にはトイレなんてないですもんね!
匂いがきついのを嫌うって言ってましたっけね!
今日は全然意識してなかったけど、確かにトイレ問題は死活だな。明日はちゃんとトイレへ行っておこうと誓ったけど‥、仕事初日ってこんな感じでいいのかな?
トイレって大事だよね。一応ポイント毎にトイレは設置してあるけど、
ミヒロは女の子なんで配慮してくれてます。




